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第17話 治療してみる


 指を動かし魔力を練る。
 手の中に現れる灯り。夜や暗闇で使うものだが、昼間でも使えないことはない。手の中に現れた灯りを、ミドリの目の前に置く。
 すぐには効果はないが、一分ほど経つと、
「ふぁぁ」
 ミドリの意識がはっきりしてくる。両腕を伸ばして、背伸びをしてから、目をこする。起き抜けのような反応。首を振ってから、顔を向けてきた。
「おはよう、カイ」
「もう昼だから。それより、羽は大丈夫か?」
 さきほど見事に取れて、くっついた羽。妖精の羽の治療方法など知らない。もし異常があるのなら、クリムに看てもらう必要がある。
「羽?」
 ミドリは首を傾げてから、羽を広げて飛び上がった。
 思わず固まるカイに構わず、いつも通りの動きでぐるりと部屋を一周する。どこにも問題はないようだった。慣れた動きで、空を飛んでいる。
 植木鉢の上に戻り、ミドリが見上げてきた。
「何ともないよ、どうしたの?」
「さっき、俺が羽触ってたら取れた。驚いて元の場所に押しつけたら、くっついた。右上の羽だけど、大丈夫か? 飛ぶと危ないんじゃないか?」
 カイは薄い羽を指さす。
 ミドリは数秒考え込んでから、右上の羽を摘んだ。非常に柔らかく、簡単に曲がる羽。何度か撫でてから、確かめるように軽く引っ張ってみる。
「おい」
 不安の声を上げるが、平気のようだった。
「大丈夫みたい」
 ミドリは羽から手を放して、笑ってみせる。
 しかし、正直不安だ。カイは両手を向かい合わせ、魔力を集める。灯りよりも量は多い。いくつか術式を組み込んでから、その魔力を手の平に集めた。
「なに、それ?」
 カイは掌をミドリの背中に当てる。
「治療の魔術。じっとしてろ」
「暖かい……」
 心地よさそうにミドリの頬が緩んだ。
 治療力を高めて治す術であるが、切り傷くらいなら治せる。もっと深い傷を治すのには別の魔術が必要だが、そこまでは使えない。
 羽に自己治癒力があるのかは分からないが、念のための処置である。
「これで大丈夫かな?」
 カイは手を放した。何も変わっていないように思える。
 ミドリは羽を動かし――
 カイは指で肩を押さえて、飛び上がるのを防いだ。
「少なくとも今日一日は飛ばない方がいい。明日になったらクリムさんに看てもらう。大丈夫だけど、念のためだ」
「むぅ」
「文句言わない」
 そう言って不服そうなミドリを両手で持ち上げる。近くにあった灯りが後を追うように飛んできた。灯りは自己治癒の助けになるだろう。
「さて、昼飯食うか」
 カイはミドリを手の平に乗せたまま歩き出した。

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