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第6話 服装チェック |
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日が暮れて、窓から差し込んでいた西日が無くなった。 光石のランプが白い光を出している。 「これでいいか?」 脱いだ上着とスカートを、ラセンが机に並べる。 ラセンは一歩下がり、両手を腰に当てた。黒いレオタードに包まれた身体。 そちらはとりあえず後回しにして、オーキは上着を手に取った。 「なるほど」 上着は非常にきめ細かな白い布でできている。ボタンはダブルで両側にみっつづつ並んでいた。袖は下側が大きく作られていてる。法衣など宗教的な服装でよく見られる作りだった。背中側はネジ部分まで切れ目が付いていて、下をフックで留める構造だ。 何より目を引くのは、布の材質である。 「やっぱりシュウジン生地か。この身体に普通の布だと粗く感じるだろうけど、ここまで使う必要あるか……? バク生地で十分だろうに。これでいくらする?」 「なにを感心している……? アタシにも分かるように感心しろ……」 緩く腕を組み、ラセンが目蓋を下げる。 オーキは上着を持ち上げ、 「凄く高い生地使ってるんだよ。シュウジン草って草から取れる高級生地。これ一着分でこの服一箱買えるくらい」 と、オーキは自分の来ている木綿製の服を目で示す。 ラセンの服に使われている生地は、シュウジン生地と呼ばれるもので、この地方で買える生地ではほぼ最高級だ。絹よりも滑らかで、さらに丈夫という特性を持つ。 「ほほう」 薄く笑みを浮かべるラセン。自分の服が高級品であることが嬉しいらしい。 「でも、縫いはちょっと粗いな。作ったのはフリアルさんかな?」 服はシュウジン繊維の糸で縫ってある。 その縫い方はやや拙さが感じ取れた。専門の職人が縫ったものではなさそうだ。制作者であるフリアルが、自分で縫って作ったのだろう。 「んー」 オーキは上着を置き、ラセンを眺める。 人間の三分の一くらいの大きさ。見た目の年齢は十代半ばくらいだろう。黄色い髪の毛と黄色い瞳、頭には三角形の狐耳が生え、腰の後ろからは尻尾が伸びている。細く引き締まった四肢。人形であるが継ぎ目などはなく、関節は滑らかに動いていた。 下着代わりなのか、ハイネックの黒いレオタードを身に纏っている。 「ふふ……」 薄く微笑み、ラセンが身体を斜めに構えた。 レオタードには袖が付いていない。 背中側は大きく腰の上辺りまで開いている。背中の中央にあるネジに引っかからないためだろう。しかし、尻尾の付け根まで伸ばすのは問題と考えたのか、尻尾の付け根は菱形の穴が開いていた。その上側は小さなフックで留めるようになっている。 「どうだ?」 誘うように薄く笑うラセン。 黒い生地に包まれた細い身体。胸の膨らみが緩やかな曲線となって、生地を押し上げている。決して大きくはないが、平らでもない。肉感的とは違う独特の色気があった。 「少しくらいなら触ってもいいぞ?」 胸元を撫で、ラセンが呟く。 ぺた。 躊躇わずオーキはラセンの胸に手を当てた。 「うん」 柔らかい。というのが感想である。手足の感触も生物に近いものだった。胴体も同じようだと考えていたが、予想通りである。無駄に精巧に作ってあるようだ。 ぞわりとラセンの髪の毛が逆立ち、尻尾の毛が膨らむ。 「っ!」 喉を引きつらせ、ラセンが後ろに跳び退いた。 両手で胸を隠し、顔を真っ赤にして叫んでくる。 「いきなりどこを触っている!」 「触ってもいいって言ったの、お前だぞ。触られて文句言うな」 ラセンを触っていた手を見つめ、オーキはジト眼でラセンを見つめた。 言い返そうと口を開くが、何も言えずに口を動かしている。尻尾を足の間に縮込ませていた。ラセンが触ってもいいと言ったのでオーキは触った。問題は無い。 「ま、それはどうでもいい――」 オーキは左手を伸ばして、ラセンの両手をまとめて掴んだ。 そのまま腕を持ち上げる。腕にかかる重さはそれほど大きくはない。両腕を動かせず半ば宙吊りにされた体勢である。逃げようにも足に力が入らず満足に動けない。 「おい、待て……! 何する気だ」 「この生地何だろうな?」 ラセンの呟きは無視して。 オーキはラセンの身体を包むレオタードを眺めた。 「ラバーに似てるけど手触り違うし。でも、よく伸びるな。目の細かい布みたいだけど、縫い目どこだろ? 何だろうな? 変わった布だ」 考えながら、右手で生地を撫でて引っ張り指でつつく。 ラバーのように薄い光沢の見える生地だ。だが、手触りはラバーのそれではない。きめ細かな布地らしい。引っ張ってみると伸縮性は高いと分かる。不思議な事に布を縫い合わせた部分が見られない。奇妙な服だった。 「あっ、まてっ、こら、あはははは……!」 くすぐったいらしい。ラセンが笑いながら足をぱたぱた動かしている。 手を引っ込め、オーキは首を傾げた。ラセンの着ているレオタードの材質が分からない。いくつかの種類の糸を組み合わせた布地であることは想像が付く。だが、そこに使われている繊維がなんなのかわからない。縫製法も見当が付かない。自分の知らない特殊な生地のようだった。もしかしたら、魔術によって作られた生地かもしれない。 「うぅ……。なんか、これは……色々と屈辱的だぞ……!」 顔を赤くしながら、ラセンが呻いている。 「ちょっとじっとしてろ」 「あっ、ひっ、やめっ、あはははは!」 無遠慮に身体を撫でられ、ラセンは再び笑い声を上げていた。 |
12/9/20 |