Index Top 妖精の種

第13話 魔術師の助言


「この子、本当に妖精? 魔力は感じられないけど」
 灰色の儀礼服をまとった学者風の女性。三十過ぎの長身で、赤い髪をポニーテイルに縛っている。動きやすいのだろう。魔術博士ナナ・クリム。フェルの弟子らしい。何の弟子なのかは不明。
 魔術師協会の応接室にて、カイとクリムは会議用の机に向かい合っていた。ミドリは机に直接腰を下ろしている。
「種から生まれた妖精なんて、聞いたことないですよ。……いえ、妖精がどう生まれるかなんてものも知らないですけど」
「私も知らないけどね」
 魔法についてフェルに尋ねたら、紹介され、今に至る。元々フェルからミドリのことは聞いていたらしい。興味深げにミドリを見つめている。
 ミドリはクリムを見上げながら、
「わたしは、妖精じゃないの? 魔法使えないのかな」
「さあ、詳しく調べてみないと分からないわねぇ。妖精についての論文はほとんど書かれてないし、妖精が自分のことを詳しく喋ることもないし、精霊族を直接捕獲しようなんて命知らずもいないからね。ところで、ミドリ……触っていいかしら?」
 言いながらクリムが手を伸ばす。握手でもするように気楽に。
 だが、ミドリはふわりと飛び上がって、カイの傍らまで移動した。逃げるといった様子はなく、ただ移動したような感じ。
 クリムは伸ばした指先を見つめ、手を振った。
「ねえ、ミドリ。カイの肩に座ってみて」
「……? 分かった」
 一拍の黙考を挟んでから、ミドリが左肩に座る。ほとんど重さを感じないが、肩に乗っている感覚は伝わってきた。見た目よりも軽く、紙の人形を乗せているような感じだ。
「妖精は、自分がパートナーと認めた相手以外に触られるのを嫌がるっていうけど。本物かしら? でも、魔力は全然感じられないし……。私も妖精は見たことないから分からないけど、魔法の魔力は感じるらしいから。でも、伝聞だからねー」
 腕組みをして、ぶつぶつと独りごちる。
 しばらく考え込んだ後、両腕を解いて腰に当てた。
「とりあえず、魔術の基礎練習教えてみたらどう? 魔術は魔法の簡易版だから、あなたでも出来るでしょ? それで様子見かしら」
「分かりました」
 カイは頷いた。
「うわぁ」
 その拍子に肩から落ちそうになったミドリを両手で受け止め、手を放す。ミドリは羽を動かし飛び上がると、再びカイの肩に腰を下ろした。気に入ったらしい。
 吐息してからカイは尋ねた。前から気になっていたこと。
「ところで、ミドリが誰かに狙われる可能性ありますかね? 妖精って珍しいから捕まえようとする人も出てくると思いますし、俺の力じゃ守れませんよ」
「その点はほぼ心配ないわ。精霊族――特に妖精を捕まえるのは危険なの。妖精はパートナーに幸運を運び、害成す者に不運を運ぶ。おとぎ話っぽけど、運命への干渉力は実際に観測されてるしね。妖精への悪意は鏡みたいに跳ね返ってくるわ」
 ようするに妖精に危害を加えようとすると、不幸な目にあうということだろう。、
「でも、この子が本物の妖精かは分からないし、バカがバカなことするのはどうにも止められないから。注意することに越したことはないわ」
「分かりました」
 カイは答えた。

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