Index Top 一尺三寸福ノ神 後日談 |
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第47話 防寒服 |
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日の光が差し込む室内。 透明な窓ガラスに手を触れさせ、鈴音が窓の外を見ていた。昼の十時半。暖房の効いた部屋は暖かいが、それでも肌を撫でる冷たさがある。 「外は寒そうなのです」 身長四十センチほどの小さな女の子だった。見た目の年齢は十四、五歳くらい。腰まで伸びた長い黒髪、気の強そうな顔立ちと黒い瞳。服装は白衣に緋袴という巫女装束、足には足袋と草履を履いていた。神霊と書かれたお守りを首から下げている。 一樹はクローゼットから取り出したコートに袖を通しながら、 「日は高くなったけど、まだ寒いみたいだね。一年で一番冷え込む時期だから。しばらく気温の低い日が続くみたいだし。毎年の事だけど、この時期は辛いよ」 澄んだ青空を見つめ、苦笑いをした。これから近くの本屋まで本を買いに行く。外に出るには、とにかく暖かい恰好をしないとけない。 鈴音は身体の前後を入れ換え、一樹を眺めた。 「一樹サマ……いつもながら、服装がもっさりしてるのです」 「僕には寒さを防ぐ脂肪が無いんだよ……」 あまり脂肪が無いため寒さに弱い。コートを含めて着ている服は五枚。身体が一回り太くなっていた。冬場はいつもこの調子である。 「もう少し、栄養あるもの食べるといいのです。食事は全ての基本なのです」 人差し指を持ち上げ、真面目な顔で言ってくる。 食べる量が少ないのは元からだった。食が細く肉は苦手で、野菜を多く食べる。健康的とは言えるが、限度があるだろう。 空笑いとともに一樹は吐息してから、 「そうだ、鈴音」 机の上に置いてある紙箱を持ち上げた。 「仙治さんから荷物が届いてたんだ」 両手で持てるほどの小さい紙箱。今朝方郵便受けを見たら入っていた。神社から送ってきたものらしく、神社の住所と仙治の名前が記されている。 「主さまなのです? それは、何なのです?」 不思議そうに首を傾げながら、鈴音が歩いてきた。床を蹴って跳び上がってから、机の縁を手で掴み、机の上へと身体を持ち上げる。猫のように身軽な動きだ。 一樹は蓋を開けながら、 「防寒用の帽子とマントとマフラー。前に鈴音たちが寒そうだからどうすればいいかって手紙で尋ねたんだよ。そしたらこれ送ってきてくれたんだ。鈴音たちには防寒の術があるって言っても、限度があるだろうし」 と、中身を指で閉める。 丁寧に折り畳まれた赤い布が入っている。 「これは、暖かそうなのです」 嬉しそうに笑いながら、鈴音は中身を取り出した。 赤いマントである。生地はウールに似ている。装飾は無く、首元をボタンで留める簡素な構造だった。人形の衣装にも見えるが、その考えは大きく間違っていないだろう。 「これがあればこの寒さも怖くないのです。さっそく着てみるのです」 そう言うなり、琴音はマントを手に取り、羽織った。赤い生地が揺れる。まるで元からそのような衣装だったかのように、マントは鈴音の姿に馴染んでいる。 首元のボタンを留め、鈴音は次のお宝を探し始めた。 「次は何なのです?」 嬉しそうに笑いながら、鈴音はマフラーを取り出す。鈴音サイズに調整された、白いマフラーだった。鈴音はそのマフラーを首に巻き、満足げに頷いている。 最後に帽子をひとつ取り出した。 「格好いい帽子なのです」 円筒形の帽子で色は白。材質は毛皮らしい。ロシアの帽子に似ている。 上機嫌に微笑みがら鈴音は帽子を頭に乗せ、得意げに胸を張った。 「装着完了なのです!」 「よく似合ってるよ」 一樹はそう感想を言った。 白い帽子とマフラー、赤いマント。色遣いのせいか、クリスマスを思わせる。人間の服装に比べると、生地が薄いようだが、同時に防寒の術が掛けられているようだった。これを着ていれば、鈴音が寒がることはないだろう。 鈴音は興奮した様子で、マントやマフラーを撫でている。 「思った以上に暖かいのです。これは凄いのです」 「それはよかった」 のんびりと笑って頷き。 一樹はふと思いついた。些細な疑問である。分からなくとも困ることはない。しかし、気になる。幸いその疑問を解消するのは簡単なことだった。 「ところで、鈴音」 「何なのですか?」 きょとんとする鈴音に、一樹は声を書けた。 「琴音、呼べるか?」 「オレに何か用なのだ?」 鈴音の黒い瞳が赤く染まり、黒髪の半分が白く染まる。 琴音だった。身体を共有していることもあり、身体の支配権を一部相手に譲ることができる。必要なときは無理矢理出てくる事も可能なようだった。あくまでも優先順位はその時の表人格だが。 一樹は疑問の答えを得るため、 「鈴音、今のまま、琴音に身体全部貸せる?」 「……? 貸せるのです」、 訝りながらも鈴音が頷く。 と、鈴音の身体が変化を始めた。少し背が伸び、身体に凹凸ができる。袴の色が赤から黒に変り、髪の毛が黒から白へと変っていく。目の色も黒から赤へと変化した。 と同時に、帽子とマフラーの色が黒へと変る。マントの色は変らずだった。 「やっぱり色変るのか。すごいな……」 黒い帽子に白い髪、黒いマフラー。赤いマントと、マントの裾から見える黒い袴。独特の禍々しさが感じ取れる色合いだった。仙治も色々と考えて作ったのだろう。 マントや帽子に込められた仕組みに、一樹は単純に感心していた。 「一樹サマ……」 「小森一樹……」 目蓋を下ろし、鈴音と琴音が呆れ声で呟く。 |
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