Index Top 我が名は絶望――

第4節 黒衣の男


 発掘隊から離れた最後尾の四人に命じた任務は、単純だった。
 自分たちを追ってくる人間を抹殺すること――。
 フルゲイトの発掘。今まで何度も行われて、ことごとく失敗してきたことである。発掘隊を組織したところで、それを気に留める者はまずいない。だが、酔狂な冒険者などが追いかけてくるかもしれない。そう考えて、フルゲイトの発掘を邪魔する人間を本隊とぶつかる前に片つけようと、実力のある四人を発掘隊の最後尾に選んだのである。この四人ならば、相手がよほど強くない限り、負けることはないだろう。
 しかし。
「信じられないな……」
 呻きながら、クロウは目の前にいる金髪の男を見つめた。
 発掘隊の最後尾を務めていた四人の内の一人――ハークが大急ぎで走って来たのは、つい数分前である。だが、他の三人は戻って来なかった。
 ハークの話によると、発掘隊を追いかけてきたのは三人。天才と名高い考古学者フェレンゼに、呪符魔法を扱うらしい少女、あと黒衣をまとった長い銀髪の男である。ハークたち四人で倒せない相手ではなかったはずだ。だが、銀髪の男はハークを除いた三人を三十秒もかけずに倒してしまったのだという。魔法も、武器さえも使わずに。
 正直、信じられない話だった。が――
「オレたちでも、全然歯が立ちませんでした」
「ふむ」
 クロウは思案するように、周囲を見回す。
 針葉樹の森の中にある、木の生えていない開けた草地。森の中はすっかり暗くなっていた。隊は、とりあえず休憩状態にしてある。数個の魔法の明かりが照らす中、辺りでは二十七人の部下が各々休息を取っていた。
 自分たちを追ってきた者――フェレンゼは、意外というほどでもなかった。考古学の一大権威がフルゲイトの発掘というのを無視するはずもない。呪符魔法を使うらしい少女は、フェレンゼが雇った傭兵か何かだろう。しかし、この二人はそれほど問題ではなかった。問題なのは、最後の男である。
「黒衣をまとった長い銀髪の男……」
 そのような容姿の人間に、クロウは心当たりがあった。間違いはないだろう。それでも否定されることを期待しながら、ハークに問いかける。
「もしかして、そいつは……ディスペアという名前ではなかったか?」
「え……ええ、確かフェレンゼが、そう呼んでいました」
 頼りない口調で、ハークが答える。
「まずいな……」
 クロウは親指の爪を噛んだ。不安が的中してしまったことに、顔をしかめる。
 その様子を見て、ハークはおずおずと訊いてきた。
「あの……。あのディスペアという男、何者なんですか?」
「黒衣の闘聖、銀髪の武神などと恐れられる戦士――私も詳しいことは知らないが、そいつは魔法を一切使わないらしい。だというのに、その強さは超人的……。一対一で奴と戦って勝てる人間はいない、とまで言われている。その話の真偽は不明だが、無傷で倒せるような相手ではないことは確かだ」
 クロウの話に、ハークが息を呑む。
「フルゲイトまであと少しだというのに……」
 フルゲイトが先か、ディスペアとの戦いが先か――
「仕方ない……。ここで迎え撃つ」
 周囲の部下を眺め、クロウは決断した。

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