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第22話 夜の一時 |
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時計を見やると、夜の十時過ぎ。 ロアは村長の家の客室をひとつ借りて休んでいた。アルニは自分用のベッドで眠っている。怖くて眠れないと言っていたのだが、子守歌代わりに昔話をいくつか聞かせたら素直に眠ってくれた。アルニの寝付きは非常によい。 「お前も呑むか?」 椅子に座ったカンゲツが、酒瓶を見せる。サンランという銘柄。この辺りでは売っていない酒だった。五十度を超えるきついものである。 アスカが眠って暇なので遊びに来たらしい。 「オレはそんなきついのは飲めないし、仕事前に酒は飲まない」 「真面目なヤツだな。真面目が悪いというわけでもないけどな」 カンゲツは椅子に座って酒瓶の蓋を開けた。別の飲み物で割るということもせず、ラッパ飲みする。舌と喉がかなり強いらしい。 放り投げられたジュース瓶とコップを、ロアは掴み止める。 「たった十八で白の平原まで行こうとしてる物好きがいるという噂は聞いてる。名門セイガ家の長子で剣聖シギに匹敵する稀代の天才だとか」 「オレはその物好きが賢い人間とは思わないけど」 蓋を指で外し、コップに注ぐ。 白の平原。北の大山脈の奥地、竜帝の庭とも呼ばれる場所だ。平均標高五千メートルの広大な高原地帯。その環境の過酷さは、想像に難くない。 「何の目的でそんな場所行くんだかな? 竜帝陛下と言えば、ドラゴン族でも滅多に会えないお方だというのに。他の種族がそうそう会えるものでもない」 「さあな」 ロアは首を振った。他人には言えない。 「それより、お前と一緒にいる妖精……」 カンゲツは眠っているアルニを眺める。 横を向いたまま、薄いかけ布団の中に羽を伸ばしていた。妖精は羽を消すことが出来ない。寝るときは邪魔になると思うが、案外平気らしい。生まれた時から羽が生えているので、大丈夫なのだろう。 ロアはそっとアルニを撫でた。 「一人旅に賑やかな同行者が出来て嬉しいよ。俺は一人が嫌いだから」 「妖精が召喚以外の方法で人間の前に現れるのは、その人間が世界に大きな影響を与えるの前兆とか言われてるな。歴代の英雄が妖精連れていることは多いらしい」 他人事のように言いながら、空になった酒瓶を動かす。 「そうか。オレは目立つのも苦手だし、英雄志望じゃない」 「それはそれとしてだ。どう思うこの一件」 どこからか二本目の酒を取り出し、蓋を開けた。 「調べてみれば分かるだろうな。アスカは何て言っていた?」 「お前と同じことを言っていた。ただ、俺はあの娘をあまり信用していない。実力は本物なんだが、やや自信過剰な部分がある……。若いから仕方ないといえばそうなのだが。親に似たんだろうな、まったく」 ごくりと酒を飲み干す。 ロアはジュースを一口飲んだ。甘みと酸味の混じった味。 「あんたも俺よりちょっと年上で、十分若いように見えるが――人間じゃないみたいだから、見た目よりも結構年食ってるだろ」 「隠すほどのことでもないけど、俺の正体は秘密だからな」 そう笑って、カンゲツは酒瓶を空にした。 |