Index Top 第9話 短編・凉子と浩介 |
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第3章 凉子の思いつき |
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並んでソファに座り、息を整える。 しばらくしてから、凉子が口を開いた。 「ねえ、浩介くん?」 茶色の瞳に何やら怪しい光を灯している。何か思いついた時の顔だった。思いつく内容は大抵とんでもないことである。 「何?」 呼吸を整えながら、浩介はジト眼で凉子を眺めた。 薄く汗が浮かぶ上半身。寝間着を脱ぎ捨てているため、ブラジャー一枚という恰好だった。それは凉子も同じである。 凉子は人差し指を動かし、 「浩介くんもいくつかリリルが使う魔法使えるんだよね? アレ、生やしたり」 「俺が術式覚えてるっていうよりも、草眞さんが解析した術式を身体に組み込まれているって表現する方が正しいみたいだけど……」 男性器を生やす術と、相手を発情させる術。どちらも草眞によって教えられた。教えられたというよりも、簡単に使えるように術式自体を身体に組み込まれたようだった。リリルの魔力が切れた今でも、法術として使うことはできる。 凉子も話を聞いているため、それは知っていた。 「何企んでるんだ?」 尻尾を伏せ、訊く。 「浩介くんに押し倒してもらおうと思って」 凉子は笑いながらあっさりと答えた。 浩介は狐耳を伏せ、頭を押さえる。 「だから、私に発情の術かけてみて?」 そう凉子は自分を指差した。 Sexual Excitementとリリルは名付けていた。一種の幻術で、相手を極度の発情状態にする魔術。もっとも相手がほぼ無防備でないと効果が無いらしい。 「何でそうなるだよ……」 「うーん、発情の術がどういうのかちょっと興味あってね」 頷きながら答える凉子。 浩介はため息を付いた。 「それに、その方が浩介君も襲いやすいでしょ?」 得意げにそう言ってくる。もしかしたら自分が何を言っているのか理解していないのかもしれない。浩介はそんな事を考えていた。 「浩介くんも私の身体に興味あるみたいだし。今までずっと私が浩介くんを攻めてたけど、逆もいいかなって。ね?」 薄く微笑み、組んだ両腕で胸を持ち上げる。胸元の谷間を強調するように。 思わず視線をそこに向けてから、浩介は目を放した。結局のところ、身体は女になっても、思考や感覚は男の時のままなのだ。 「どうなっても知らないぞ? 俺、身体は女だけど中身は男なんだから」 「危ないと思ったら、当て身して逃げるから大丈夫だよ」 右手を握り締め、きっぱりと言い切る。 決意は揺るがないらしい。 浩介は息を吸い込み、両手を向かい合わせた。 「じゃ、行くぞ?」 両手で印を結び、法力を流し込む。他の術のように印を引き金にして術式を動かすものではなく、身体に刻まれた術式を引き出し動かすような仕組みらしい。 猫耳を動かしながら、凉子が組み上げられた術を興味深げに眺めている。 「Sexual Excitement」 両手を凉子に向け、術を放った。 構成された法力が、凉子の身体に入り込む。 「ん?」 凉子は瞬きをして自分の手を見つめた。 「どうだ?」 浩介は凉子の様子を観察する。 実のところ、リリルにしかかけた事がないので、他の者にかけた場合どうなるかは、浩介も知らないのだ。術自体、抵抗を受ければあっさりと壊れる強度でもあるらしい。リリルの場合は浩介の術に逆らえず、浩介の場合は防御法自体知らなかったため、効果があったのだが。もしかしたら無意識に拒絶してしまったのかもしれない。 凉子は不思議そうに首を傾げ、 「効いてないのか――ンッ!」 突然両腕で身体を抱きしめた。 身体を細かく震わせながら、引きつった笑みを浮かべている。頬を流れ落ちる冷や汗。 「あれ、なんか……身体が……熱い――。思ったよりも、凄いかな……? というか……思い切り受け入れちゃったの、マズかったかも?」 声に浮かぶ戸惑いの感情。不安げに尻尾が垂れている。 浩介は両手を伸ばした。 凉子の頭にある猫耳を軽く掴む。 「にっ!」 小さな悲鳴を上げ、凉子が肩を縮めた。さきほど耳を触った反応とはまるで違う。目を瞑り、あちこちを小さく痙攣させていた。 「にっ、ひっ! あああっ!」 二度、身体が跳ねる。 ただ猫耳を弄られただけで達してしまっていた。 ゆっくりと呼吸を整えながら、凉子が自分の両手を見つめている。微かに震える腕。興奮のためか顔は赤く染まっていた。本来あり得ないほどに身体が火照っている。 「これ……、凄い……」 「凉子さん」 静かに、浩介は口を開いた。 浩介に向き直り、凉子が苦い笑みを見せる。 「浩介くん、目か怖いんだけど……」 「ええ……」 じりじりと焼けるような熱が、喉の奥で燃え上がっていた。みぞおちの辺りに締め付けられるような圧迫感を覚える。凉子の姿を見て、男としての欲望が燃え上がっていた。 「誘ったのは凉子さんなんで、文句は言わないってことで。アレ生やして犯すってことはしないけど、ちょっと覚悟決めてくれ」 そう告げて、浩介は凉子を抱きしめる。 「うんんっ!」 そして、半ば強引に唇を重ねた。 |
12/11/22 |