Index Top 第4話 青の受難

第7章 ゆだねる


 抱きしめたシゥは、人形のように小さかった。
 普段から見ているが、こうして直接触れてみると、その小ささがはっきりと分かる。人間の三分の一くらい。両手で十分に抱えられる大きさと重さだった。
 千景の胸に顔を押し付け、シゥは力を抜いている。
 ふと手を上げるシゥ。
 千景はシゥを抱きしめていた手を緩めた。
 椅子に座った千景の膝。そこに軽く立ったまま、シゥが見上げてくる。
「ミゥが言ってたが。お前の汗とか唾液とかって、媚薬作用があるんだってな?」
「………」
 千景は眉を落とし、空笑いとともに視線を泳がせる。
 媚薬作用。言い方はおかしいが、間違ってはいない。発情発作とミゥは呼んでいた。千景の体組織を取り込むことで、通常の数倍まで妖精炎の強化がなされ、その副作用として発情したような反応を起こすらしい。
 発情発作は一回だけで、妖精炎の強化は数日で消えるようだっった。
「身体が、少し熱いか……」
 シゥが寝間着のボタンを外していく。
 ボタンを全て外し、シゥは脱いだ寝間着をベッドに放った。一度広がってから微かな衣擦れの音とともにベッドに落ちる、青色の長衣。
 シゥが身に付けているのは、スポーツ用の下着に似ていた。ハーフトップのような形状で胸を覆うようなブラジャー。腰を包むショートパンツ型のショーツ。色はどちらも、薄い青色だった。自分の髪色と同じ服を着るのは、そういう文化なのだろう。
 露わになったお腹や背中には、しっかりと鍛えられた筋肉が見える。
「お前の前で服脱ぐのは、恥ずかしいな」
 右手で頭を掻き、頬を赤くしている。
 それから千景に向き直り、
「ここまでやったんだ。あとは、好きにしてくれ」
 千景は小さく苦笑してから。
 シゥの両脇に手を入れる。一度身体を持ち上げてから、机の縁に下ろした。机の縁に座ったまま、シゥは両手で口元を押え視線を泳がせている。
 何も言わぬまま、千景は両手を伸ばした。
 ブラジャー越しにシゥの胸に触れる。
「ん」
 手の平に感じる、張りのある丸い膨らみ。人間よりも小さいためやや違和感があるが、決して触り心地の悪いものではない。張りのある膨らみを両手で優しく触り、指を動かし軽く揉む。指の動きに合わせ、押し返してくる弾力。
「ん……くすぐったい」
 シゥは目を逸らしながらも、しっかりと千景の手を凝視していた。
 胸からお腹や肩へと、愛撫を広げていく。
「うぅ……」
 シゥは顔を赤くしながら、千景の手を受け入れる。
 滑らかな肌としっかりと鍛えられた肉の弾力。生き物としての暖かさ、さらに妖精炎の微かな冷気を纏った、奇妙な感触。お腹や腋の下、腕、背中へと、千景はマッサージをするように手を動かしていく。
「ふ、はぁ」
 上気したシゥの顔。目の焦点が少し乱れ、呼吸が荒くなっている。今まで感じたことのない心地よさに、戸惑っているようにも見えた。
 ブラジャーの表面に見える小さな突起。
 千景は再びシゥの胸へと手を移した。青いハーフトップブラの上から、膨らみの先端にある小さな突起を親指と人差し指で摘む。
「んん……!」
 シゥが身体を固まらせた。
 千景は二指を動かし、突起した乳首を丁寧に攻めていく。
「はっ――! はっ、はぁ……ぁぁッ!」
 身体を仰け反らせるシゥ。今までこのような体験は無かったのだろう。口をぱくぱくと動かしながら、身体を捻っている。しかし、千景の手はシゥの胸を捕らえたままだった。指の動きに合わせて、シゥの身体が小さく痙攣している。
