Index Top ネジまくラセン!

第24話 お姉様!


「むぅ!」
 倒れそうになりつつも、ラセンは右足を引き踏みとどまる。
 しかし、猫耳の人形の少女は、気にせずラセンに抱きついていた。小さな身体を両手で抱きしめ、嬉しそうに頬摺りをしている。
「おねえさま、だと?」
 瞬きしながら、ラセンが少女を見つめた。
「というか、離れろ……!」
 両手で無理矢理引き剥がす。
 案外あっさと少女は離れた。
 黒い尻尾を揺らしながら、嬉しそうに笑う。
「そうですよ。お姉様は知らないと思いますけど、ワタシお姉様の妹なんです。会えて光栄です。これから一緒に暮らせるんですね。嬉しいです」
「ああ……」
 視線を逸らしつつ、ラセンは返事をした。疲れたように垂れている狐耳と尻尾。直感的に面倒な事になったと理解したのだろう。
「ん?」
 オーキは箱の中に目を向ける。折り畳まれた紺色の生地。そして、茶色い靴。この少女の服だろう。レオタードしか着ていなかったので、服は自分で作るのかと思っていたが、その必要は無いようである。布代が節約できるのはありがたい。
 少女が視線を向けてくる。
「そちらのお兄さんは?」
 問われて、オーキはラセンの頭に手を乗せた。
「こいつの飼い主だ」
「飼い主ではない!」
 すぐさまラセンが叫んでくる。萎えていた耳と尻尾をぴんと伸ばしながら。
 その様子を眺め、少女が頷いた。
「それではワタシのご主人様ですね。ワタシ、マキと言います。お姉様の妹です。ふつつかものですが、よろしくお願いします」
 と、一礼。
 ラセンと違い丁寧である。フリアルがそう作ったのだろう。ラセンの妹と言っている。見た目や容姿も似ているので事実だろう。気の強い性格のラセンにあわせて、大人しい性格に作ったのかもしれない。
 作り手がこの世にいないため、確認はできないが。
「………」
 腕を組みジト目でマキを見つめているラセン。
「えっと、まずは何しましょう?」
「服着ろ」
 オーキは箱から服を取り出し、マキに差し出した。
「はーい」


 箱は床に置き、ラセンの横に立っているマキ。
「どうですか? 似合ってます?」
 スカートを手で広げ、楽しそうに笑っている。
 紺色のワンピースに白いエプロン。頭に白いヘッドブリムを付けていた。いわゆるメイド服である。よく似合っていた。本人も満足げに尻尾を動かしている。
「やっぱり、いい生地使ってるな。少しバランス悪いけど」
 マキの服を眺めながら、オーキは口元に手を当てた。普通のメイド服なら木綿製であるが、マキの服はラセンと同じシュウジン生地製だ。人間が着る服というよりも、人形の服という感じである。その認識もあながち間違ってはいない。
「やはりそっちが先に目に入るのか。お前は」
 半眼でラセンが呻いていた。
「ところで、これからワタシは何をすればいいんでしょうか?」
「そうだな」
 マキの問いにオーキは考える。
 人間の三分の一くらいの小さな身体で、力もそれほど強くはない。重いものを持ったり大きなものを動かしたりと、人間と同じような仕事は無理である。だが、手先は器用なので何もできないわけでもない。
 オーキは部屋を眺めてから、
「掃除を頼む。俺が大学行っている間に、家の床掃くだけでいいから。ラセンと一緒に」
「アタシもか!」
 慌てて叫んでくるラセン。
 その頭に手を乗せ、オーキは続ける。
「そうだよ。昼間は暇だっていつも愚痴ってただろ? これもいい機会だ。居候の対価ってことで、お前たち二人で掃除手伝ってくれ。マキと一緒にやれば、それなりにできるんじゃないか?」
「はい。わかりました」
「むぅ。わかった……」
 笑顔で返事をするマキと、渋い顔を見せるラセン。対照的な反応である。
「まずはこの部屋掃除してみてくれ。ホウキで適当に掃くだけでいいから。そんなに散らかってもいないし、練習には丁度いいだろ。」
 オーキは部屋を指差した。
 一応毎日掃除をしているため、ゴミはない。角などに少し埃が溜まっている程度である。小さな室内箒なら、ラセンやマキでも使えるはずだ。
 ラセンの手を取り、マキが笑う。
「お姉様、一緒にお掃除頑張りましょうね」

Back Top Next

13/9/26