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第4章 悪巧み


 前回のあらすじ

「……んっ! ああっ、イくっ! あっ、んんっ! うんっ……!」
 背骨を駆け上がる衝撃に、思わず背を丸めて眼を閉じる。目蓋の裏に星が散り、身体が何度か痙攣した。両足を閉じて大井の手を挟み、体内にある指を締め付ける。


「これで気が済んだ……ん?」
 不意に左足が崩れた。身体が傾き倒れかけるも、咄嗟に左手でテーブルを掴み、転倒を防ぐ。まるで糸が切れたように。右腕や足からも力が抜けてた。
「お前……」
 目蓋を半分下ろし、正面を見る。
 大井はぺろりと自分の右手を舐めてから、
「はい。一服盛ってみました」
 邪悪な笑みを浮かべた。

 身体から力が抜けていく。
「弛緩薬か、これは……」
 その症状にツクモは薬品の見当を付けた。筋肉を緩ませ、動きを封じる薬。興奮していたせいで身体が症状を誤魔化していたが、気を抜いた事で一気に効果が現れたのだろう。
「さきほどのカフェオレに入れてみました。あと媚薬少々」
 楽しげに言いながら、大井がツクモの身体を押さえる。振り解こうにもまともに身体がまともに動かないため、どうすることもできない。
 大井は手早く上着を脱ぎ去り、ついでにブラジャーも脱がせてしまう。上半身裸となったツクモの、いや北上の身体。布一枚無いと、少し寒い。
「どこで手に入れた?」
 とりあえず訊く。
 手足はまともに動かないが、呼吸や発音はさほど問題無い。そういうタイプなのだろう。主に特殊な尋問などに使われる薬剤か。簡単に手に入れられるものではないが。そもそも艦娘の身体に作用できる薬剤自体珍しい。
 得意げに胸を反らし、大井が瞳を輝かせる。手の甲を口元に添え、右腕を大きく振り、
「こんな事もあろうかと! 工廠の妖精さんに羊羹十本渡して作っておきました! 備えあれば嬉しいなという事ですね!」
「あいつら……」
 工廠にわらわらいる妖精たちを思い浮かべ、ツクモは納得した。
 艦娘同様の英霊の破片たちにして、古来より生きる奇跡の欠片。指示には従うが、とにかくマイペース。そして、その力は時に理不尽である。
「というわけで、諦めて下さいね」
 キラキラをまといながら、大井はどこからか取り出した荷造り紐で、ツクモの両腕を頭の上で縛り上げた。弛緩剤の効果で動けないが、念の為だろう。
「お前は気が強いと見せかけて、実は結構へたれの常識人だけど、時々明後日の方向に凄まじい行動力見せるよな……」
「ふふふ。誉めても何もでませんよ」
 得意げに笑いながら、大井はツクモを抱え上げた。
「やっぱり、ほら。わたしって北上さんに攻められるよりも、北上さんを攻めたいんですよ。こう、ベッドの上で組んずほぐれつって感じに」
 くねくねと身を捩りながら二段ベッドに移動する。
 そのままベッドの一段目へと寝かされるツクモ。すぐ上側に上の段が見える。横には梯子が掛けられていた。狭い空間。息苦しさとともに、妙な背徳感をも覚える。
「まったく……油断したな」
 弛緩薬で身体は動かず、腕を縛られ、上半身は裸。しかし、下半身はスカートとスパッツとついでに靴下という、上級者向けの格好となっている。
「嗚呼……北上さんて、素敵……」
 両手を頬に添え、うっとりと呟く大井。
 ツクモはあくまで冷静に口を開いた。
「喜んでいるところすまない、がッ!」
 弛緩しきっていない筋肉を一気に爆発させる。素早く大井の方向へと両足を伸ばし、その胴体を足で絡め取った。いわゆる蟹挟みから、上半身を跳ね上げる。
 驚きに眼を丸くする大井の頭に、ツクモは身体を跳ね上げた勢いのまま自分の頭を押しつけた。正確には叩き付けたであるが。
「お前は詰めが甘い……!」
 ガツッ!
 眼の後ろに火花が散る。
 黒く白い闇の中で、形を成していたモノが外れ、外れた部品がすぐさま引き寄せられるように元の形に戻る。しかし、それは元々あった場所では無い。すぐ近くにあった別の場所だった。ふたつの部品が入れ替わる。
 ふっと光が戻り。
 ツクモは二歩後ろに下がってから、ぶつけた頭を手で押さえた。
「痛い……」
「痛ァい! 何するんですか提と……え?」
 そんな叫び声が投げつけられる。
 ツクモは片目をつむり、右手を軽く持ち上げた。
