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第9章 情報補充


 机の上に置かれたランプ。
 オーキはベッドに座って、机の上に立ったラセンを眺めていた。
「というわけだ……」
 両腕を組み、ラセンが深々とため息をつく。
「ああ。それは面倒だな。フリアルさんも変な事考える人だ」
 オーキもクリムから大体の事情を聞かされていた。ラセンの魔術機構を安定して動かすためには、定期的に人間の情報を加える必要がある。体毛や汗、唾液から血液、肉、さらに内臓から脳髄まで。量の大小はあるが、人間の部位は人間の情報を含んでいる。
 ラセンは性交によって男の精を取り込めるように作ってあるらしい。
 もっとも。
「血でいいか?」
 オーキはそう尋ねた。
 実際はその機能はラセンをからかうために付けたのだろうとは、クリムの言葉である。クリムも思わずからかってしまったとか。血液を一滴舐めさせれば、しばらく情報は維持できるらしい。必要ならばクリムが恒常固定した情報を組み込んでしまうとのこと。
 そこは好きにするようにと言われていた。
「ん?」
 尻尾を持ち上げ、ラセンが瞬きをする。
「まあ……かまわん」
 頷いた。
 一度息を吐き出し、オーキはベッドの枕元に置いてある裁縫箱を開けた。中から絆創膏とまち針を取り出す。絆創膏はポケットにしっておく。
 ラセンの狐耳が跳ねた。
 まち針を一本右手で取り、オーキは左手の小指を立てた。唇を舐めてから、呼吸を止める。裁縫中に誤って手に針を刺すことはあるが、自分から刺したことはない。
 意を決し、小指に針先を当てる。
「っ」
 腕を駆け抜ける細い痺れ。
 目元と頬を微かに歪めてから、オーキはまち針を針山に戻した。
 瞬きしながら、ラセンが口を開けている。
「やっぱり痛いな……これ」
 ベッドから立ち上がり、オーキは机の前まで歩いていった。何度も体験はしているが、針の刺さる痛みは慣れるものではない。右手で小指を押すと血の玉ができる。
「これでいいのか?」
 小指をラセンの前に差し出した。
 黄色い瞳が小さな血の玉を見つめる。
 そして、何も言わずに小指に噛み付いた。小さな歯の硬さ。指先に感じる暖かさ。唾液の感触。小さな舌が血を舐め取るのがわかった。ラセンは人形であるのに、妙に生物的な部分がある。無駄に作り込まれたこだわりとクリムは話していた。
「んー?」
 小指から口を話し、ラセンが口を動かしている。
 喉が動いた。呑み込んだらしい。
「ほほう」
 それから両手を持ち上げた。何度か握って開いてを繰り返してから、驚いたように眉毛を持ち上げる、オーキには分からないが、ラセンは自分の変化を感じ取っているようだ。ぱたぱたと尻尾が動いている。
 オーキは絆創膏を小指に巻いた。一日経てば傷は塞がるだろう。
 眉を寄せ考える。
 情報の補給は一週間に一度くらい行う必要がある。そのたびに指に針を刺すのは辛い。クリムに頼んで情報の固定化してもらうのが無難だろう。
「おい、小僧」
 ラセンが両手を腰に当て、オーキを見上げていた。
「何だ?」
「アタシを抱け」
 自分の胸に手を当て、きっぱりと言ってくる。黄色い瞳に映った強い意志。
 オーキは口を閉じた。情報の補充方法が男女の性交と告げられ、戸惑ったり覚悟を決めようとしたり、色々悩んでいた。しかし、オーキは迷わずラセンに自分の血を与えた。それがラセンの面子を傷付けたらしい。
 それを挽回するために、無茶な事を言い出したのだろう。
「男と女の交わりがどういうものか、知らないという歳でもないだろう? お前のような男がこんな美少女を抱ける機会なんて、一生に一度あるかないかだ。アタシから誘っているのだ。何も問題はない。いいからアタシを抱け!」
「お前な……」
 右手で頭を押さえ、オーキは肩を下げた。
 どう反応していいのかわからない。上手く宥めて諦めさせるべきなのだろうが、それではラセンの気が収まらないのだろう。
「ええい、煮え切らんヤツだな。アタシをお前の好きにしていいと言っているのだ。言うとおりにしろ。アタシも文句は言わない。全てを受け入れる。何しても構わん!」
 一歩前に踏み出し、ラセンが叫ぶ。
 すっ、とオーキは手を下ろした。
 両手をラセンの脇に差し込み、その身体を持ち上げる。身長五十センチ強の人形のような身体だ。重さは四キロくらいと、外見よりもやや重い。中に金属の部品などが入っているからだろう。
 オーキの口元に薄い笑みが浮かんでいる。
「あ……」
 ラセンの狐耳と尻尾が垂れた。
 頬に薄く汗が滲んでいる。
「今のは無しで」
「却下」
 ラセンの呟きに、オーキは笑顔でそう返した。

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12/10/11