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第12話 アルニの拷問


 襲撃者二人は魔除け柱に氷で縛り付けられていた。
 凍傷は適当に治療してある。もっとも、完璧な治療ではないので後遺症は残るだろう。日常生活を営む分には問題ないが、戦うことはできない。隔離結界を張り、旅人が通っても気づかないようにしてある。
 茶色髪の男と赤毛の男。年齢は、三十歳ほど。
「さて、何の目的でオレを襲った? 答えろ」
 しかし、答えはない。
 最初から、正直に答えてくれるとは思っていない。両者とも、殺人技術を持った人間。おそらく、中堅の殺し屋だろう。決して弱くはないが、相手がまずかった。
「答えないなら、喋ってもらう」
 ロアは懐からナイフを取り出す。口を割らない相手の口を、強引に割らせる技術も身につけていた。多少時間はかかるが、吐かせられるだろう。
 だが、ちらりとアルニを見やった。
「大丈夫です!」
 ぐっと胸を張って、アルニは答える。
「ここは、わたしに任せて下さい。ゴウモンみたいな痛い方法を使わず口を割らせて見せます。わたしの力、見ていて下さい!」
「………? なんか、言ってることズレてないか?」
 ロアは呻くが、聞いていない。
 アルニは鞄に手を入れ、何かを取り出した。
「……何だ、ソレ?」
 眼鏡を動かし呟く。柱に縛られたまま、男二人も惚けたようにソレを見つめる。
 見たままを言うならば、狗尾草の穂。道ばたによく生えている、一般的にネコジャラシと呼ばれる稲科の草である。大きさ、色、形。どう見てもネコジャラシの穂だった。ただ、もこもこと動いている。
「えい」
 アルニはネコジャラシもどきを放り投げた。
 ソレは赤毛の男の胸に張り付く。訝しげに、ソレを見つめる男。もこもこと動きながら、服の中へと潜り込んでいく。びくりと身体が跳ねた。
「えい、えい、えい」
 アルニは鞄から次々とネコジャラシもどきを取り出し、二人に投げつけていく。ネコジャラシもどきは男の服に張り付き、やはりもこもこ動きながら近くの襟や袖から服の中へと杯入り込んでいく。
「………ッ!」
「ッグググゥゥ……!」
 二人の顔は赤くなっていた。絞り出すような苦悶の呻き。頬や額には脂汗が滲み、耐えるように歯を食い縛り、悶えるように身体を動かしている。
 そして。
「うはははははははは!」
「ひゃはははははははは!」
 ついには耐えられなくなり、笑い出した。足をばたつかせ、首を振りながら、笑い続ける。よほどくすぐったいのだろう。目から涙が溢れている。
「どうです、ロアさん?」
 得意げに腕組みをするアルニ。
「エグい……」
 ロアは口元を押さえる。くすぐり。地味ではあるが、かなり凶悪な拷問方法だ。数時間続けるだけで、精神に異常を来すとも言われる。
「お前ら、早く喋らないと壊れるぞ……」
 笑い続ける男二人に、ロアは他人事のように告げた。

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