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第3章 今後の予定 |
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アートゥラが両腕を広げる。 「ヴィー様も見つかったところですし、これからどうしましょうか?」 銀歌、美咲、莉央を順番に眺めた。 行方不明になっていたヴィーの従者を探す。それは無事に終わった。そうなれば、銀歌たちとヴィーが一緒にいる理由は無い。 「ん?」 ふと、銀歌は視線を移した。一匹の三毛猫が歩いてくる。首に茶色い首輪を巻いた三毛猫だった。尻尾を立てて、足音もなく移動している。 莉央が右手を持ち上げ、ヴィーに尋ねた。 「ヴィーちゃんたちって行き先決めてる? 買い物とか言ってたけど」 「いえ、特に決めてないわね。買い物するとは決めていたけど、何を買うかまでは考えていなかったし。暇潰しみたいなものだし」 顎に右手を添え、ヴィーがグレイブルーの目を横に泳がせる。小さく息を吐いた。外見年齢に似合わぬ落ち着いた仕草である。 三毛猫がヴィーの足元にいる白黒猫の横に並んだ。 「なら私たちと一緒に遊びに行かないか? 旅は道連れ世は情けとも言うし、人数が多い方が何かと面白いと思うぞ」 右手で自分たちを示し、美咲が笑う。 銀歌たちは通行の邪魔にならないよう、道路の端の方に立っていた。後ろからは、賑やかなざわめきが聞こえてくる。煉瓦敷きの地面を歩く足音や、他愛もない雑談など。 アートゥラが紫色の瞳をきらきらさせながら、ヴィーの後ろ姿を眺めている。 それに気付いたわけではないだろうが、ヴィーが頷いた。 「そうね。お言葉に甘えさせてもらうわ」 「にゃー」 「なー」 それに同意するような鳴き声がふたつ。白黒の猫と三毛猫。 「あら、いつの間に」 ヴィーが足元の猫を見る。近付いてきた三毛猫には気付いていなかったようである。 銀歌はヴィーと足元の猫を交互に眺め、小さく眉を寄せた。 「ヴィーって猫に好かれやすいのか? さっきからずっと付き従ってるけど。まさか魚とかの匂いがするわけじゃないだろうし」 「猫だけじゃなくて犬にも好かれるわね。人徳かしら?」 首を傾げ、ヴィーは冗談のような事を口にする。猫や犬に好かれるのは本当だろう。時々そういう素質のようなものを持つ者はいる。人徳かどうかは、分からないが。 「猫って可愛いですよねー」 アートゥラが腰を屈めて猫を撫でていた。六本の腕を駆使して。頭を撫でたり、耳の裏を指で掻いたり、顎や首筋を指でくすぐったり。猫の扱いは慣れているようだった。 「親が猫アレルギーじゃなかったら、私も飼ってたんだけど」 美咲と莉央もその隣に屈んで白黒の猫を撫でている。 元々飼い猫で、人懐っこい気質なのだろう。撫でられたりするのも慣れているらしい。三人に撫でられながら、嫌そうな素振りもみせない。 三毛猫をじゃらしながら、アートゥラが視線を持ち上げる。 「猫も可愛いですけど、狐も可愛いですよねー。ツンとしている耳とか、触り心地良さそうな毛並みとか、もふもふの尻尾とかー」 「………」 向けられた輝く視線に、銀歌は思わず一歩後退った。猫や美咲たちは気付いていない。獲物を前にした蜘蛛のような、気配の無い気迫。 横を見ると、ヴィーが立っていた。素っ気なく言ってくる。 「あなた、アトラに気に入られてるようね。おめでとう」 「おめでとうって、おめでたいか……? いや、本気で言ってるよな。ソレ」 ヴィーの顔を見つめ、銀歌は瞬きをした。皮肉か冗談のように聞こえるが、ヴィーは言葉通りの意味で言っている。 ゆったりと横に二歩足を進め、ヴィーは緩く腕を組んだ。 「思い切り抱きしめたり撫でたりもみくしゃにしたり。ちょっと乱暴だけど、それは愛情の表れよ。あなたは実際に可愛いのだし。そう引く事もないと思うわ」 至極真面目にそう説明する。その言葉には妙な重みがあった。常日頃からアートゥラに愛情表現としてもみくしゃにされているのだろう。 「納得できるようで、全然納得できないような気がする」 額に手を当て、銀歌は目蓋を下ろす。 ヴィーは無言で首を振った。 視線を戻すと、アートゥラは猫に意識を戻していた。 ゆっくりと揺れる尻尾を見つめ、莉央が呟く。アートゥラの台詞への応えだろう。 「狐いいですよねー。尻尾ももふもふで。滅多に見られないけど」 「一度でいいから、あの尻尾を思う存分もふってみたい。きっと気持ちいいんだろうな。引っ掻かれそうだけど」 と、苦笑する美咲。 無意識だろうか、二人も銀歌に目を向けていた。 ヴィーが小さな声で言ってくる。 「さっき人間の振りをしているって言ってたけど。あたなが狐であることは、薄々勘付かれているようね。大丈夫かしら?」 「前に一度、訳あって狐だってバレた事があるけど、今は忘れているはず」 頬を引きつらせつつ、銀歌は声を絞り出した。 以前、色々あって銀歌が妖狐であると二人にバラした事がある。その時は有無を言わさず耳や尻尾を弄られまくった。腰が抜けて動けなくなるくらいに。 アートゥラたちは飽きずに猫を撫でている。 このままだと話が進まないと判断したのだろう。 「まずはおやつが食べたいわ」 高らかに宣言してから、ヴィーが勢いよく右手を伸ばす。 その人差し指が示しているのは、通りの向かいにある鯛焼き屋だった。赤い大きな看板が目に入る。正面ガラス張りで、鯛焼きを作っている様子が外からでも分かる。 「鯛焼き?」 「鯛焼きですかー。軽食としては丁度いいですねー」 猫を撫でるのを一時中断し、美咲たちは鯛焼き屋に目を移した。 五人で道路を横切ってから、鯛焼き屋の前で立ち止まる。まずは、品書きを見て各自何を頼むか決めなければいけない。 二匹の猫がヴィーの足元に歩いていく。 「何でもあるな」 売っているものは小倉餡や白餡などから、ジャーマンポテトなどまで幅広い。お茶やラムネなどの飲み物も売っている。思わず感心するほどの品揃えだった。 「みなさん、何を食べますかー? 注文はわたしに任せて下さい」 楽しそうに笑いながら、アートゥラが挙手をする。大勢で注文を頼む場合は、誰かが全員分を覚えて、まとめて注文する。その方が、手間が掛からないものだ。加えて、アートゥラは単純に注文をしてみたいようである。 品書きを一瞥してから、銀歌は答えた。 「あたしは抹茶餡」 「私はジャーマンポテトを頼む」 「わたしはカスタード」 続けて、美咲と莉央が続ける。 アートゥラは一対の腕を組み、別の右腕で眼鏡を動かした。 「わたしは、そうですね。チョコレートにしましょう」 「私は――」 最後に、ヴィーが口を開いた。 「小倉餡子。箱で」 「え?」 銀歌、美咲、莉央の三人がヴィーを見る。 小倉餡の鯛焼き、十個。普通一人で食べきれる量ではない。しかし、ヴィーは普通に食べる気のようだった。いきなり見つめられた事にきょとんとしている。 「すみませーん、おじさん。えっと、抹茶餡にジャーポテ、カスタードにチョコレート。あと、小倉あん十個お願いしますねー」 「あいよー」 楽しげに注文するアートゥラに、店員が頷いていた。 |
11/5/24 |