Index Top 第2話 緑の探求心

第6章 発情発作


 左手でミゥの身体を支えたまま、右手で首筋を撫でる。
「ひゃぅ……!」
 小さく声を上げて、ミゥが身体を縮めた。三対の羽が揺れ、緑色の燐光が散る。
 千景に撫でられた辺りを手で触りながら、
「ん……凄いですねー。ふふ、雷みたいですよー」
 頬を赤く染め、楽しそうに笑う。さきほど見せた弱気な態度は消えていた。自分の身体の変化に、興味津々のようである。このような事をしたのは初めてなのだろう。
「服脱がせるぞ」
「どうぞー」
 千景はミゥの服のボタンに手をかけた。三箇所の小さなボタンを外し、両手で服を脱がせる。千景が手を放しても、ミゥは羽で浮かんでいるため、体勢を崩すこともない。
 服をはだけられ、薄く熱を帯びた白い肌が露わになる。身に付けているものは緑色のブラジャーとショーツだけ。下着の形はピアと同じに見えた。
 脱がせた服を机に乗せておいく。
「ふふふ、どうですか、ボクの身体はー?」
 そう言いながら、ミゥはブラジャーを外した。丸い胸の膨らみが微かに跳ねる。脱いだブラジャーを適当に投げ捨て、ミゥは自分の乳房を軽く持ち上げる。
「結構自信あるんですけどねー――んッ!」
 千景が胸に触れた瞬間、目を閉じて身体を固くした。呼吸が止まり、身体に力がこもる。自分で触るのと、他人が触るのでは感じ方が違うのだろう。
 千景は優しく手を動かす。
 手に触れる柔らかな曲線と弾力。妖精サイズとしては大きいだろうが、人間である千景には小さな胸だった。それを指で丁寧に撫でていく。
「ふあぁ、んんあっ――」
 甘い声とともに、ミゥが千景の手に触れた。胸を撫でるのを拒否するわけでもなく、ただ手に乗せるだけ。薄い桜色の胸の突起が震えている。
「うう……んっ。ビリビリします……んぁッ」
 ミゥの身体が不規則に痙攣していた。
 千景の指先が胸の縁をなぞり、先端への膨らみをなぞり、全体を包みながら軽く指を動かす。そのたびにミゥは身体を震わせ、細い声を漏らす。
 千景は親指をそっと乳首に触れさせ、擦るように指を動かした。
「あっ、ひぅ……」
 軽く身を捩るミゥ。しかし、千景の指は動きを止めない。神経を走る快感にミゥの手足が意志とは関係なく動いているようだった。
 千景の親指が、つんと勃った乳首を擦り、転がし、押しつぶす。拙いが、丁寧な動き。ミゥは逃げることもなく、胸から広がる刺激を無抵抗に受け止める。身を捩りながら、身体を縮めるように。
 不意にミゥが息を止めた。
「ん……あっ、ひぃああァッ!」
 目を閉じ背中を丸めて、高い声を上げた。今までの硬直が嘘だったかのように、全身が跳ねる。緑色の髪が揺れた。背中の羽が輝きを増し、緑色の燐光を空中に散らす。
 床に落ちる前に消える緑の光。
 ミゥから手を放し、千景は瞬きをした。
「もしかして……今、イッたか?」
「うーん……イくって性的絶頂って意味ですか? 多分、そうだと思いますー。話には聞いていましたけど、凄いですねー。これ。快感が爆発したみたいですよー!」
 両手で自分の肩を抱きながら、ミゥが笑う。初めての体験に、興奮を隠し切れないようだった。緑色の瞳を輝かせていた。
「でも、まだ足りませんよー……?」
 目を細め、誘うように右手を差し出してきた。
 その手に左手を絡め、千景は右手を伸ばした。きれいな太股に指先を這わせてから、秘部に触れる。ミゥが小さく身体を強張らせた。大事な部分を触られるのは、やはり抵抗があるらしい。しかし、それ以上の抵抗はしてこなかった。
 さほど力は入れずに、千景は指を動かす。
「ふぁ。そこ、気持ちいいです――ふぁ……」
 指先に感じる生地の滑らかさと、絡みつくような湿り気。千景の手の動きに合わせて、ミゥが腰を動かしている。おそらく無意識のうちに。
 ミゥが千景の左手を持ち上げた。
「千景さん、失礼しますー」
 かぷ。
 とミゥが千景の人差し指に噛み付いた。
 千景の指を甘噛みしながら、味わうように舌を這わせる。
「あっ、千景さん、美味しいです……。もっと……」
 左手を千景の指に添えたまま、右手で自分の胸を触っていた。千景の指に腰を擦り付けながら、融けたような眼差しを向けてくる。おそらく、ミゥはこのような性的快感を味わった事が無いのだろう。自らの身体が生み出す快楽に、溺れるように身を任せていた。
「んんっ――あっ……また、来ます――!」
 千景の指に擦り付ける腰の動きが早くなっていき、
「んん、あああっ……! 千景さんんッ!」
 きつく目を閉じ、ミゥが千景の腕にしがみついた。衝撃に耐えるような体勢で。身体を強張らせながら数度痙攣する。小さく澄んだ音を響かせ、緑色の燐光が飛び散った。数秒してから、糸が切れたように脱力する。
「あうぅ……」
 千景の左腕にしがみついたまま、ミゥは荒い呼吸をしていた。
 千景はそっとミゥの頭を撫でる。滑らかできめ細かな髪の毛。
 凍えるように一度身を震わせてから、ミゥが瞬きをする。千景の腕から手を放し、羽を広げて宙に浮かんだまま、両手で自分の身体を抱きしめた。
「あれ……? まだ身体が、熱いです……」
「大丈夫かよ?」
 思わず尋ねる。
「多分、あと一回で何とかなると思いますので。お願いしますー」
