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後編 無茶な好奇心


「それでは、どうぞ」
 サジムの横を通って、ぱたりとベッドに倒れるルク。
 青い髪が広がり、大きな胸が一度揺れる。両手両足を微かに広げ、全身から力を抜いていた。ベッドに寝るのは苦手と言っていたが、短時間なら平気なのだろう。
「何やってるの?」
「こういうもノは男の人がリードするものらしいでス。ワタシもよく知りませんシ。どうぞ、本能の赴くままグワっと襲って下さイ。飢えた獣のようニ」
 淡泊な表情のまま、妙な比喩を口にする。
「そ、そうか?」
 腑に落ちないものを感じながらも、サジムは両手を伸ばした。このような場面は生まれて初めてだが、何かが色々と違うような気がする。
 とりあえず、両手でルクの胸に触れる。サイズはかなり大きい。
 柔らかな生地の手触りと、指を押し返す弾力。ゼリーかグミのようだった。人間とは違うだろう。指を押し込むと、その分押し返してくる。
「どうでスカ? 私の胸の手触りハ?」
 緑色の瞳を動かしながら、ルクが口を動かした。
 返答に困って、サジムは視線を逸らす。ひどくズレたことをしている予感がしていた。場合によっては明日後悔するだろう。多分、手遅れだ。
 むにむにと胸の形を変えながら、
「普通かな? それより、ルクはどうだ?」
「うぅん、なんか変な、感じでス」
 少し詰まったような返事と、どこか困ったような表情。人間の女が感じた時のような反応である。演技ではないだろう。
「気持ちいいのか?」
 手の動きを止めて尋ねる。実のところ、ルクが性感を覚えるとは思えない。スライムに性感も何も無いだろう。今も半分以上ノリでやっているのだが――
 ルクは居心地悪そうに肩を動かしながら、
「えッと、ワタシ本を読んで気持ちよくナルように、自分で性感神経を作ってみましタ。でも、これ、気持ちイイんですカ……? 何だかワタシが思ってたのと違ウ……。スゴク身体がぞくぞくしまスヨ……?」
「そう、か……」
 サジムは頷いた。じっとりと背中に汗が滲む。口の中が乾き、喉の奥から焼け付くような熱がこみ上げてきた。固くなる下腹部。我ながら現金なものである。
「なら、好きにやらせてもらうけど、いいかい?」
「ハイ。ご主人サマのために働くのが……ワタシの仕事ですから。ご自由に……どうぞ。もっと乱暴にしても大丈夫ですヨ。ワタシ、頑丈ですから――」
 目蓋を少し下げて、ルクはぎこちなく微笑む。
 何も言わずに、サジムは再び胸を弄り始めた。今までのように遠慮はせず、両手でやや乱暴に。両手の指を不規則に動かして、胸の形を変えていく。半液体の身体のため、面白いように自在に形を変える大きな膨らみ。
「ご主人サマ、とっても……気持ちイイです。ん……」
 何かを耐えるように、ルクは両太股をすりあわせていた。
 サジムは右手を胸から放して、頭の後ろに回した。上半身を少し起こしてから、青い透明な唇に自分の唇を押しつける。胸を触る左手はそのままで。
「ん、ふぅ……」
 喉から漏れる息。柔らかく滑らかで弾力のあるルクの唇。
 唇を触れさせるキス。どちらも経験がないため動きは拙いものだが、それでも必死に口付けという行為を味わう。
「んん……」
 ルクが差し入れてくる舌に自分の舌を伸ばし、お互いに絡め合わせた。舌先に感じるのは、弾力のあるガラスのような舌触りと微かな甘さ。自分はゼリーみたいで美味しいと言っていたのも、あながち冗談ではないだろう。
 しばらく口付けを味わってから、サジムは唇を放した。
「うぅ、キスって凄い、ですネ……。身体が痺れますヨ」
 目蓋を下ろしながら、ルクは舌を口に戻す。
 胸を触る左手の平に感じる突起。
「……服脱がすぞ」
「はい」
 目蓋を半分下ろしたままルクが頷き、脱がしやすように両手を上げた。
 サジムはワンピースの裾を掴み、上へと引っ張る。少し引っかかるとも思ったが、するりと滑るように脱がすことができた。着ているものはワンピース一枚。
 裸体を晒し、ルクが視線を背ける。 
