Index Top 妖精の種

第12話 魔術を見て


 カイは扉を開けた。木の扉が軋んだ音を立てる。
 くるくると指を回してから、一言呪文を呟いた。
「光よ」
 指先に魔術による灯りが生まれる。小さな光の球が、松明ほどの白い光を放っていた。本職の魔術師のようなことは出来ないが、基礎的な魔術は使える。
「カイ。何この部屋?」
 ミドリが部屋を見回していた。
 倉庫のような部屋。薄暗いものの、埃もなく清潔で風通しもよい。気温や湿度も管理してある。キャンバスや画架、無数の筆と絵の具が棚に整頓されていた。
「見ての通り画材倉庫だよ。副会長が作ったらしい。普通じゃ簡単に手に入らないようなものが置いてある。美術委員会所属である程度実力のあるの画家じゃないと使えないけどね。絵の具が減ったから、いくつか貰っていく。貰うと言ってもあとで代金は請求されるし、割安とはいえ市販品とは値段の桁が違うけど」
 苦笑いしながら、カイは歩き出した。灯りとミドリがついてくる。
 絵の具を選んでいると、興味深げにミドリが灯りを指でつついていた。実体ではないので、指は突き抜けてしまう。灯りを突き抜けた指を見つめ、首を傾げる。
「触れない……」
「当たり前だって。ただの光だから」
 笑いながら、カイは言った。実体を持たないので、ドアなどもすり抜ける。
 ミドリはじっと自分の手を見つめた。
「わたしも使えるかな?」
「さあ、俺に訊かれても。妖精は魔術より高度な魔法を使えるって話は聞いたことあるけど……。俺は魔法の使い方なんて知らないしな」
「副会長さんならきっと知ってるよ」
 ぐっと手を握り締め、ミドリは言った。
「わたしも魔法使ってみたい」
「副会長でもな……」
 知ってるとは思わないぞ。
 そう言いかけて、カイは首を振った。諦観のような気持ちとともに吐き出す。
「きっと何か知ってるんだろうなぁ」

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