Index Top ネジまくラセン!

第25話 夜になって


「どうですか、ご主人様! 頑張ってお掃除しましたよ」
 両手を腰に当て、マキが胸を張る。机に立て掛けられた片手箒。得意げに口元を緩め、猫耳と尻尾をぴんと立てていた。やりきったという顔である。
 掃除された床を眺め、オーキは頷いた。
「きれいになってるよ。よく頑張った」
「ありがとうございます」
 丁寧に一礼するマキ。
 オーキは視線を動かした。壁に寄り掛かっているラセンへと。ネジがあるため背中を預けることはできず、肩を預けている。疲れたように眉を落としていた。
「お前もなにげに真面目にやってたよな。文句言って適当にサボるかと思ってたけど。ちょっと予想外だった」
 腰を屈め手を伸ばし、ラセンの頭を撫でる。真面目に掃除をしないかもしれないと考えていたのだが、予想に反しマキ同様ラセンも真面目に部屋の掃除をしていた。
 壁から離れ、ラセンが腰に手を当てる。
「当たり前だ。アタシを何だと思ってるんだ、お前は?」
「この調子で掃除頼むぞ」
 ぽんぽんと軽く頭を叩くオーキ。
「むぅ」
 不服そうに口元を歪めるラセン。狐耳を少し伏せる。頬を少し赤く染めていた。褒められたこと自体は純粋に嬉しいようである。
 挙手するように手を挙げ、マキが言ってきた。
「ワタシも頑張りますよ」
「期待してるぞ」
 マキの頭に手を乗せ撫でると、嬉しそうに目を細める。
「じゃ、クリムさんに報告に行くか」
 オーキは右手をラセンの前に差し出した。
「よっ」
 ラセンは素早く床を蹴り、オーキの袖を掴むと、そのまま気を登るように腕を駆け上り、肩まで登ってくる。以前は単純に抱えられていただけだったが、最近は身体能力の向上もあり、オーキの身体を登れるようになっていた。
 左手をマキへと伸ばす。
 今の掃除を見た限り、マキはまだ身体を動かす事になれていない。
 腰に手を回し、手元に引き寄せる。前腕をお尻の下に差し入れてから、身体を持ち上げた。前腕に腰掛けさせた姿勢である。不安そうに尻尾を下ろしていた。
「失礼します」
 一言断ってから、マキがオーキの肩に捕まる。
 右肩にラセンを乗せ、左腕にマキを乗せ――。
「重いぞ……」
 オーキは思わず呻いていた。
「何を言ってるのだお前は」
「あ、ご主人様。女の子に向かって重いって、それ失礼ですよ」
 ラセンとマキ、それぞれ言ってくる。重いと言われて気分のいい女の子はいない。人形とはいえ、思考は女の子だ。小さな怒りが声に籠もってる。
「お前たち、身体に金属入ってるから、重いんだよ……」
 言い訳するように、オーキは答えた。
 ラセンたちは魔術で動く機械であるため、身体の中に金属の部品が入っている。そのため見掛けよりも重い。ラセン一人ならさほど重くは感じないが、マキも加わるとさすがに重く感じるのだ。


 時計を見ると午後八時半。クリムとマキの事に話してから、夕食を取り、今に至る。ラセンと同様オーキが面倒を見るということになった。
「寝床どうするか? ラセンと同じでいいか」
 ベッドに座ったオーキは、ベッドの横に置いてあるラセンの寝床を指差した。
 四角い箱にタオルと即席の枕を入れたものである。猫か犬の寝床とはラセンの言葉であるが、寝るのに問題は無いようだった。マキの寝床も同じものを作ればいいだろう。あるもので作れる。
「大丈夫です、ご主人様。ワタシはお姉様と一緒にお休みしますから。ようやく姉妹一緒になれたんですから、二人仲良く寝たいです」
 ラセンに抱きつきながら、マキが言ってくる。
「ええい、くっつくな!」
 ラセンは引き離そうとしているが、マキは離れない。完全に懐かれているようだった。尻尾を動かしながら、子犬のようにラセンにくっついている。
「ラセンと一緒に寝るっていうなら、寝床は作らないけど」
「アタシの意見は無視か!」
 オーキの呟きに、ラセンが狐耳を立てて叫んでくる。
 構わず、続けた。
「でも、さすがに狭すぎるんじゃないか? お前ら、背中にネジあるんだぞ。二人でこの箱に入るのは、無理だろ? 寝返りとか打ったら当たるし」
 ラセンとマキの背中にあるネジ。それなりの大きさがあるため、寝るときは邪魔になってしまう。ラセン一人ではいくらか余裕のある寝床も、二人で寝るとかなり手狭になってしまう。加えて寝返りを打ったら相手に当たる。
「うーん。そうですね。それでは仕方ないですね」
 ラセンから離れ、マキが肩を落とした。猫耳と尻尾が一緒に垂れる。この寝床に二人で寝るのは無理と理解したらしい。
 ラセンが安心したように吐息している。
 それからマキはオーキに向き直り、頭を下げた。
「では、ご主人様。すみませんが、ワタシの寝床をお願いします」
「わかった」
 オーキは応えた。

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13/10/3