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第5話 一日が終わる |
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夕食を食べ終わり、風呂に入り、一日を終える。 「ふぅ」 二階の寝室で、僕はベッドに腰を下ろた。用意してあった薄い水色の寝間着に着替えてある。夜の涼しい空気が湯上がりの身体に心地よい。 教授の言った通り、日用品一式は用意していあった。食料品も一週間分くらいおいてあるため、しばらくは生活に困らないだろう。その後は何かしないといけないけど。 辺りはすっかり暗くなっている。 「もう八時ね」 イベリスが時計を見る。 壁に取り付けられた四角い時計。時間は八時十分頃を差していた。 イベリスの格好は黒い薄手のワンピースだった。寝間着らしい。着ていた服や三角帽子は片付けてあるが、金色の杖はそのまま持っている。 部屋の天井に吊るされた灯りが、部屋を白く照らしている。 「まだ八時だけど……眠いな」 欠伸をしながら、僕は首を動かす。意識に薄い幕が掛かったような眠気。身体がずっしりと重く、思うように動かない。疲れとは違う、眠さ。 「ここに来る前は、早寝早起きの生活してたのかな? なんとなく、もっと遅くまで起きていられそうな気がするんだけど」 「眠いなら、早めに寝てしまった方がいい」 イベリスがベッドテーブルに降りる。 そこには、小さな寝床が置いてある。引き出しを開けたら入っていた。イベリスの寝床らしい。四角い箱に、小さな布団と枕を入れた物だった。 箱の縁に腰掛け、赤い瞳を僕に向ける。 「明日から何すればいいんだろう?」 窓の外には夜の闇が広がっている。 寝室には東西南北の四方向に窓が作られていた。僕の座っているベッドは東向きのまどのすぐ横にある。窓から見えるのは、夜の闇。表の道に向いている南向きの窓には、いくつか家の灯りが見えた。 ふぅ、と息をつく。 最果ての森。どこからか着た者たちが住む、不思議な場所。どこから来たのかも分からないけど、僕はここに住むことになってしまった。 「あなたはここで何がしたいの?」 イベリスが見上げてくる。 半分目蓋を下ろした真紅の瞳。いつも通り、感情の読めない眼差しだった。 僕は眉を寄せて天井を見上げた。天井から下げられた四角いランプ。中に入っているのは灯り石という発光作用のある石らしかった。 「何をしたいも……何ができるかも分からないし。何すればいいと思う?」 「うーん」 イベリスが顔を下げ、口元に手を当てる。 十秒ほど考えてから、再び僕に顔を向けた。 「まずはこの最果ての森がどんな所か知っておく必要がある。あなたが暮らすのはこの森なのだから。それほど特別はものは無いと思うけど」 月並みな言葉だった。月並みだけど、正論である。僕がまず最初にやるべきことは、ここがどんな場所なのかを確認することだ。危険になるものは無いようだし、ゆっくり探索できそうかな? それにしても、一番分からない事。 「ここにいる人って何なんだろう? 僕も含めて」 「それを知る事はおそらく無い。私やあなた、最果ての森の住人はこの"最果て"から外に出ることはできないし、出た人もいない。私の知識にはそうある」 イベリスが僕の疑問を否定する。 この最果ての森と最果ての街。外の事は基本的に禁忌のようである。僕が知ってるんのは、この家と神殿との間くらい。何度も聞いている街のことも全く知らないのだ。まだ自分の世界は狭い。徐々に広げていきたいものである。 ぽんと、僕は手を打った。 「教授なら何か知っているかも」 神殿に住んでいる脳天気な爺さん。 イベリスが微かに羽を動かした。金色の羽が揺れる。一瞬飛び上がろうとしたように見えたけど、箱の縁に座ったまま口を動かした。 「知っているかもしれない。あの人は森の住人でもないし、街の住人でもない。だらか、何か知っているかもしれない。でも、それを喋ることはないと思う」 「だろうね」 僕は苦笑いをこぼし、ベッドから立ち上がった。 脳天気に見える教授だけど、頭はいいし抜け目ない。不必要なことは絶対に口にしないだろう。見掛け通りの曲者だ。 カーテンを閉めてから、イベリスを見る。 「明日は森を見て回ろうか」 「分かった」 そう頷くと、イベリスは杖を置き、寝床に潜り込んだ。小さな布団を持ち上げ、人形のように 小さな身体を滑り込ませ掛け布団を掛ける。一件羽が邪魔に見えるけど、本人は気にしていないようだった。 「じゃ、おやすみ」 僕は灯りを消し、ベッドに潜り込んだ。柔らかな布団が心地よい。適度に冷たい空気が眠気を加速させる。初めてのベッドなのに妙に落ち着く。 「おやすみなさい」 イベリスの声を聞きながら、目を閉じた。 |