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第10話 待っていた! |
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「退屈ですねぇ。一緒に旅する人がいるのは楽ですし嬉しいですけど、何もすることなくて、とっても暇です。お喋りしても、わたししか喋っていませんし」 左肩に掴まり、アルニが呟いた。 朝の七時に朝食を取り、宿場を出発。余計な金は使わないので、バスも乗合い馬車も使わない。徒歩で街道を進む。ひたすら進む。 「贅沢言わないように」 ロアは苦笑いつつ答えた。 周りの風景はずっと変わらない。まばらな森。木の密度は薄くなっている。これから先は、草原だ。すれ違う人間も時々見かけるが、三十分に一度くらい。同じ時間に出た人間はいない。ただ一人で歩きながら、アルニとお喋り。 ――もっとも、喋りながら歩くのは呼吸に負荷が掛かるので、喋っているのはほとんどアルニだけ。ロアは頷くだけだった。喋るのも一言程度。確かに退屈だろう。 「でもなぁ」 ロアは街道の先に見えた石柱を見やった。 そこまで歩いていき、荷物を下ろす。 アルニが肩から離れた。 「わたし、これ嫌いです……」 魔除け柱。人間でない者を遠ざける魔術式が組み込まれている。魔物などを街道に近寄らせないことを目的として作られていた。人間ではないアルニは、その存在に不快感を覚えるのだろう。 「休憩ですか? 疲れているようには見えませんし、お昼にはまだ早いですよ……。あ。もしかして、おやつですか!」 嬉しそうに笑っているアルニ。 ロアは一度眼鏡を直し、背筋を伸ばした。 「食事じゃない。オレにとっては面白いこと……」 微笑んで、腰の剣を引き抜いた。 刃渡り七十センチの片刃の剣。反りはなく重い。鉈のような剣。重さは千三百グラム。剣身には魔術文字が彫り込まれていて、鍔元から十五センチにはヤスリ状の溝が彫られている。柄はロアの手に合わせて作られている。銘はない。 その動作を見て、アルニは額を押さえた。 「うわぁ……。わたし、物凄く嫌な予感がします……」 「その予感は当たっている」 ロアは答えた。右手で剣を頭上に振り上げる。ぐるりと視線を巡らせてから、まばらに生えた林を凝視した。人の姿はない。ないように見える。 「出てこい。隠れているのは分かっている――!」 ロアは剣を振り下ろした。 剣風に込められた魔力が、冷気と化して撃ち出される。極低温に晒され瞬時に氷化する、空気中の水分。煌めくダイヤモンドダスト。地面の草や木を純白に染め上げながら、冷気の奔流が突き進む。 一拍遅れて、閃く白刃。 喉元めがけて突き出された短剣。刃渡り三十センの両刃。 ロアは剣の鍔元で弾いた。 跳び退いて短剣を構え直す、男――だろう。迷彩装束に身を包んでいる。穏行の術で隠れながら、ロアを尾行していた。出発の時はいなかった。 「おはよう。怪しい人」 ロアは笑いながら挨拶をする。 |