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ある日常の一コマ


 キーボードを打ちつつ、ネットサーフィン。
 俺の夕食後の楽しみだ。月並みなものから意味不明なものまでネットには様々な情報が落ちている。のんびり眺めているだけでも、大量の情報が手に入るのだ。
「紅茶持って来たよ」
 トレイに紅茶を乗せた皐月がやって来る。
 机の傍らに、紅茶を置いた。
「うむ。ごくろう」
 俺は優雅にティーカップを手に取り、縁に口をつける。ほんのりと甘いミルクティーを口に含み、その味を噛み締めた。
 至福の時間。
「……ちょっと高い紅茶飲んでお金持ちごっこって楽しい?」
 目蓋を下ろして、訊いてくる皐月。
 俺は無視して、紅茶を啜った。近所のスーパーで買った高めの紅茶。奮発した高級風味のティーカップ。これだけで、優雅な気分を味わえるのだ。
 安いとか言うな。
「あんた何見てるの? またエロサイト」
 ディスプレイを覗き込んでくる皐月。
 ぴたりと固まる。
「新型AI搭載メイド。Version-Second:T-June2000,T-July2250,T-August2400……
 近日発売予定。予約受付中……?」
 皐月の次の世代。色々と新機能が追加されていて、多機能、高汎用性らしい。
 しばらくディスプレイを眺めてから、皐月は自分を指差す。
「え……。もしかして、わたし廃棄処分?」
 俺はふっと口の端を上げた。
「買となると、そうなるな」
「ちょ、ちょっと待って……。ある日電源切ったら、そのまま起動もされずに業者のおじさんに連れて行かれちゃうの? CPUとかハードドライブとかメモリとか取り出されて、二度と太陽を見ることもなく解体処分?」
 わたわたと両手を動かし、うろたえる皐月。
 がしと俺の腕を掴み、仔犬のような笑顔を見せる。
「私はご主人様の忠実なメイドですよ。一生お遣え致します」
「いきなり丁寧口調とか禁止」
 俺はジト目で告げた。
「……時々思うんだけどさ、お前実は中の人いるだろ?
 なんつうか……機械にしては妙に感情豊かでない?
 俺の知り合いのVersion-Firstシリーズはもっと地味というか、
 無表情というか。機械っぽいんだけど」
「ご主人様の愛のおかげですよ。だから、責任取って面倒見て下さいね。夜電源切ったら、ちゃんと朝には起動させて下さい。廃品回収は嫌いですよ」
 腕に頬擦りしながら、猫のように喉を鳴らしている。
 俺はディスプレイを指で叩き、
「この新型いくらすると思ってんだよ。買えねーぞ、こんな高いの」
 ボディと基本機能だけでも軽自動車と同じ値段。ソフトや周辺機器も加えると、さらに値上がりする。
 ちなみに、皐月は雑誌の懸賞で手に入れた。
「………」
 金額をじっくり眺めてから、皐月は表情を消し、俺の腕から手を離す。窓辺まで歩いてくと、エプロンのポケットから煙草のような棒を取り出した。紙を丸めた煙草もどき。暇なときに作った物らしい。
 煤けた眼差しで夜闇を眺めつつ、煙草を吹かす仕草をする。
「けっ。脅かすな、ヘンタイ」
「うっわ、殴りてー」
 握った拳が震える。
 しかし、俺は怒りを呑み込み、拳を下ろした。
 殴れば痛いのはこっちだ。壊れられても困る。
 ふんと鼻息を吹いて、パソコンに向かった。
「まぁ、安心しろ。ぶっ壊れるまでこき使ってやるから」
「相変わらず人使い荒いねー。早く休ませてよ? メイドてって大変なんだから」
 皐月はあっけらかんと笑ってみせる。

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