「ちょっと恥ずかしいでス」
「それより、形きれいになってない?」
 濃い青色の髪と緑色の瞳、透き通った青い身体、胸の奥に漂う赤い球体。最初見た時はマネキンのような粗い造形だったのだが、いつの間にかに驚くほど人間に近づいていた。よく見ると手足も以前より精巧になっている。
「ご主人サマの書斎にあった本を読んデ、人間に近づけてみましタ。どうでしょウ、気に入ってイただけましたカ? 結構自信あるんですガ」
「よくやるよ……」
 他人事のように笑ってから、サジムはルクの両腕を掴んだ。振り払われないように。弾力のあるガラスのような感触。やはり人間とは違う。
「どうするつもりデスか?」
 ルクの問いには答えない。
 胸の奥が熱くなるものの、サジムは気合いで誤魔化した。頭が沸騰したように熱い。さきほど飲んだ酒のせいではない。だが、今更止まるわけにもいかない。
 青い首筋に舌を走らせる。
「ん……」
 両手を握り閉めるルク。人間と同じような反応。舐めてみると実際に分かる皮膚の滑らかさと、微かな甘さ。甘味の薄い水飴のような味だった。
「ナンだか、ふあっ……ワタシおかしい、でス、ヨ……?」
 舌の動きと自分の反応に、ルクが戸惑いを見せる。
 さきほど性感神経を作ったと言っていた。疑似骨格なども作っているし、人間と変わらぬ動きからするに筋肉部分も作っているだろう。思いの外精巧に人体を模倣することができるらしい。さすがは、フリアル先生。
 冷静な部分でそんなことを考えながら、サジムはルクの首筋や肩を一心に舐めていた。
「ん、あっ、ご主人サマ……そんなに嘗めないで、下さイ」
 首を左右に動かし、ルクは腕を動かそうとしている。
 サジムは一度舌を放し、苦笑いを見せた。
「さっき好きにしていいって言ったじゃないか」
「そうですケド……」
 緑色の瞳を動かしながら、ルクは不満そうに口元を曲げる。
「なら、好きにさせてもらうよ」
 可能な限り冷静に言ってから、サジムはルクの胸に口を近づけた。青く透き通った丸い膨らみと、微かに色の濃い胸の突起。それを口に含む。再び感じる微かな甘さ。
「んぅ……!」
 ルクが震えた。ゼリーのように微かに波打つ青い身体。予想していた通り、首筋などとは感じ方が違う。胸には性感神経を集めているのだろう。
 しかし、かまわずサジムは唇と舌を動した。
「あれ、んぁ。オカシイでス、ん、本当ニ。ワタシ、んん、何だかヘンでス……あ、何だか身体が、ふあぁ、言うこと……聞いてくれません、んんっ、ぅぁ」
 視線を泳がせ、ルクは小さな声を上げる。感覚が分からず強めに作ってしまったのか、自分で想定した以上に性感神経が過敏らしい。
 舌先に感じる乳首を前歯で甘噛みしながら、サジムは右手をもう一方の胸へと持って行く。人差し指で乳首を押し込むように弄り始めた。
「……待って、ご主人サマ……。身体が熱イ、痺れる? あっ、んあぁ、ふああッ!」
 なすすべもなく、ルクが跳ねる。今までの違う大きな痙攣。
 サジムは一度動きを止めた。呼吸が震えているのが自分でも分かる。心臓の鼓動が鼓膜まで届いていた。肩で息をしながら、確認する。
「イっちゃった?」
「はイ……。思っていタよりも、ずっと気持ちよくテ」
 空笑いとともに、ルクが答えた。
「それはよかった」
 自分でも的外れなことを口にしていると思う。
 熱でも出たかのようにも頭が熱い。サジムは左手を横に伸ばした。ベッドの傍らに置いてあった水差しを手に取る。ガラスの水差しと一リットルほどの水。コップも使わず飲み干していった。ぬるい水が、喉の渇きをかき消す。
 水差しを戻して、一息ついた。
「大丈夫デスか? ご主人サマ」
「大丈夫だ……。何ともない」
 心配してくるルクに、空元気を返す。ここまで来ては、男として止めるわけにはいかない。ルクの好意を無駄にするのも嫌だった。
 サジムは右手を下ろし、右手をルクの足の付け根に触れさせる。
「ひっ……」
 ルクが身体を引きつらせた。女性としての部分も精巧に作られている。弾力のある膨らみに挟まれた、何も生えていない小さな割れ目。人間と同じ女性器。色は他と変わらぬ青色だが、造形はかなり正確だった。
