Index Top 第4話 ルクの調整

エピローグ


 サジムは出掛けるルクを見送りに出ていた。
 元見張り台の正面玄関。分厚い木の扉を開けた先に、石畳の階段が五段続いている。その先は、石畳の歩道となっていて、正面の道へと続いていた。
「どうですカ?」
 玄関ポーチに立ったルクが、くるりと一回転する。
 その姿は人間の少女のものだった。背中中程まである赤い髪の毛と色白の肌、手足も人間と変わらない。瞳は緑色のままだが、それを気にする者はいないだろう。白い上着にと、青色のスカートという恰好で、首元に小さな黄色いネクタイを付けている。
「いつもながらよく出来てるよ」
 サジムは腕組みをしながら、その造形に感心していた。
 魔術の助けがあるとはいえ、人間と寸分変わらぬ姿を作っている。髪の毛のような形の部分も、律儀に一本一本分けられた髪の毛へと擬態されていた。
「時間掛かるのが欠点ですケド」
 普段の姿から人間の姿に擬態するには、一時間ほど掛かってしまう。その最中どのような事をしているのかは、見せたくないらしい。
 ルクは置いてあった時計に目を向けた。
「そろそろお仕事に行く時間デス」
「いつもすまんな」
 サジムは苦笑を見せる。
 行きつけの食堂兼酒場の木蓮亭。サジムの遠縁の親戚として、ルクは木蓮亭でアルバイトをしていた。家事全般は得意なので、評判はよいとの話だ。
「あと。カラサさんが、もう少し高いの頼めと言っていましタ」
 木蓮亭の女将のカラサ。ルクを気に入っているおばさんである。最近、サジムが安いものばかり注文していたのが気になっていたようだ。
「もうすぐ本売り出されるから、その時は飲むよ」
「そう言っておきマス」
 サジムの言葉にルクが頷く。
 それから、改めて一礼した。
「では、ご主人サマ。行ってきまス」

Back Top Next

11/6/29