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第25話 食事の時間


 ロアは鍋の蓋を開けた。
 白い湯気とともに食欲をそそる香りが漂う。野菜と肉と香辛料のスープ。
「こんなものかな」
「うわぁ、美味しそうですね」
 青い瞳をきらきらと輝かせて、アルニが鍋の中身を見つめた。何というか、鍋に飛び込みそうな勢いである。さすがにそんな無茶はしないだろうが。
「……あなた料理上手いのね」
 アスカが鍋を見つめながら感心していた。焦げ茶の髪を撫でる。
 一緒に仕事をしたよしみで、ロアはアスカたちの馬車に乗せて貰っていた。今は街道沿いの河原で食事の準備をしていたところである。ただで馬車に乗せて貰っている礼として、ロアが料理を作ったのだ。
「オレは料理に自信あるから。それに、一人旅なんてしてると自分で作らないといけない。料理下手だと洒落にならない味の料理食うこともあるしな」
「確かに、マズイ料理食べるのは嫌だなぁ」
 額の上辺りに目線を持ち上げ、アスカは頷いている。心当たりがあるのだろう。直感であるが、アスカは料理が得意ではない。
「あんたは料理食わないのか?」
「あー。俺は食わない」
 馬車の荷台で本を読みつつ応えるカンゲツ。この男は、固形物をほとんど口にしない。今朝方角砂糖ひとつ囓っているのを見ただけである。酒を含む液体は平気で呑むのだが。やはり人間ではないからだろう。
 そんな思索をアルニの声が遮る。拳を握り締めて、青い瞳に意思の光を灯し、
「ロアさん、アスカさん、早く食べましょう! 放っておくと冷めて美味しくなくなっちゃいますよ。料理を粗末にすることは許されません」
「ああ、そうだな」
 頷いてから、木の深皿にスープをよそる。
 アスカはシートを広げて、四角い木のトレイに保存用のパンを乗せていた。それから、ロアの差し出した深皿をトレイに置く。パンの下には皿が欲しいところだが、食器を増やすと片付けが面倒だった。
「何か、ピクニックみたいだね」
「ピクニックならもっと気の利いたもの食いたいな。あと甘いものも」
 楽しそうに笑うアスカに、ロアは苦笑を返した。子供の頃から色々出掛けることはあったが、ピクニックのような気楽な旅行は滅多にしなかった。
「いただきまーす」
 目の前に置かれたパンとスープを眺めながら、アルニが鞄に手を入れた。
 取り出したのは小さなナイフ――正確には妖精サイズの剣。刃渡り十センチほどの両刃。それを使ってパンを切り分けていく。適当な大きさに切り分けてから、ナイフをしまう。切ったパンをスープに浸けてから、口に入れた。
「器用だなー。てか、お前は何でこんなに食うんだ?」
 ロアの問いに、アルニは言い訳するように答える。
「お腹空くんですよ。一日三食はヒトとして大事ですよ」
「そういう意味でなくて、お前は自分の体積よりも大量に食べるけど、その食ったモノは一体どこに消えてるんだ? 物理現象無視して身体に入れてるだろ」
 アルニは時々ロアと同じくらいの食事を口にする。ロアも決して小食ではない。アルニは身長二十センチにも満たない身体で、その量を食べてしまうのだ。
「もしかして異空間にでも繋がってるのかな?」
 アスカが本気とも冗談とも付かないことを言う。
 アルニはパンを呑み込みながら、答えた。
「うーん。考えたことないですね」

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