Index Top

Blue Liquid エピローグ


「おはようございまス。ご主人サマ」
 ベッドの傍らに立ったルク。昨日と同じワンピース姿。
 朝の七時。起床の時間だった。窓の外は相変わらずの薄曇り。台所の方から漂ってくる美味しそうな匂い。久しく食べていなかった、まともな朝食だろう。
 だが、サジムはベッドに突っ伏したまま呻いた。
「腰が抜けて、動けない……」
 昨夜の情事の後、十分ほどルクとお喋りしてから、身体を拭いて気絶するように眠りについた。いつになく疲れていたと記憶している。ついさっき目が覚めたら、身体が動かないことに気づいた。
「でも、無理すれば何とか……!」
 自身に気合いを入れ、両手をついて起き上がる。動かないと言っても、全く動かないわけでもない。ただ、自分のものでないような全身の筋肉。
 一分ほどかけてベッドに腰掛けた体勢に移る。
 サジムは大きく息を吐いた。
「力が入らない……」
 赤い眉を寄せて、自虐的に笑う。今日一日はまともに動けないだろう。
 心配するように眉を傾けるルク。
「大丈夫、ですカ?」
「……大丈夫じゃない。だから、昨日の夜みたいなことは二度としないでほしい。君の好意は本当に嬉しいけど、親しき仲にも礼儀ありだ」
 子供に言い聞かせるように、注意する。昨晩は多少酔った勢いもあったが、本来ならこのようなことはするべきではない。相手が人間だろうと人間以外でも。
 次に誘ってきても、断る決意はできていた。
「分かりましタ」
 肩を落として、残念そうに答えるルク。これ以上言っても折れることはないと分かったらしい。主人相手に我儘を言ってはいけないことは理解しているだろう。
 しかし、完全に諦めたわけではないようだった。
「でも、ワタシが何かご主人サマの喜ぶようナことができたラ、ご褒美としてまたワタシと交わってくれますカ?」
「ダメだって……」
 サジムは首を左右に振る。
「ご主人サマのケチ」
 ルクは目蓋を下ろして、そう言った。

Back Top Next