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第2話 二人旅の始まり |
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「アルニ……か」 呟きながら、眼鏡を動かす。 妖精はそう名乗った。 両手で抱えたパンを必死に食べている。これで二枚目だった。 「三日ぶりのまともな食事ですよ。ホントに飢え死にするかと思いました。ありがとうございます。ロアさんは命の恩人ですね。いや、何か恩返ししないといけませんよぉ」 もごもごとパンを噛みながら、アルニは器用に喋る。無駄にはきはきした声。 ロアは自分のパンにハムと野菜を乗せて、口に運んだ。濃い目の味付けが、なかなか旨い。半分ほど食べてから、根本的な問いを発する。 「何でこんな所に妖精がいるんだ? しかも、一人で――」 妖精が住んでいると言われているのは、北西の果てにある硝子の森。高濃度の魔力に満ちた場所で、人間は近づくことも出来ないらしい。ただ、他の場所で妖精を見かけることはある。召喚された場合などだ。一人でいることはまずない。 「捨てられた召喚装置が勝手に動いて、わたしを召喚しちゃったんですよぉ。だから、これから硝子の森に帰るところです。でも、妖精の一人旅は辛いです」 アルニは二枚目のパンを食べ終わり、三枚目に手を伸ばした。小さな身体で、なぜこれほど食べられるかは謎である。人間とは構造が違うのだろう。 ロアは左手でそれを遮った。 「オレの目的地の近くだな、硝子の森。世界の果て、北の大山脈か……」 「是非、一緒に行きましょう!」 遮った左手に両手を乗せ、アルニは力強く言い切る。物凄く嬉しそうな笑顔で、ロアを見つめていた。青い瞳が、きらきらと光っている。 「旅は道連れ、世は情けです」 「えーと。お前、何か出来るか? 妖精は魔法使えるだろ。例えば、強力な攻撃魔法とか、回復魔法とか、オレの知らない魔法。そんなの使えない?」 何となく訊いてみる。 「使えません!」 やたらきっぱりと断言するアルニ。難しい魔法が使えないという意味だろう。魔法が使えないという意味かもしれない。怖いので訊かないでおく。 肩を落として、ロアは呻いた。 「一応、オレは旅の剣士なんだけど……。時々仕事しなきゃいけないから。魔物退治とか色々。できれば、役に立つ仲間が欲しい」 「何とかなります。大丈夫です。二人力を合わせれば、何でも出来ます!」 瞳に熱い光を灯し、アルニはぐっと拳を握って見せる。 既に、一緒に旅をすることは決定事項のようだった。 |