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第6話 精霊樹の枝 |
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大陸の南に広がる蒼の樹海。その深奥に生えると言われる樹。 精霊樹の枝を眺めるのは、これが四度目だった。本物である。 「これ……どこから持ってきたんだ?」 枝を動かしながら、ロアは尋ねた。 この程度の枝でも十万クラウンほどの価値になる。それだけ精霊樹の価値は高い。数年に一度、帝国魔術師協会が大隊を率いて樹海に挑み、精霊樹を採取していた。樹海の環境は過酷で、稀に死者も出る。 アルニは枝を眺めながら、眉を寄せた。 「えー。どこから持ってきたと訊かれましても、困りますよ。これは元々わたしのものですから。気がついたら持ってました」 いまひとつ答えになっていない返答。 ロアは苦笑しつつ、身体を起こした。眼鏡を動かし、訊く。 「他にも珍しいモノ持ってるのか?」 「はい。色々ありますよー。見てみますか?」 得意げに鞄に手を入れた。妖精サイズの小さな鞄であるが、色々詰まっているらしい。どういう原理かは謎である。魔法の一種だろう。 「あー。今は出さなくていい」 ロアはぱたぱたと手を振った。枝を差し出し、 「これもしまっといてくれ。後でまた出してくれればいい」 「……? そうですか」 アルニは枝を受け取り、鞄にしまった。 ロアは自分の荷物を指差し、 「あれ、鞄にしまえない?」 「無理です」 即答するアルニ。 「だよな……」 吐息するロア。期待はしていない。 ふと思いついたようにアルニが呟く。 「……わたしがロアさんの荷物持って逃げちゃうとか考えないんですか?」 「その腕輪」 ロアはアルニの右腕を指差した。 アルニは手首に嵌められた腕輪を見つめる。魔術で作った氷の腕輪。冷たくもなく、透明な硝子に見える。ほとんど魔力は感じられない。 「はぐれても見つけられるってことは、逃げても見つけられるってことだ。それに、遠隔操作で冷気魔術を爆発させることができる」 「って! 何怖い魔術組み込んでるんですか!」 腕輪を掴みながら、慌てて言い返してくる。 外そうとしているのだが、外れない。緩く嵌められているのだが、アルニの手から抜けるほど大きくはない。指の関節を外すような技術は持っていないだろう。 「外れません……!」 腕輪を引っ張るアルニに、ロアは告げた。 「外れないように作ってあるからな」 「酷いですよ!」 腕輪から手を離し、アルニが非難してくる。さっきまで嬉しそうに腕輪を撫でていた。しかし、拘束物と分かれば良い気はしないだろう。 ロアはからかうように微笑んでみせる。 「外してもいいけど、その時は一人で硝子の森に行ってくれないか?」 「うぁ。もっと酷いです!」 愕然とした表情で、アルニは呻いた。 |