「成功」
「わたし!?」
 腕を縛られ上半身裸となった北上が、驚いたようにツクモを見つめていた。本来あるべきではないとばかりに。
 次に、慌てて視線を己の身体に向ける。
「北上さんになってる……!?」
「名付けて、不動入れ替わりの術」
 髪の毛を軽く掻き上げ、ツクモは勝ち誇ったように宣言した。
 ツクモの意識は大井の身体に移っている。そして大井の意識は北上の身体に納まっていた。つまり、大井とツクモは入れ替わった。
「なっ、な……」
 自体を飲み込めていない様子の大井。
 ツクモが目覚めた能力は、あくまでも艦娘内部の妖精に干渉する技術である。艦娘に意識を移せるのは、そのうちのひとつでしか無い。原理を理解すれば、色々と出来ることが増えるものだ。限度はあるものの。
 ツクモは自分の身体に視線を向ける。
「なんというか、大井って胸大きいよな。北上の二倍はありそう」
 両手を胸の下に差し入れ、胸全体を持ち上げた。ずしりと手に掛かってくる重量。手触りも北上とはまた違ったものである。
 顔を赤くして、大井が叫んだ。
「あっ。何触ってるんですか、変態!」
「いえいえ、今はわたしの身体なんで、問題無いです」
 大井の真似をしつつ、ツクモは満面の笑みで手を振ってみせる。
 ジト眼で言ってくる大井。
「……真似しないで下さい」
 姿形は北上なのに、台詞と表情は大井である。奇妙なものだった。自分の知っているものが、自分の知っているものではない違和感。それをやったのは自分であるが。
 ふと思いついてツクモは呟いた。
「それにしても。お前、身体変わったのに、あんまり声変わってないな」
「……わたしも北上さんも、声帯の妖精さんは一緒ですからね」
 やや視線を逸らして、大井が呻く。
「で――」
 にまりとイヤらしい笑みを浮かべつつ、ツクモは両手をすりあわせた。ベッドに仰向けになったままの大井を見下ろす。
「これがいわゆる、まな板の鯉ってやつか」
「な、何する気ですか!」
 慌てる大井に、ツクモは笑顔で瞬きを返した。
「いやー、大井っちにも、北上さんの気持ちよさ体験してもらおうと思ってね。他人の身体の快感知る事ができるって、滅多に無い事だし、貴重な体験だよ」
 と、北上を真似しつつ告げる。
 上半身は裸、下半身はスカートとスパッツの少女。仰向けにされて両手は縛られている。襲ってくれといわんばかりの格好だ。薬を盛られて抵抗することもできない。
 もぞもぞと身を捩りながら、大井が叫ぶ。
「ちょっと待ちなさい! 北上さんを弄んでいいのは、わたしだけなんですよ!」
「つまり、わたしが北上さんを弄ぶのは問題無いってことね?」
 緩く腕を組み、ツクモは言い切った。今度は大井の真似をして。
「違いますから!」
 反論してくる大井。
 言い返すこともなく、ツクモは室内履きを脱ぎ、ベッドへと上がった。仰向けになった大井の横へと、腰を落ろす。もはや大井の全てはツクモの射程内である。
 威嚇するように睨み付けてくる大井。
 ツクモは指先で大井の腹をなぞり、にまりと口端を持ち上げた。
「大井っちは、あたしの身体に興味ない?」
「………」
 身体を小さく痙攣させつつ、大井が顔を赤くする。何か言い返そうと口を開くが、何も言えぬまま口を閉じた。図星なのだろう。
 大井の三つ編みを摘まんで、そお先端で胸の縁を撫でつつ、ツクモは続けた。
「わたしは北上さんが、どんな可愛い声を出すのか、とっても気になるの。きっと可愛い声に決まってるわ。というわけで、諦めて下さいね」
「うぅ……」
 何も言えぬまま、抵抗するように視線だけ向けてくる大井。しかし、その瞳に移る好奇心と期待の光は隠し切れていなかった。
「そして、これはおまけ」
 にっこりと笑い、ツクモは大井の股間に手を触れさせる。目を閉じてから大きく息を吸い込み、意識を集中させた。自身の要素をその部位へと流し込む。
 もこり、とスパッツが押し上げられた。
「なっ!」
 突如身体に増えた何かの感触に、大井が固まる。
「提督、北上さんの身体に何したんですか!」
「男のものを生やしてみました」
 ぐっと親指を立てて、ツクモは言い切った。

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18/9/30