Index Top 第9話 短編・凉子と浩介

第4章 溺れるように


 唾液の絡み合う音が静かな部屋に響いていた。
 並んでソファに座り、浩介は凉子を抱きしめ、唇を重ねていた。口の中へと舌を差し込み、咥内を掻き回す。
「んっ、んん……」
 凉子の喉から漏れる艶のある呻き声。
 浩介は右手で凉子の身体を抱きしめ、左手をズボンの中へと差し入れる。さきほどよりも濡れていた。手の平で秘部を包み、全体を揉むように撫でる。
「んんッ! ふあっ!」
 小さな悲鳴とともに、凉子が背筋を逸らした。口が離れ、唾液が糸を引く。
 身体の痙攣に合わせて、黒い尻尾がぴんと伸びていた。
 浩介は凉子が倒れないように身体を支えた。ズボンから左手を抜き取る。
「ふふ。身体、融けそう……」
 口元にだらしない笑みを浮かべて、凉子が呟く。その目は焦点が定まらず、酔っぱらっているようにも見えた。伸びていた尻尾がゆっくりと落ちる。
「もっと好きにしていいよ」
 浩介に顔を向け、凉子は背中に手を回した。ブラジャーのホックを外し、無造作に脱ぎ捨てる。音もなく揺れる大きな乳房。
 凉子は浩介の手を取り、自分の胸に触れさせる。
「どうかな?」
 柔らかく滑らかな膨らみが、浩介の手に触れた。手の平に感じる体温と、皮膚の柔らかさと弾力。指を曲げるとそれに合わせて形を変える。
 浩介はゆっくりと手を動かした。
「んっ……あっ……」
 目を閉じ、身を捩る凉子。尻尾が曲がる。
 浩介は右腕で凉子の身体を引き寄せた。斜めに向き合った姿勢から、凉子を抱えるような姿勢へと。背中から両手で抱きしめ、両手で胸を掴む。
「にっ」
 猫耳を伏せ、凉子が身体を竦める。
 少し力を入れすぎたかもしれない。
 しかし、浩介は無視して手を動かした。大きさや柔らかさ弾力を確かめるように、手を指を動かし、凉子の胸を愛撫する。縁を撫で、全体を手で包み、乳首を指で擦った。その動きに合わせて、凉子が手足を強張らせている。
 浩介は凉子の首筋に軽く噛み付き、指を動かした。親指と一差し指で乳首を摘み、転がすように擦る。
「あっ、ちょ――んんっ! 浩介、くん……っ!」
 手で口を押さえ、凉子が身体を捻る。猫耳がせわしなく動き、一方で伏せた尻尾は微動だにさせない。
「んッ」
 不意に背筋を駆け上がる痺れに、浩介は動きを止めた。
 凉子の手が浩介のズボンに差し込まれている。
「ちょっとお返し……」
 ショーツの上から秘部全体を手で包み込み、手の平全体で愛撫する。さらに指先が、淫核を引っ掻くように刺激していた。さきほどの愛撫とが違う、攻めの動きだった。
「くぅ……」
 下腹部から背骨を通り、脳髄まで電流が駆け抜ける。それでも浩介は手を止めない。
 凉子が背中を丸め、右手で口元を押さえた。
「ん……、これ……、胸だけでイっちゃ……んんッ!」
 身をすくめ、絶頂へと達する。衝撃を堪えるようにきつく目を閉じ、唇に力を入れる。浩介の秘部を弄っていた手の動きが止まった。
 息を整えながら、浩介の手を掴み胸から放す。
 凉子は浩介に向き直り、
「浩介くん、ブラ脱いで……」
 言われた通りに、浩介はブラジャーに手を掛けた。タンクトップ型の白い就寝用のものである。簡素な色合いで装飾などはない。寝るときはいつも付けていた。裾を掴みそのままシャツのように脱ぎ、それを横に放る。
 肩にかかる乳房の重み。男では感じられないものだった。
「ふふ、きれい……」
 薄く笑いながら、凉子が身体を傾け、浩介の胸に触れる。撫でるようにくすぐるように、官能的な動きだった。さらに胸に顔を近づけ、おもむろに口を開き。
 乳首を口に含む。
「ふっ」
 息が漏れる。
 凉子が口を動かした。歯で甘噛みし、舌先で舐め、軽く吸う。それとともに、片手でもう片方の乳房を撫でていた。胸から脳に届く快楽の信号。
「ん……くっ、ぁぁ……」
 くすぐったさと心地よさが背中まで突き抜ける。喉から勝手に甘い声が漏れていた。口元から一筋の涎が垂れ、呼吸が浅くなっていく。抑えることもできない。
「うぅぅ……」
 口を動かしながら、凉子が上目遣いで見上げてきた。
 腰から伸びた黒い尻尾が左右に揺れている。
 浩介は両手を伸ばし、その尻尾を掴んだ。
「にっ……!」
 凉子が短い悲鳴を上げる。
 浩介は右手で尻尾の根元を押さえ、左手を根元から先端まで動かす。尻尾全体を手で扱くように。手の平に感じる短く滑らかな黒い被毛。尻尾を撫でるたびに、凉子の身体が大きく痙攣していた。軽く達しているらしい。
 それでも凉子は浩介の胸を攻めるのをやめない。
「んっ、くぅぅ……」
 狐耳を伏せ、浩介は歯を噛み締める。尻尾の先端が小さく跳ねていた。目が霞む。喉の奥が熱い。まるで熱病のように意識が朦朧としている。だが、感覚は異様なまでに鋭敏になっていた。周囲で起こっている事が肌で感じ取れる。
「んん……!」
 凉子が手を浩介のショーツの中へと差し入れた。
