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第8話 加賀さんの秘密 |
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「よい湯加減でした」 扉を開け、加賀は自室に戻った。 青と白の寝間着姿である。髪は解いていた。自主訓練を終え、大浴場で身体を休め、部屋に戻ったところである。 空母寮の一室。赤城と同じ部屋である。畳の敷かれた和室だ。壁のスイッチを入れると天井の灯りが点き、部屋が白く照らされる。 時刻は夜の十一時。普通ならば皆眠っている時間である。 「間先生の栄養ドリンクは効きますね」 限界まで無茶をしているはずだが、まだ身体には余力が残っていた。先日間先生より渡された栄養ドリンクを飲むようになってから、持久力が増加している。味は酷いが、医者の作ったものだけあり、効果は本物だ。 冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップを持ってちゃぶ台の前に座る。 コップに麦茶を注ぎつつ、寝室の扉を見た。 「……赤城、さんは……寝ていますね?」 小声で確認する。よく寝て良く食べる赤城。大体十時くらいには寝てしまう。一度寝たらぐっすりと起床時間まで眠っている。急に起きることはないだろう。 「誰も見ていませんね?」 きょろきょろと部屋を見回す加賀。 部屋にいるのは自分だけ。赤城は眠っている。入り口の鍵は閉めているので、他の空母が入ってくることもない。部屋に監視カメラが付いていることもないだろう。 「よし」 頷いてから、加賀は座布団を一枚掴んだ。 心持ちくたびれた四角い座布団。それを頭の上に乗せる。頭の頂点に座布団の中心が来るように。左右に落ちることもなく、座布団は加賀の頭の上で安定した。 「やはりこの体勢は落ち着きます」 麦茶を飲んでから、息を吐き出す。 ちゃぶ台の前に座り、頭に座布団を乗せながら麦茶を飲む。傍から見れば滑稽な姿であると断言できる。他人に見せられるものでもないし、見せようとも思わない。 いつ気付いたかはよく覚えていない。 頭にそこそこ重さのあるものを乗せていると、落ち着くのだ。これは加賀だけの秘密であり、今まで他人に言ったことはない。赤城にも言ったことはない。 麦茶を一口飲み、天井に眼を向けた。 「私も正規空母ですから、練度が低くとも即戦力として使えます。それなりに危険度の高い海域に行くこともあります」 誰へと無く呟く。 建造したてで練度が低くとも、とりあえず即戦力となる正規空母。加賀も基本的な訓練を終えてすぐに深海棲艦討伐に参加するようになった。それなりに強力な深海棲艦の出る海域に向かうこともある。そういう場合は、赤城や他の空母と一緒だが。 「そういう場所で時々頭に大きな帽子を乗せた深海棲艦見ますけど……」 何度か対峙したことがあった。。 厄介な相手だったと記憶している。 白いボディスーツに黒いズボン。大きなマントを羽織り、杖を持った深海棲艦。色合いを除けば、人間の少女とそう変わらない見た目。頭に大きな黒いクラゲのようなものを乗せ、一部で揚げると美味しそうと言われる艦載機を操る敵空母。ヲ級。 「私……絶対アレでしたよね」 目蓋を半分下ろし、呻いた。 頭に座布団を乗せていると、前世というものを実感する。 加賀たち艦娘と深海棲艦は、本質的に同じもの。沈んだ艦娘が深海棲艦になることもあり、深海棲艦から取り出した艦核から艦娘を作ることも可能である。 おそらく加賀は、ヲ級の核から作られたのだろう。 もっとも、艦娘が今の艦娘になる前に何であったかは、公開されることはない。ただ、時々前世の名残が現れることがある。名残の形は人それぞれだ。身体的な特徴や性格として現れる場合が多いらしい。 加賀の場合は頭に何か乗せると落ち着くという、奇妙な癖として。 それはそれとして。 「ああ、もう少し重いものが欲しいですね。丁度いい物はないでしょうか?」 首を動かしながら考える。 座布団では重さが足りない。何も乗せていない状態よりは落ち着くのだが、物足りないというのが本音だった。畳んだ布団は以前試してみたのだが、逆に微妙に重い。 ぱっと思いついたのは、黒いクラゲもどき。 「アレ、鹵獲するのは――無理ですよね……」 ため息とともに、加賀は第一案を却下した。 |
14/7/20 |