 困ったように笑いながら、ミゥが左手に触れた。
 千景は左手をミゥの背中に回し、脇腹を抱えた。
 今度は指ではなく手の平で、小さな身体をさするように撫でていく。頬や首、肩や胸、お腹や腰、足まで。愛撫というよりも、マッサージのように。
「ふぁ……んんっ……。ふふ、気持ちいいですー」
 千景の手が身体を撫でるたびに、惚けたように頬を緩めるミゥ。
 その背中では、変わらずに緑色の羽が輝きを放っていた。微かに丸みを帯びた三角形で、中心に色の濃い葉脈のようなものが走っている。やはり木の葉を思わせる形状だった。それが左右に三枚づつ、合計六枚。
 千景は右手を羽に触れさせた。
「ひゃぁ!」
 変な声を上げ、ミゥが肩を跳ねさせた。
 千景は気にせず羽に指を絡ませる。固まった霧のような感触、もしくは具現化寸前の霊力。それを実物質に例えるのは難しい。
「あっ、あぅ、ふあぅ……」
 千景が羽を撫でるたびに、ミゥがぱくぱくと口を動かしている。三対の羽が弾むように動き、緑色の燐光を散らす。今までとは違う快感をミゥに与えているようだった。
 ミゥが困惑したように目を動かしている、
「羽が。ボクの……はね? はね、おかしいですよ……。あっ、うううぅぅ……」
 千景は右手で梳くように緑色の羽をなで続けた。指が羽を撫でるたびに、ミゥが身体を震わせ、燐光が散る。しかし、なにか違和感があった。
 身体を丸め、ミゥが声を絞り出してくる。
「千景さん、羽は――駄目、です……!」
「あ……ああ、すまん」
 千景は慌てて手を放した。
 放した手を見つめる。
 ミゥは羽を触られるのは気持ちいいようだが、絶頂に向かうほどの快感は作れないようだった。その結果として、焦らしになってしまうのだろう。
 呼吸を整えたミゥが笑顔を見せる。
「すいません、もう大丈夫ですよー」
「じゃ、改めて」
 千景は右手をミゥの緑色のショーツに差し込んだ。産毛も生えていない秘部に中指を這わせる。小さな淫核に秘裂と膣口。その辺りを優しく、指先で刺激していく。
「ふぁ、あうッ! ああッ! 何ですか、これは――? うぁッ、やぁっ」
 緑色の目を見開き、ミゥが突然の快楽に驚いている。
 しかし、身体は意志とは対照的に快楽を得るように動いていた。自分の腰を動かし、千景の指の動きに合わせて、さらに大きな快楽を求めている。
「あっ、身体が燃える、みたいです……!」
 千景は左手で再びミゥの羽に触れた。
「ああっ、羽は……!」
「大丈夫だ」
 そう言ってから、千景はミゥの羽を指で撫でていく。緑色の燐光を散らしながら、千景の手の動きに合わせて形を変える六枚の羽。
 その間にも、秘部を直接弄る指の動きは止まらない。
「んっ、ああっ。ボクが溶け……千景さんンンッ! ぁふあァァッ」
 右手で秘部を弄り、左手で羽を弄り、千景はミゥの身体を抱き寄せた。懐に抱え込むように抱きしめてから、尖った細長い耳に舌を這わせた。
「ひゃぅ!」
 反射的に退け反ろうとしたようだが、身体を固定されてそれもままならない。
「あっ。ひゃあぁ、千景さんッ! ちょっと、これ、本気……ふあぁ!」
 千景の口がミゥの耳を舐め、右手が秘部を弄り、左手で背中の羽を撫でる。今までに感じたこともない快感に晒されているミゥ。
 逃げようにも逃げられず、高まり続ける快感をただ甘受する。
「あああっ、千景さんんんッ! ふああっ、待っ、待って、ま――ああああッッ!」
 ひときわ大きな声とともに、ミゥは三度目の絶頂を迎えた。仰け反るように身体を反らし、羽を輝かせて緑色の燐光を撒き散らす。そのまま全身を硬直させてから、糸が切れたかのように脱力した。目元からは微かに涙が流れ落ちている。
 倒れないように、千景はミゥをしっかり支えた。
 そうして、十数秒。
 ミゥは千景の腕から離れ、少し後退する。
 荒い呼吸を繰り返しながらも、ミゥからは発情の色が消えていた。
「……ふふ。もう、大丈夫です。とても気持ちよかったですよー」
 その笑顔には、ある程度余裕が戻っている。
 千景は肩の力を抜き、椅子の背に体重を預けた。
 机の上に置いてあった緑色の長衣を、ミゥに差し出す。
 それを受け取り、慣れた様子で着込むミゥ。脱ぐときと同様に妖精炎の羽は透過しているようだった。前のボタンを留め終わってから、
「あ、あの。千景さん」
 おずおずと口を開く。
「最後にひとつお願いがあります。ボクとキスしてもらえませんか?」
 自分の唇を指で撫で、やや緊張した声音で言ってくる。
「キス?」
「あ。別に実験とかではないですからー」
「分かったよ」
 そう頷き、千景は再びミゥに左手を回した。左腕で背中を支え、右手で頭を支える。
 ミゥは頬を赤く染めたまま、静かに口を閉じる。
 千景も口を閉じ、ミゥの小さな唇に自分の唇を重ね合わせた。唇を合わせるだけの、拙い口付け。千景はそっとミゥの頭を撫でる。
 数秒してから、どちらからとなく口を放した。
「これが……人間のキスなんですねー?」
「そうだな」
 頭を掻きながら、千景はカーテンを眺める。
「ありがとうございました、千景さん」
 ミゥは満面の笑みで礼を言った。

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11/3/24