Index Top 第4章 明かされた事実

第3節 それは最大の問題点


「十七ヶ国国際連盟って知ってるでしょ?」
「……聞いたことあるような、ないようなー……」
 と、シリック。
「連盟は、巨大化しすぎて国際政治にまで干渉し始めたデウス社を危険視していたのよ。そこで八年前、極秘裏にデウス社の内情を調査することが計画された。だけど、一般社員じゃ、内情調査なんでできない。求められたのは、デウス社の中心に近づける人間。つまり、余人にはない才能を持った人間。あたしは、それに立候補したの」
「あんた、凄いのか?」
 訊かれて、ミストがぴくりと白い眉を動かす。
「はっきり言って自慢だけど、あたしは歴史上最高の天才よ。IQ推定二百四十。僅か九歳にして、フェンリル総合大学、大学院入学許可取得、十三歳にしてロボット工学博士号取得。その他、受賞多数!」
「凄いのか、それって?」
 シリックの反応に、ミストは肩をコケさせた。驚嘆なり感心なりの反応を期待したのだろう。クキィは驚愕の表情を見せているが。
「ともかく。あたしはデウス社に入り、オメガ試作機……レイの製作チームに編入された。連盟の方じゃ、レイの製作失敗を願ってたみたいだけど、あたしはレイを完成させ、デウス社から脱走させた。それから色々なことをやって、三年前」
 と、もったいぶるように間を取り、
「スパイであることが、デウス社にバレた」
「……それで、よく大丈夫でしたね」
 クキィが呟く。相手が一企業だったならば解雇されるだけだが、相手が企業の枠を超えた権力を持つデウス社では、解雇どころか謀殺されかねない。
「特別な権限は取り上げられたけど、あらかじめ張っておいた伏線のおかげで、デウス社を放り出されることはなかったわ」
「伏線?」
「説明すると長いわね。ま、いわゆる汚い大人の世界って奴よ」
 そこまで言ったところで、会議室の扉が開く。
 入ってきたのは、初老の男。
 それだけで、部屋の空気が硬いものへと変わった。
「ライン・ゴールドエッジ……」
 ミストが呟く。レイもその男――ラインを見つめた。
 年は五十過ぎだろう。首の後ろで縛った長い灰色の髪に、厳しい顔立ち。左目に眼帯をしている。着ているものはどこにでもある服。だが、左腕と両足は義肢になっていた。機械義肢らしいが、質はよくないらしく足取りがたどたどしい。左手に持った杖で、身体を支えている。
「誰だ、この人……」
「ゴールドエッジって確か……」
 クキィが呟きかけるが。
 それを聞いたラインが続ける。
「私は、ライン。現デウス社社長バレイズ・ゴールドエッジの兄だ」
「な……に!」
 シリックがラインを凝視した。
「驚くのは無理ない……。社長の兄が、その会社に反抗する組織のマスターをやっているのだからね。君たちが、デウス社に恨みを持っているのは、ミスト博士から聞いている。君たちに殺されるなら仕方ない」
 ラインは悲しげな眼差しで二人を見つめる。その瞳に、嘘偽りはない。デウス社に恨みを持つ人間に殺される覚悟は、できているだろう。
「しかし、私の命を奪うのは、少し待ってくれないか。私にはまだやることがある」
「その手足は……どうしたんですか……?」
 クキィが尋ねると、ラインは自虐的に微笑んだ。
「会社から逃げる時に、ね――」
「そうですか……」
 頷く。頷くしかない。
 ラインはたどたどしい足取りで部屋を横切り、一番奥の椅子に座った。続いて、七人の男女が椅子に座る。その中には、さきほどのアーディもいた。
「君たちも座ってくれ。会議を始める」
 言われた通りに、レイは席に着いた。ミスト、クキィ、シリックも、各々椅子に座る。
「アーディたちから話は聞いている。この十二時間が、デウス社を潰す最大の好機。まず、現状を整理しよう」
 ラインの言葉に応じて、アーディが机の上に置いたノートパソコンを操作した。ディスプレイに画像が映る。それは、デウス・シティの地図だった。
 十キロ四方の正方形。それがデウス・シティである。そこから五キロ北に向かった所に、二キロ四方の正方形があった。これが、デウス社。
「現在、ミスト博士が送り込んだウイルスによって、街の全機能は停止している。しかし、その副作用で外部へ通じる回線も切断されてしまった。我々が集めた、デウス社の不正データを公表することもできない」
 ラインは全員を見回し、言った。
「我々がやるべきことは、ふたつ。デウス社の制圧と、不正データの公表」
「不正データを公表すれば、国際連盟が動くわ。ずっと前から極秘裏に計画されてた、デウス社解体計画がね。でも、デウス社の制圧は、面倒よ」
 ミストが口を挟む。
 アーディが尋ねた。
「ミスト博士……さっき、戦争が起こると言っていましたが、どういうことです?」
「中枢コンピューターの停止で、警備官の指揮系統は混乱状態。中枢とリンクしているイータも機能停止状態。武器格納庫はあたしが爆破してきた。だけど……」
 苦しげに、ミストは告げる。
「デウス社には、オメガ汎用機が残ってる」

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