「はッ……! は……何だよ……、ひっ……痺れ、る……!」
 身体が言う事を聞かず、千景の攻めを甘受しているシゥ。手の指が不規則に動き、口元から薄く涎が垂れている。目元には薄く涙が滲んでいた。
 千景は一度胸を攻めるのを止め、全身の愛撫へと切り替える。
「あ……頭が、焼けるかと、思った……」
 顔を赤くしながら、シゥが肩を上下させている。
 女として感じる快感。おそらく初めてだろう。元々性別という概念自体が存在しないせいか、男女の性交に対しては無知に等しかった。
「初めてだから、身体が慣れてないんだよ」
 千景はシゥの身体に左腕を添え、自分の胸元に抱き戻した。
「ん……」
 再び抱きしめられたことで、シゥが少し落ち着いたように力を抜いている。少し休憩という意味も込めて、千景は優しくシゥの頭を撫でる。指先に感じる青い髪の毛。よく手入れされたきれいな髪の毛だった。
 シゥの呼吸が戻ったのを確認してから、千景は右手でシゥの太股をそっと撫でた。引き締まった筋肉と、産毛も無いような滑らかな肌触り。
「うっ」
 神経を駆け抜ける痺れに、シゥが再び身体を固くする。
 千景は太股から、下腹部へと手を移動させた。ショートパンツか、ボクサーパンツのような形状の青い下着。その布越しに足の付け根へと指を動かしていく。
「お、あっ……! 千景ッ……」
 両手で千景の身体に抱きつき、シゥは下腹部から広がる快感に悶えていた。浅い呼吸とともに、何かに耐えるように手足を強張らせる。軽く指先で擦っているだけで、身体は震えショーツの生地が湿っていた。
「はっ……! あっ」
 シゥはただ荒い呼吸を繰り返すのみ。
「シゥ」
 声を掛けられ、シゥが顔を向けてきた。頬から力が抜け、口元から涎が垂れている。快感に融けたような目から、微かに涙が滲んでいる。
「キス、していいか?」
「キ……ああ、ンっ、好きにしろ」
 下腹部から神経をくすぐる快感に耐えながら、シゥはそう答えた。
「ありがとよ」
 小さく笑い、千景はシゥの唇に自分の唇を重ねた。
 薄く小さなシゥの唇。そこに舌先を差し込む。それに答えるように、シゥが千景の舌に自分の舌を絡ませてきた。舌先に覚える、微かな甘さ。
「ん、ん……」
 お互いの唾液を交換するような口付け。シゥの青い瞳に浮かぶ、陶酔のような輝き。度重なる快感を受け、理性が削られている。
 千景は左手をシゥの背中に回した。きれいな青い髪をかき分け、背中に手を触れさせる。最近、よく霊力を渡している場所。そして、羽の付け根だった。そこに、小さな術式を組み込んだ霊力を、少量流し込む。
「ふあ!」
 シゥが千景の口から自分の唇を放した。
「え?」
 驚いたように背後を振り返る。シゥの背中から、六枚の羽が顕現していた。氷の破片を思わせる、青白く鋭利な形状の羽である。しかし、普段の羽とは違い、ほとんど冷気を纏っていない。霊力に仕込まれた術式のためである。
「何した?」
「最近、お前に霊力よく渡してるから、羽を出させるコツが分かってきた」
 シゥの背中から広がった氷の羽を眺めながら、千景は満足げに頷く。
「おい……」
 ジト目を向けてくるシゥに。
 千景は両手を羽に触れさせた。
「ひっ!」
 途端、シゥの身体が固まる。今までの経験から、羽が敏感な部分であることは理解している。妖精炎が強力なためなのか、他の理由なのかは分からないが、シゥの羽は特別に敏感のようだった。
 千景は両手の十指を動かし、シゥの羽に指を絡める。
「はっ、羽……って! 羽はっ、何で……! はっ、ひっ」
