Index Top 第6章 それぞれの決着 |
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第2節 無敵の代償 |
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全身の機構が、異常を訴えている。 「起動率一〇〇〇パーセントを超えるのは、さすがに危険か」 今のうちは動けるが、しばらくすれば機構が壊れて動けなくなるだろう。その前に、オメガ二体とスティルを倒さなければならない。 「十三剣技――」 テンペストを構え、レイは走った。スティルめがけて。 「おもしろい」 迎え撃つように、スティルも走る。お互いに、吹き抜けの縁を蹴った。真正面から、空中で衝突するような軌跡で接近する。オメガは何もしてこない。確信があった。 目を合わせるのは、一度。 「一烈風!」 「ランス・スマッシュ!」 二つの凶器が触れ、弾かれる。 レイは空中で一回転し、コンクリートの床に着地した。勢いのまま、屋上から落ちないように、床に手をつく。立ち上がり、テンペストの刃を見ると―― 根元から二十センチほどの所が、三分の一ほど欠けていた。 「ロンギヌス……」 テンペストを下ろし、スティルを見やる。 スティルは見せつけるように、無傷のロンギヌスをかざした。 「超高速で回転する、円錐型のドリルか。材質はオリハルコン。エネルギーフィールドに覆われた表面には溝が彫られていて、触れるだけで物質を削り取る。貫通力は言わずもがな。オリハルコンの板だろうと、貫けるかもしれない」 「ご名答」 嬉しそうに、スティルが答える。 レイは続けた。相手の身体を見つめながら、 「加えて、物質攻撃、粒子攻撃……光学攻撃までも防ぐだろう防御。攻撃、防御ともに完璧。まさしく、最強かもしれないな」 「最初言った通りだろ? 僕は最強の身体を手に入れたんだ。機械としての身体能力と頭脳を備えた、超人。世界の支配者に相応しい」 「支配者か……無理だな」 左右のオメガを警戒しながら、告げる。 スティルは表情を曇らせた。 「なぜ?」 「お前は、もう死んでるからさ」 「死んでいる?」 理解できないと言った面持ちのスティル。 レイは右手を上げた。ロンギヌスにえぐられた前腕、筋肉部分は修復している。 「もう忘れ去られてたか。時代だな……。人体を改造し、そこに機械のコアを埋め込み、精神をも改造する、サイボーグを超えた、機械と人間の融合。これは、俺が……もとい、レオンが生きていた時代のその昔から、禁忌とされていたことだ」 言いながら、スティルを見つめる。 「僕が、死んでいるとはどういうことだ? 僕は生きているじゃないか」 「お前の人格は、コアの人格だ。人間としての人格は死んでいる。今さら脳を砕かれても、お前は停止することはない。もっとも……」 レイはもったいぶるように間を取って、 「機械との融合が、禁忌とされているのは、人間が機械に食われるからだ。機械と融合した人間は、手に入れた力と引き換えに、コアに人格が取り込まれる。コアに取り込まれた人格は、いずれ壊れる。何をしても、助からない」 「君は平気じゃないか?」 反論のつもりか、スティルが言い返してくる。 「俺はアンドロイドだ――。俺の人格は、最初から精密なデータとしてコアの中にある。人間と同じような心を持っているといっても、あくまで機械だ。人格が壊れることはない。だが、お前は違う」 レイは冷たい眼差しでスティルを見やった。 「お前の人格はいずれ壊れる。……そういえば、お前の身体に埋め込まれたコアは、俺と同質と言っていたな。それなら、余計に危険だ。ブラックボックスのせいで、人格が壊れた時、何が起こるか分からない。だから――」 言いながら、テンペストを構える。 「そうなる前に、破壊する!」 レイは床を蹴った。その場を五号機の放った十本のレーザーが貫く。エネルギー蓄積に数秒の時間がかかるのか、連射はできないらしい。 六号機が剣を構えて、向かってくる。 レイは跳んだ。六号機の真上へと。 「十三剣技・九天槌!」 落下しながら放った突きを、六号機は右の剣で受け止める。流れるような動作で、左の剣を突き出してきた。それを身体をひねって躱し、レイは後ろに飛び退く。極限の速度の中で、止まることは許されない。 レーザーが眼前を通りすぎた。次は、右。 「ランス・ストローク!」 スティルがロンギヌスを突き出してくる。槍には触れられない。受け止めることもままならない。身体を回転させて突きを躱し、レイはテンペストを動かした。 「三清流!」 だが、斥力フィールドに阻まれる。刃はスティルの装甲に触れることもできない。表面を滑るだけだった。スティルを倒すには、斥力フィールドを突き破り、なおかつ頑強な装甲を切断しなければならない。 スティルの脇を通りすぎ、レイはテンペストの横軸を掴む。 |
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