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外伝1 古典的コント


 午後の台所。
「ん?」
 銀歌は読んでいた本から目を離した。書庫から持ち出した古書。妖狐族の名門吉良家の秘伝書である。文字から入り口に目を移す。
「白鋼……」
 ドアを開け、白鋼が入ってきた。
 銀歌を一瞥してから、台所をぐるりと見回す。
「どうしたんだ?」
「いえ、ちょっと探しものを」
 答えながら、棚や引出しを開けていた。ふらふらと不安げに揺れる尻尾。置き忘れは白鋼の癖らしい。時々、変なモノが置いてある。主に書類。
「置き忘れるとしたら、ここなんですけどね……」
 冷蔵庫を開けながら、呻いている。
 銀歌は尋ねた。
「何探してるんだよ」
「僕の眼鏡です。あれがないと、小さな文字が見えないんですよ」
 今は裸眼でも普通に文字が読めるが、銀歌は近眼だった。妖狐の都にいた頃にずっと本を読んでいたからである。出奔してからは眼鏡をかけなくなった。似合わないと思ったからである。文字を読む機会も減り、戦いにおいては視力よりも気配を頼っていたので、さほど必要でもなかった。
(なんだかなぁ)
 白鋼の頭に持ち上げられた眼鏡を眺め、銀歌は昔のことを思い出していた。
 冷蔵庫を調べ終わり、白鋼が振り向いてくる。
「銀歌くん、どこかで見ませんでしたか? 僕の眼鏡」
「あたしに訊くなよ。自分で探せ」
 本に視線を戻し、銀歌は答えた。
 白鋼はため息をつくと、台所を出て行く。ドアが閉まった。足音が遠ざかっていく。外に向かったらしい。屋敷中を探す気なのだろう。
「何なんだよ」
 銀歌は頭をかいた。
 本気なのか冗談なのか分からない。

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