 大事な部分に触れる手の感触。細い指先が秘部の割れ目を直接撫でる。軽い衝撃が意識を叩いた。凉子が淫核を指で擦り、膣口を撫で、同時に舌先で乳首を舐める。
 身体が絶頂へと登っていくのがわかった。
 浩介は凉子の尻尾を攻めながら、猫耳を掴む。そして指を耳の中に差し込んだ。そこは獣族にとってもっとも敏感な部分のひとつらしい。
「にぃぃっ……」
「あああっ!」
 そして、二人は同時に達した。
 静かな部屋の冷たい空気に、甘い声が響く。声は木霊することもなく消えた。その声を聞いている者はいない。蛍光灯の白い明かりが部屋を照らしている。
 何度か身体を跳ねさせてから、浩介と凉子は顔を見合わせた。
「へへ」
 楽しそうに笑う凉子。
 呼吸の音が心臓の鼓動が、血液の流れる音がうるさいほどに頭蓋内にこだましている。浩介は凉子の身体を掴み、ソファに仰向けに寝かせた。それからソファから降り、凉子の寝間着のズボンを掴む。
「あ」
 そのまま、浩介は凉子のズボンを脱ぎ捨てた。ショーツごと。
 白黒模様のズボンとチェック模様のショーツが床に落ちた。
 凉子の秘部が露わになる。白い肌と僅かに生えた淫毛、さらに淫猥な割れ目。そこから透明な液体が流れ出ている。鼻を撫でる生々しい匂い。
「待っ……」
 凉子の声も聞かず、浩介はそこに口を押し付けた。
「あぅっ」
 咥内に広がる雌の匂いと味。脳の奥まで痺れている。半分以上吹き飛んだ思考のまま、浩介は両腕で凉子の太股を抱え、貪るように秘部を味わっていた。
「ふあああ! あっ、浩介くん、それ……だめっ! あっ、そこは……」
 小さな触手のように動く舌に、凉子が悲鳴を上げる。両手で浩介の頭を押さえて引き剥がそうとしているが、身体に力が入らず抵抗になっていない。
 唇と歯で周囲を刺激しながら、舌を淫核から膣口まで這わせる。
「ああっ! まって、ま……んん、ああぁあっ!」
 凉子が悲鳴を上げ、脱力した。口の中に飛び散る粘りけのある液体。
「ぁぁぅぅ……」
 浩介は凉子から口を放し、その場に立ち上がる。
 涎を垂らしながら、凉子が小さく痙攣していた。過剰な興奮のためだろう。目元からは涙がこぼれていた。浅い呼吸を繰り返し、脱力している。目の焦点もあっていない。
 口の周り付いた液体を舐め取り、浩介は自分のズボンを下ろした。
「こうすけ……くん?」
 秘部を左手で撫で、その手を目の前に持ってくる。指先には粘りけのある液体が付着していた。それを口に含む。凉子と同じ微かな塩の味。
「行きますよ」
 凉子の脚を持ち上げ、浩介はソファに膝を乗せた。凉子は抵抗もせず、浩介の動きを見つめている。右手で口元を隠し、それでも興奮と羞恥心に目を見開きながら。
 浩介が腰を前に出す。じっとりと濡れた秘部が重なった。
「んんっ!」
 焼けるような快感が、身体を駆け上がる。
 そのままゆっくりと身体を動かし始めた。
「あっ、んっ! ふあぁ……」
 凉子が切なげな声を上げる。濡れた秘部が擦れ合い、いやらしい水音を奏でていた。淫核が触れ合うたびに、快感の電気が走る。
「どうですか、凉子さん……?」
 浩介の問いに、凉子が顔を真っ赤にしたまま答える。
「うん。凄い……よ。あっ、もうダメ……!」
「俺も……」
 そして突き抜けた。
「ふあああっ!」
「……ン……っ!」
 全身を貫く衝撃。神経が爆発するかと思うような快感に、二人は引きつった声を上げていた。あちこちの筋肉が跳ねるように動き、背筋を弓のように仰け反らせる。視界が真っ白に染まり、目蓋の裏に火花が散る。
 そして、浩介は絡めていた脚を崩し、凉子へと覆い被さるように身体を倒した。お互いに抱きしめ合うように、その背に腕を回す。
 凉子が恥ずかしそうに笑った。
「浩介くん、凄く気持ちよかった」
「どういたしまして」
 そう笑い返し、浩介は凉子の唇に自分の唇を重ねた。



 翌朝。
 テーブルに並んだトーストと目玉焼きと牛乳。凉子が用意したものだった。窓から差し込む朝の光。空気は冷たい。
「昨日はお楽しみだったね」
「………」
 満面の笑みを見せる凉子に、浩介は無言で頭を抱えた。昨日の事を思い返してみるが、途中から記憶がかなり曖昧だった。なりゆきで凉子と身体を重ねてから、具体的に何をしていたのか思い出せない。かなり無茶をしたことは漠然と覚えているが。
 今朝気がついたら部屋のベッドで一人で寝ていた。
「昨日、何やったんですか、俺……」
 狐耳を伏せ、尻尾を垂らし、浩介は小声で尋ねる。知りたいようで知たくもない現実。凉子の反応からするに、相当にはっちゃけていたのだろう。
 凉子は向かいの椅子に座った。トーストにジャムを塗りながら、
「凄くよかったよ。浩介くんて、意外とこういう才能あるのかもね」
「うー……」
 浩介は呻くことしかできなかった。

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12/11/29