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第4話 妖精の話


 一度空を見上げてから、ロアは呟いた。
「硝子の森ってどんな所なんだ?」
 妖精の里。硝子の森――
 硝子のような木々が並ぶ森。妖精サイズの家が並ぶ村。数千年前の建物が並ぶ古代遺跡。幾何学的な建物が組み合わされた街。等々。
 文献によって記述が異なる。同じ記述がないと言う方が正しい。
「きれいな所ですよ」
 アルニは答えた。抽象的な表現。答えになっていない。
 ロアは眼鏡を動かし、
「……それだけじゃ分からないぞ」
「妖精は自分のことを無闇に教えちゃいけないんですよ」
 指を振りながら、アルニは言った。なぜか得意げに。
 妖精は自分のことを話さない。そのことは知っている。もしかしたら答えてくれるかもしれないと思ったのだが、そう上手くはいかない。
「でも、ロアさんが竜帝陛下に会いに行く理由を教えてくれたら、わたしも答えるかもしれませんよ。どうですか?」
 逆に訊いてくる。
 ロアは苦笑いとともに答えた。
「悪いが、それは答えられないな。オレ個人のことだから」
「そうですか。残念です」
 アルニは肩を落とした。
 ロアは左手を持ち上げた。胸の辺りで手の平を上にする。
 意図を察し、アルニは肩から飛び上がった。手の平に降りて、腰を下ろす。肩に乗せていた時は気づかなかったが、さきほど食べたパンの重さは加わっていないように思えた。どこに消えているのか少し気になる。
「何です?」
「右手出してくれ」
 ロアの言葉に、アルニは素直に右手を前に出した。
 ロアは右手の人差し指を立てて呪文を唱える。詠唱とともに組み上げられる魔力。ゆっくりと複雑な魔術が構成された。一分ほどで完成する。
「氷輪」
 澄んだ音を立てて、アルニの手首に氷の輪がはめられた。無色透明の、硝子のような氷。魔力を凝縮させたものである。氷ではあるが冷たくはない。
「……何ですか、これ?」
 アルニは不思議そうに腕輪を撫でいていた。
 ロアは簡単に答える。
「御守り。アルニがはぐれても、これで探知できる」
「! ありがとうございます」
 アルニは満面の笑顔を見せた。

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