 そこにゆっくりと指を這わせた。
「あ、あ、ふぁ。これハ、凄いデス……。んあぁ」
 両手で口を押さえて声を抑えるが、効果はない。秘所の感度は、皮膚や胸よりもさらに高く作ってあるのだろう。指先で撫でるたびに、微かに達しているようだった。
 サジムは指を放した。ルクの肩と腰を掴み、ベッドに対して横向きに寝かせた。自分はベッドから降り――数秒の躊躇を置いてズボンの前を開く。
「行かせてもらうぞ?」
 そろそろ我慢の限界。興奮しすぎて触れてもいないのに出しそうだった。女性経験もないのに、よくここまで出来たと我ながら感心している。
「どうゾ。思い切リ来てくださイ」
 不安と期待の混じったルクの言葉。
 サジムが太股に手を触れると、誘うように両足を開く。
 青い太股の付け根にある、女性の最秘部。生身の人間とは違うが、それでも十分に扇情的で美しかった。人間よりもきれいかもしれない。
「行くぞ……」
 自分に言い聞かせるような囁き。
 サジムは自分のものを右手で押さえ、その先端を割れ目へと押し当てた。呆れるほど簡単に、先端が呑み込まれた。今までに感じたことのない感触に、喉の奥が焼けるような熱を帯びていた。早鐘のように鳴る心臓。
「……んっ」
 暖かく柔らかな体内。それだけで射精に至るほどの衝撃が突き抜ける。だが、下腹に力を入れて踏み留まった。まだその時ではない。
 自分を押さえるように、ルクを押さえるように――ルクの両肩を掴む。
「動くぞ……」
 言いながら、サジムは腰を前へと押し込んだ。
 ぬるり、と抵抗もなく挿入されていく。
「んん、あぁ……。入って来まス」
 人肌の液体のような奇妙な感触をかき分けながら、ルクの秘部の奥へと進んだ。その様子は透明な身体の上から丸見えになっている。
 そして、根本まで呑み込まれた。
「ん!」
 引きつるルク。再び達したらしい。
 緑色の瞳から知性の光を半ば欠けさせ、甘い声を上げる。
「ふあァ、気持ちいいでス、ご主人サマ……。このママ、思い切り動いてくださイ。んんっ、お願いしまス、ご主人サマぁ……、ワタシを滅茶苦茶にして下さイ」
 何も答えず――答える余裕もなく、サジムは腰を前後に動かし始めた。
 膣と呼べるだろうか。粘りけと滑らかさを併せ持った半液体が、自分のものに絡み付いてくる。それは異様な感触だった。今までに感じたことのない心地よさ。
「ぐ……」
 歯を食い縛るサジム。自分も達する寸前まで来ているため、激しく腰を動かすことができない。それが却って丁寧にルクを刺激しているようだった。
 背中を反らしたまま、ルクが快感の悲鳴を上げている。
「あ、ふあぁ、ああっ、ご主人サマ……あっ、スゴく気持ち、んんぁ、いいでス。もっと激しく、ふあっ……。動いて下さイ……!」
 言われた通りに、サジムは腰の動きを激しくした。それで、容易く限界を突き抜ける。身体の奥底から湧き上がる熱い衝動。
「あっ、ご主人サマ、ワタシの中に出して……!」
「もう、限界……だ!」
 がくん、と身体が震えた。
 今までに体感したこともない、強烈な射精感。目の前が真っ白になって、思考も呼吸も何もかもが止まる。一瞬ながらも意識が吹き飛んだだろう。
 青い液体の中に白い液体が解き放たれていた。
「あ……ア、ふああっ……。ご主人サマぁ……」
 ルクが甘く陶酔するような言葉を漏らす。決して強くはないものの、今までで一番深い快感を覚えているようだった。両目を閉じてじっくりと味わっている。
 そのことに、サジムも深い満足感を得ていた。
 五秒ほどの間を置いてから、ルクが首に腕を回してくる。サジムのものはまだ体内で勢いを残していた。吐き出した白い液体は霧のように消えている。
 サジムもルクの肩に両腕を回して、お互いにお互いを抱き締めた。
「ご主人サマ、大好きでス……」
「ありがと」
 サジムは微笑みながら、ルクの頭を撫でた。

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