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第27話 シデンの思いつき |
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シデンは自分の首から伸びる鎖を手で掴んだ。 アルニはその鎖を見つめながら、首を傾げている。 「もしかして、そういうファッションなんでしょうか?」 「首輪と鎖。頑丈で外せなイ」 黄色い右目で、漆黒の鎖を見つめる。 クロノは尻尾を左右に動かしてから、前足で鎖をつついた。 「お嬢がお前たちに近付かないように拘束してるんだよ。最果ての住人は外の事を調べてはいけない。そういうルールなんだが、お嬢は好奇心が強いから……。それに、よく勝手にいなくなるから、その対策も兼ねて」 肩越しにアルニを見る。 シデンは以前から外の世界について興味を持っていた。外の世界から来た剣士と妖精。放っておけば、外の情報を求めて二人に接触するだろう。事実、無断でロアに会いに行っている。それを避けるために、完全拘束していたのだが。 「あんまり意味は無かったな……」 向こうからやって来たのは、予想外だった。 アルニは青い瞳でクロノとシデンを繋いでいる鎖を見つめる。 「ここの人は外の事を知っちゃいけないんですよね。わたしも何度も言うなっていわれました。でも、何で知っちゃいけないんしょうね?」 首を傾げてみせた。 最果ての住人は外の事を知ってはいけない。この最果てのルールのひとつだった。 「オレに訊くなって、オレも理由は知らない」 前足で頬のヒゲを撫で、クロノは首を左右に振った。 最果ての住人の中には、従者がその秘密を知っているかもしれないと考える者もいる。もしかしたら、何か知っている従者もいるのかもしれない。だが、クロノは最果ての事についてはあまり知らなかった。 「多分、ココはそうして維持されてるカラ。危険なんだと思ウ」 シデンが窓を見つめた。 半分開けられた窓。木枠とガラスから作られている。窓の外には青い空と、薄い絹のような雲が見えた。空はどこまでも高く、どこまでも近い。窓から吹き込んできた風が、シデンの髪の毛を微かに揺らしていた。 窓から眼を離すシデン。 「アルニ」 「何でしょう?」 声を掛けられ、アルニが向き直る。 「ワタシの肩に乗ってみなイ?」 そう言って、シデンは自分の肩を叩いた。薄紫色のコートに包まれた小さな肩。いつも通りの淡泊な口調で、表情もほとんど変わったように見えない。黄色い片目でアルニを見つめている。 「ワタシは小さいカラ、今まで色々な人に乗って来た。でも、他人を乗せたことはないと記憶していル。あなたはワタシよりも小さいから、乗れル」 「そうですねー」 小さく微笑んでから、アルニはクロノの背で立ち上がった。 軽く脚を動かし、クロノの背から跳び上がる。四枚の薄い青色の羽に、淡い力が込められ、小さな身体を浮遊させた。身体を傾け、羽を動かし、空中を滑るようにシデンへと近付いていく。 「それでは、失礼します」 アルニがシデンの肩に腰を下ろした。両足を前に下ろし、両手でシデンの頭に掴まる。 普通に飛んだり、立ったりした時とは見える景色が違うのだろう。青い瞳に好奇心の光を灯しながら楽しそうに微笑み、周囲を眺めている。 「奇妙な光景だ」 声には出さず、クロノは呟いた。尻尾を払うように一振り。 人間の三分の一くらいの少女が、さらにその三分の一くらいの妖精の女の子を肩車している。滅多に見られるものではないだろう。 「どう?」 「わたしも色々人の肩に乗ったり、手の平に乗ったりはしましたけど、肩車してもらうのは初めてです。不思議な感じですね」 「ワタシも、他人を乗せタのは始めテ」 シデンもアルニも楽しそうである。 シデンは数歩脚を動かした。肩に乗ったアルニが少し揺れている。 クロノは床に伏せたまま、その様子を眺めていた。 「クロノ」 「ん?」 シデンが床を蹴った。 軽く跳び上がってから、クロノの背中へと着地する。クロノの背に跨り、首辺りのたてがみを両手で掴んだ。いつもの騎乗姿勢である。 「ロアのところヘ」 右手を持ち上げ、シデンは人差し指を本棚へと向けた。 クロノはちらりとカウンターの奥の扉を見る。今図書館内にいる司書はシデン含めて三人。残りの二人は、奥の部屋で資料の整理をしている。出てくる気配は無い。ロアやアルニに会わないためかもしれない。 クロノは伏せた体勢から、身体を起こした。 「凄いですね……!」 シデンに載ったアルニが、感嘆の声を上げている。 こっそり苦笑しながら、クロノは歩き出した。カウンターの横を通り、床に付いたロアの匂いを辿って足を進める。 あまり広くもない図書館。ロアはすぐに見つかった。 古い本を両手で抱え、歩いてくる。目当ての資料は見つかったらしい。 「何をしているんだ?」 一度足を止め、青い瞳で眼鏡越しに見下ろしてくる。不思議そうに眉を寄せて。狼の背に乗った小さな少女。その肩に乗った妖精の女の子。かなり奇妙なものだろう。 「肩車です」 楽しそうに笑いながら、アルニが応える。 とんとん、と首元を叩かれ、クロノは振り向いた。 シデンが無言でロアの肩を指差している。 「やらないって」 「残念……」 クロノの返事に、シデンは小さく呟いた。 |
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