 青い羽に指が触れるとともに、シゥは切なげな声を上げていた。
 千景は冷静に理解し、記憶する。シゥは羽が弱い。
 その仮説を確認するように、千景はシゥの羽へと指を絡ませた。
「千景ッ! ちか、げ……! あああッ、羽は……待……」
 優しく撫で、擦り、摘み、軽く引っ張り、羽の付け根を軽くくすぐったり。指が動くたびに、シゥは切なげな声を漏らしている。芯から力抜けてしまい、まともに身体が動かせない無防備状態。そこに容赦なく手を動かす。
 硬く、しなやかな羽の手触りは、癖になるほど心地よい。
「ああっ。はっ。ち、景ッ……! 羽は、駄目……だめ、待っ、て……」
 青い眼に涙を浮かべ、シゥが千景を見据えた。
 羞恥心に顔を赤く染め、目元には涙が浮かんでいる。しかし、青い瞳には興奮の色が浮かんでいた。そして、その奥に見える情欲の輝き。本人に自覚はないだろう。このまま滅茶苦茶にされてしまいたい、そんな期待だった。
 千景は両手の十指を動かし、遠慮無くシゥの羽を攻める。
「ああっ。ち……か……! んああっ、融ける……身体が融けるって!」
 千景の身体に抱きつきながら、シゥは身体を貫く快感に固まっている。今まで感じた事もないほどの強い快感なのだろう。手や足を細かく痙攣させながら、何度も小さく絶頂を迎えているようだった。
「シゥ」
 千景の声に、シゥが目を開く。
 そこに千景は迷わず唇を重ねた。やや乱暴にシゥの咥内へと舌を差し入れ、シゥの唾液を舐め取り、自分の唾液をシゥの咥内へと流し込んでいく。
「!」
 さらに千景は、シゥの身体を抱きしめながら、再び左手で背中の羽を撫で始めた。青い羽の先端から根元へと、指で梳くような動き。指を動かす度に、甘い痺れが羽の付け根へと流れていくのが分かる。
「ん……! ン……」
 度重なる快感に、シゥが身体を不規則に痙攣させていた。
 目から涙がこぼれている。
 千景は右手の指をショーツの隙間から奥へと差し込み、秘部を直接愛撫し始めた。しっとりと濡れた、滑らかな縦筋。微かな膨らみに挟まれた割れ目と、その上部にある淫核。それらを、丁寧に、だがやや荒っぽく攻めていく。
「うう……んッ……! ンンンン――!」
 全身から襲い来る快感に、シゥは一気に絶頂を迎えていた。性的絶頂を迎えるのは、おそらく生涯で初めてなのだろう。千景に抱きしめられて、唇を塞がれたまま、身体を貫く快感に何度も何度も身体を震わせる。
「ああ、あ……」
 見開いた目から涙がこぼれ落ち、横隔膜と喉が痙攣していた。それは、シゥの生涯で最大の快感だったのだろう。光の消えた両目から涙がこぼれ落ち、口元が緩んだ笑みの形を作っていた。
「あたま……まっしろ……」
 気の抜けたシゥの言葉。
 しかし、いきなりシゥが身体を震わせる。
「あ……あっ! ぁ!」
 力の抜けた手で自分の身体を抱きしめた。急に見せる焦りの態度。しかし、それは意味をなさなかったらしい。シゥは目に涙を浮かべ、必死の声音で言ってくる。
「千景ッ、見るな……!」
 シゥの秘部を撫でていた手に感じる、暖かな水の感触。
 シゥの股間からこぼれた生暖かい液体が、千景の太股を濡らしていた。どうやら、意識の限界を超えた快感に、失禁してしまったらしい。
「うぅ……見ない、で……」
 シゥは泣きそうな顔で目を逸らす。
 千景は苦笑しながら、宥めるようにシゥの頭を撫でた。

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11/8/18