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第30話 マキのとっておき |
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ゆらゆらと尻尾を動かし、マキが小さな箒を動かしている。 「お掃除大変です……」 床を掃きながら、呟いた。 元々丁寧に掃除はされているようで、掃いても埃やゴミは少ない。それでも全くないわけではなかった。人間が生活すれば何かしらの汚れは出るのだ。 「そういう約束だ。文句を言うな」 窓辺に座ったラセンは、軽く手を振る。 オーキと一夜をともにするため、ラセンのネジを止める。その代わり、今日やるラセンの掃除の半分をマキがやるという約束だ。約束通りマキはラセンの担当であるリビングの掃除をやっていた。 「ところでお姉様、昨日から気になっていたのですが、何してるんです?」 瞬きをしてから、黄色い目を向けてくる。 ラセンは窓辺に座り本を開いていた。本に書かれた文字に目を這わせながら、右手の指を動かす。指先から糸のように伸びる不可視の力。 「魔術の練習だ」 口端を上げ、告げる。 マキが不思議そうに瞬きをした。 「魔術ですか?」 「アタシたちの身体は魔力で動いてるから、上手く利用すればアタシも魔術を使えると思ってな。そしたら、思いの外上手く行った」 ルクが以前魔術を使えると言ってた。ならば、自分も使えるのではないかと考え、クリムから魔術の本を借りて勉強をしている。 ラセンはその場に立ち上がり、右手を上げた。 「はっ」 ぽっ。 ラセンの指先に灯る白い光。 ゆらゆらと蝋燭の炎のように揺らめいている。 「凄いですね、お姉様……!」 黄色い目を丸くして、マキが魔術の灯りを凝視していた。 ラセンは手を振り、灯りを消す。術式構成などはしていない。ただ、魔力を指先に集めただけだ。魔力の集中と密度の圧縮。基礎の基礎である。 小首を傾げるマキ。 「魔術覚えてどうするんです? あんまり使う機会ないと思いますよー」 ラセンは唇を舐め、眉毛を内側に傾けた。 「最終目標は、夜狐の女王の力を取り戻すこと――。それはかなり先になるだろうがな。さしあたっては、あの小僧をビビらせるくらいはしたい」 まだ未熟だが、この人形の身体は魔術を扱うことができる。どこまで上達するかは未知数だが、行ける所まで行くつもりだった。最終的には人形の身体を脱ぎ捨て、夜狐の女王としての力を取り戻すことである。 「夜狐の女王ですか?」 「お前もそういう設定だーとか言うのか?」 訝るマキに、ラセンはジト目を向ける。 夜狐の女王だと言っても誰も信じてくれない。そういう設定で作られたと、クリムは言っている。古い小説に登場する夜狐の女王という怪物。フリアルが面白半分でそういう過去の認識を組み込んだ、と。 人差し指で頬をかき、マキは尻尾を曲げる。 「うーん。ワタシが知っている限り、お姉様はそういう怪物ではないです。でも、ワタシたちは、元々何か大きな力を持ったものだったようです」 一度頷いて、小さく笑う。猫耳を動かしながら、黄色い瞳をきらきらと輝かせていた。とっておきの秘密を、こっそりと教えるように。 「ん? ワタシ――たち?」 訊き返す。 「ワタシ、以前先生の所で少し動いてたんです。そこでワタシの設計図を見たんですが、核部分に何か特殊なものが使われているようでした」 マキは自分の胸に手を当てる。白いエプロンを押し上げる大きな膨らみ。その奥にあるのは身体を動かす魔術の機構だ。ラセンはここで動く以前のこの身体で動いた記憶は無いが、マキはフリアルの元で動いていたようである。 「ワタシたちの核は、その何かをいくつかに分割したものみたいです」 「ふぅむ」 半信半疑でラセンは自分の胸に手を当てる。 心臓の鼓動は感じない。生物のような心臓自体無いのだ。しかし、身体の奥で魔術と機械が動いているのは感じる。核部分。自分の身体を分解したことはないので、そこがどうなっているかは知らない。 人間と変わらぬ思考や感情。それがかなり高度なものであるというのは理解できる。その構造を支える核。何か特殊なものの一部。 「興味深いな」 目蓋を下げ、ぼそりと呟く。 夜狐の女王としての記憶も、おそらくそこに繋がるのだろう。あまり気にしてはいなかったが、よくよく考えると、この身体は無駄に精巧で謎の部分が多い。趣味で作ったと言われているが何かしら目的があったのかもしれない。 「ワタシの目的は、ソレをひとつに戻すことです」 ぐっと右手を握りしめ、マキが鼻息を吐く。 「きっと面白い事になりそうですし!」 「……それは、動機が不純ではないか?」 ジト目で指摘してみるが、マキは聞き流した。 「お姉様、ワタシたちの他の姉妹に心当たりありませんか? フリアル先生が作ったワタシたちみたいに、精巧に作られた子たちです」 「ルクか?」 最初に思い浮かんだのが、それだった。 「ルク――さん?」 「あの小僧のアルバイト先で料理人やってる、スライムの娘だ。あのジジィが作ったらしいから、お前の探しているアタシたちの姉妹ではないか?」 料理屋の木蓮亭で実質料理長を務めている人型スライムの魔術生物。動いたのは二十年以上前らしいが、ラセンたちと基本構造は変わらないと説明された。 マキが言っている何か特別なものの一部を組み込んだ魔術生命体。 「お姉様、機会があったらルクさんを紹介していただけないでしょうか?」 「……。分かった」 一拍挟んでから、ラセンはマキの頼みを承諾した。 「それと、掃除はしっかりやるように」 「はーい」 明るい声で返事をし、マキは掃除を再開する。 |
14/2/28 |