Index Top 第7話 緑の出来心

第3章 夢か現か


 ふっと身体が浮き上がる感触。
「?」
 ピアは顔を上げた。
 窓から差し込む日の光に、眉を寄せる。
 思考の空回りする音を聞きながら、息を吐き出した。身体が少し重い。近くに置いてあった眼鏡を掛け、背筋を伸ばす。頭にかかった霞が抜けていった。
 肩にかけられた丈の長い緑色の上着。ミゥの着ている上着である。
「あれ? わたしは……」
 テーブルに突っ伏して眠っていたらしい。時計を見ると午後三時だ。
 暇ができてしまい困っていたら、ミゥにお酒の試飲を頼まれた。それから一緒にお酒を飲んで、そこからの記憶が飛んでいる。
 酒瓶とコップは片付けてあった。
「うん?」
 曖昧な記憶が頭に浮かぶ。
 千景の部屋でミゥと情事に及んでいたような気がする。よく思い出せないが、その記憶は確かにあった。おそらく夢だろう。だが、断言する根拠がない。
「夢ですよね?」
 肩に掛かっていた緑色の上着を畳み、手で身体を触ってみる。異常はない。少なくとも異常と思える部分はない。
 ミゥの上着を両手で持ち、ピアは椅子から降りる。床に下りる前に羽を出し、空中へと留まった。飛ぶよりも歩く方が燃費はいいのだが、人間の使う建物内では飛んでいた方が疲れない。誤差範囲ではあるが。
「ミゥ」
 戸を開ける。
「あ。ピア、ようやく起きましたねー。おはようございますー」
 部屋に入ってきたピアに気付き、ミゥが声をかけてきた。作業用の机に向かって薬を混ぜている。その態度はいつもと変わらぬものだった。緑色の上着は着ている。ピアが持っているものとは別のものだ。
「あんまり気持ちよさそうに眠っていたので、起こすのも気が引けましたから、そのままにしておきました。風邪引いてないですよねー?」
 笑顔でそう言ってくる。
 それから不思議そうに瞬きをした。
「何です? ボクの顔に何か付いてます?」
「いえ……」
 ピアは目を逸らした。ミゥの様子に不自然なところはない。普段と変わらないだろう。あれは夢だったらしい。ピアは素直にそう結論づける。
「上着お返しします。ありがとうございました」
「どういたしまして」
 ミゥは頷いて上着を受け取った。

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12/5/12