Index Top 第1章 砂色の十字剣士

第2節 砂色の男


「…………」
 しかし、誰も何も言ってこない。未知のものを見るような目で、自分たち見つめている。ややしてから、その眼差しは失笑とため息にに変わった。
「ウヒャハハハハハ。こりゃ、上等だ!」
 笑ったのは、酔払いの男である。テーブルをばしばし叩きながら。
 男に向かって、シリックは怒声を上げた。
「何がおかしい!」
「今時、酒場で仲間を探すハンターなんて! ヘヘヘ、そんなの、一体、いつの時代の話だよ。今はな、仲間ってのは……ヒク。街の中央地区にあるハンター情報協会って所で探すんだよ。そんなことも知らねえのか? 常識だぜぇ」
「わたしたちが住んでたのは、田舎ですから」
 馬鹿笑いする男に、クキィが真面目に答えている。
 シリックは、顔が真っ赤になるのを自覚した。ようするに、自分たちは田舎者の世間知らずであることを、思い切り暴露したのである。これでは、ただの馬鹿だ。
「行こう。姉ちゃん」
 一刻も早く酒場を出ようと振り返ると。
「おい、君」
 呼び止められる。どことなく間延びした若い男の声。
 再び振り返ると、カウンターの一番奥の席に座った男が手を挙げていた。
 年は二十歳ほどだろう。温厚そうな顔立ちに、どこか眠そうな金色の瞳、癖のある髪は褪せた黄色――砂色である。体格は中肉中背で、目に見えるような傷はない。服装は、前の開いた何の変哲もない半袖の上着と、丈夫そうなズボン。これらも髪と同じ砂色だった。
 砂色の男は、持っていたフォークを置き、自分を指差した。
「さっきの答え。ここにいる奴で一番強いのは、俺だ」
「は?」
「君たち、仲間を探してるんだろ? 俺は、何でも屋だ。見たところ、何か深い事情があるようだな。困ってるなら、手を貸すぞ」
 砂色の男は食事をしながら、人の好さそうな声で言ってきた。
「こんな田舎モンに、どんな事情があるんだよ?」
 酔払い男が笑いながら茶化すが。
 右手に持ったフォークを動かし、こともなげに言い返す。
「ノートゥングなんか持ってる奴が、何の事情もないってことはないだろ?」
「………」
 シリックは愕然と、砂色の男を見つめた。ノートゥング。自分が背負っている銃の銘である。だが、一般人がそうそう知っているような代物ではない。
「何者なんだ……あんた? こいつを一発で見抜くなんて……」
「まあ、とりあえずこっち来い。話はそれからだ」
 砂色の男が、気安く手招きする。
 しかし……
 そちらへ行くことはできなかった。
「レイ・サンドオーカー! 出て来い! ここにいることは分かってんだ!」
 酒場の外から大声が響く。数発の銃声。
「何だ?」
 シリックは酒場の扉を開けた。他の客も席から立ち上がり、何事かと外を見る。
 大通りを占拠するように、四人の男が立っていた。どこにでもいる街のチンピラといった顔立ちだが、全員が黒い防弾ジャケットを着て、銃を持っている。四つの銃口は、酒場の入り口に向いていた。
 四人には誰も近づかない。
 通りを歩いていた人も、遠巻きに見ているだけである。が。
「あなたたち、もしかして強盗ですか?」
 単純に疑問に思ったのだろう。緊迫感もなく、クキィが問いかけた。
 その質問に、一番後ろにいるショットガンを持った男が叫ぶ。
「違う! 俺たちは、この街のバウンティーハンターチーム・ヘルハウンズだ。この酒場に、賞金首のクルスフェンサー=レイ・サンドオーカーがいる。砂色の男だ! さっさと出て来い!」
 砂色の男という言葉に、その場にいた全員が店内に視線を転じた。
「そろそろ来るとは思ってたんだが……何でいつも食事時に来るかな? だが、剣士たるもの、降りかかる火の粉は払わねばならない――」
 言いながら、レイは、椅子から立ち上がった。傍らの壁に手を伸ばす。
 奥の壁に、細長い十字架が立てかけてあった。縦軸の長さは二メートルほど。上端五十センチの所から、左右に五十センチの横軸が延びている。それらの色は鈍い金色だ。縦軸の下百五十センチは澄んだ銀色である。幅は三センチくらい。
 皆が訝しげに見ていると、レイは十字架の縦軸の上側を掴み、肩に担いだ。十字架の向きとしては逆であるが、気にしてはいない。急ぐでもなく怯むでもなく、ごく自然な足取りで歩いてくる。
「十字架なんか、どうするんだ?」
 シリックが訊くと、レイは笑って、
「これは剣だ。十字剣・テンペスト」

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12/9/2