Index Top 第4章 明かされた事実

第2節 作戦開始!


 タイム電子工学社。
 十五階建ての、白い建物である。無機質で特徴と言えるものは、何もない。外見だけなら、周囲に並ぶ建物と変わらないだろう。
 その前の大通りに、トレーラーは停められていた。レジスタンス五人の乗った車の他には車は一台も見られない。
 助手席から降りたレイは、後部座席から降りたシリックとクキィを見やった。二人とも、武器は手放していない。顔にも緊張が見られる。
 レイは跳び上がり、運転席の屋根に乗せてあったテンペストを掴んだ。地面に下りて、ミストが運転席から降りてくるのを見やる。
「こっちです」
 アーディに手招きされて、レイたちは会社の入り口へと向かった。その最中、歩きながら、ミストが小声で呟く。シリック、クキィにようやく聞こえるほどの声で。
「二人とも……。あとで、大事な話があるから……」
「なに?」
 シリックがミストを見返すが。
「早くしてください」
「分かったわ」
 答えて、ミストは小走りにアーディたちの後を追った。
 二人が尋ねるような眼差しを向けてくる。しかし、レイは二人を見やって、小さく吐息しただけだった。ミストが話すべきことは、ミストが話すべきだろう。そう判断して、アーディやミストの後に続く。
 入り口の自動ドアをくぐり、会社の奥へと歩いていった。
「何だか、レジスタンスって感じがしないな?」
 周りを見ながら、シリックが呟く。平凡を絵に描いたような白い壁と扉。デウス社に反抗する組織から、もっと仰々しいものを考えていたらしい。
「レジスタンスって感じがしてたら、見つかっちゃうでしょ」
 マントを揺らしながら、クキィが呟く。
 やがて、廊下の奥にたどり着いた。何もない白い壁。
「隠し扉か――」
 レイの呟きをよそに、アーディが何もない壁に触れる。その仕組みは分からないが、壁に人一人が通れるほどの扉が現れた。
「この下が、レジスタンス本部です」
 アーディが扉の奥を指差す。そこは、地下へ続く階段になっていた。階段は螺旋状になっているため、一番下がどうなっているかは分からない。
「この下にある廊下の奥に、会議室があります。マスターを呼んで来ますので、会議室で待っていてください」
「ちょっと待って」
 立ち去ろうとするアーディを、ミストが呼び止めた。
「レジスタンスの中で、一番コンピューターに強いのは、誰?」
「僕ですけど」
「じゃあ――これ、お願い」
 背中のカバンから取り出した四角い紙箱を、アーディに渡す。十二センチ四方の直方体で、上に蓋がついていた。外見からでは、中身は分からない。
「何ですか? これは――」
「ウイルスの入ったデータボード十枚。デウス社の中枢コンピューターは今、あたしが放ったウイルスで全プロテクトが外れてるわ。今なら、いくらでも侵入可能よ。だから、二時間おきに、このウイルスを注入して、機能を停止させておいて。ついでに、不正データの取り出しもね」
「分かりました」
「あと、あたしが乗ってきたトレーラーに、デウス社から持ち出したありったけの装備と弾薬が積んであるから、それを持ち出しておいて。あと数時間で、戦争が起こるから」
「戦争、ですか?」
 訊き返すアーディ。
「詳しいことは、後で話すわ。あ、そうそう。一番奥にある、おっきな機械には触らないでね。あれは、あたしの武器だから」
「はい。分かりました」
 と返事をして、どこかへと去っていく。
 ミストは扉をくぐり、階段を下りていった。レイはミストに続くように、階段を下りていく。階段は一回転半したところで、終わった。
 廊下の左右には、白い壁と扉。一階の廊下と変わらないが、廊下の長さは若干短い。奥には会議室と扉がある。
 扉を開けると、会議室。正面の壁にはディスプレイがあり、長方形の机。椅子の数は二十。他に何もない。余計なものは置かないらしい。それとも、置くものがないのか。
 レイは近くの壁にテンペストを立てかけた。
 どこの席に座るでもなく、マントを脱いだクキィが尋ねる。
「ミスト博士。さっき、わたしとシリックに、大事な話があると言ってましたよね。話って、何なんですか?」
「ごめん。それは、まだ言えないわ」
 ミストはすまなそうに首を振る。
 レイはミストが言おうとしていることに心当たりはあった。それが正しければ、まだ言うわけにはいかないだろう。だが、いつか言わなければならない。
 今度は、シリックが呻く。
「そういえば、あんた……何で、デウス社にもぐり込んでたんだ?」
 問われて、ミストはシリックを見やった。これならば、答えても支障はない。

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13/4/7