Index Top 第7話 夏の思い出?

第7章 浩介の仕返し 前編


 パチッ。
 という指を鳴らす音。
「!」
 あらかじめ告げておいた合図に、リリルは意識を取り戻した。浩介の使っているセミダブルのベッドに腰を下ろしたたまま、二度頭を左右に振ってから、部屋を見やる。もう時間は夜の六時だった。何が起ったのか分からないと言った表情。
「おはよう、リリル」
「おはよー、リリルー」
「コースケ、リョーコ? 何の用だ?」
 リリルが訝るように呻く。状況が理解できていないといった金色の瞳は、椅子の前に佇んだ浩介と凉子をどちらとなく見つめていた。警戒心剥き出しである。
 それを悠然と見返しながら、浩介は微笑んだ。尻尾を動かしながら、
「さて、こないだの貸しを返して貰おうか」
「………」
 無言のまま喉を鳴らすリリル。今の台詞だけで現況は察したらしい。理解できないほど鈍くもないだろう。一度深呼吸をしてから、睨み付けてきた。
「何を仕込んだ?」
「下着脱がせてから、いくつか合い言葉仕込んだ」
 リリルの服装は一見変化は無い。しかし、ワンピースの生地に微かな胸の突起が映っている。普段付けているショーツも子供用ブラジャーも脱がせてあった。
「たとえば……お前は敏感になる」
「ッ!」
 その呟きに、リリルは反射的に両手で身体を抱きしめる。合い言葉。一気に発情状態に移ったわけではない。だが、身体は熱く火照り刺激を求め始める。
「よく効くねー。にゃはー、やっぱりリリルは浩介くんには逆らえないんだね」
 尻尾を動かしながら、凉子が心底楽しそうに笑っていた。両頬のヒゲが揺れる。
 その態度が気にくわないのだろう。自分の身体を両腕で押えたまま、リリルは殺気立った目付きで凉子を睨み付けた。
「コースケだけならまだ理解できる……。でも何でリョーコまでいるんだよ! てか、お前ら酒臭いぞ――まさか酒呑んでるのか!」
「面白そうだから」
 笑顔で即答する凉子。続けるように浩介は笑った。
「こんなこと素面でできるわけないじゃないか。妙な事訊くなぁ、リリルは」
 酒屋で適当に買ってきた強めのブランデーを、二人で三本空けている。そのせいで、半分くらい理性のタガが外れていた。ただ、泥酔には程遠い。草眞の分身だけあって、酒にはかなり強いらしい。
 その態度に、リリルはさらに怒りを露わにする。当然の反応だろう。右手を力任せに握り締め、威嚇するように口元の牙を見せた。
「ふざけるな! アタシはお前らのおもちゃじゃねぇ! しかも、いちいち酒呑むなら、最初からやるな! ったく、何考えてるんだよ。少しは常識って――」
「リリル、人形になれ」
 その言葉にリリルから表情が消えた。握り締めていた右手が、ゆっくりと落ちる。さきほどまで動いていた尻尾もへなりと力なく垂れた。文字通り人形のように。
 動かなくなったリリルに近づき、浩介はその頬を撫でる。
「人形になると言ったら、全身が動かなくなるようにしておいた。意識はあるし五感もあるけど、今は指一本動かせないぞ。俺を睨もうとしても視線も動かない。呼吸はできるけどな。それ以外は何もできない。俺たちが何をしても無抵抗ってわけだ」
 ふにふにと人差し指で頬をつつきながら、笑顔で告げる。普段なら罵声のひとつも飛んでくるだろうが、今は完全に無抵抗だった。
「本当に人形になっちゃったね。凄いなァ、完全従属って」
 凉子も興味津々な様子で、猫耳帽子の上からリリルの頭を撫でている。
 浩介はリリルの肩を掴み、ベッドへと寝かせた。次いで、両足を伸ばす。ベッドに力なく横たわったリリル。瞳は感情もなく天井を見つめていた。
 力の抜けた尻尾を左右に動かしながら、浩介はにやりと笑いかける。
「もう何やっても抵抗はできないぞー?」
 ふっと、尖り耳に息を吹きかけるが、反応は無し。耳を指で摘んで軽く動かしてみても、何の反応も無い。しかし、感覚はちゃんと働いているのだ。
 浩介が手を放すと、無抵抗に尻尾も垂れる。
 その尻尾を今度は凉子が掴んだ。
「前から気になってたんだけど、リリルの尻尾って変わった手触りだね。ゴムみたいだけど、生き物って感じがする。生き物だけど」
 尻尾を両手で弄りながら、頬のヒゲを動かしている。やはり気になるのだろう。鞭のような黒い尻尾を左手で掴み、先端の三角形部分を右手で撫でていた。
 浩介はそっと右手でリリルの胸に触れる。
 発育途上のなだらかな胸の膨らみと、ワンピースの白い生地を押し上げる小さな突起。心持ち張っているように感じた。
「もう勃ってるかな?」
 人差し指の先で円を描くように優しく、乳首の辺りを撫でていく。指の動きに堪えるように、胸の突起が少しづつ硬くなっていた。しかし、リリルの表情に変化はない。
 空いた左手で、お腹の辺りを撫でる。
「にゃはー。浩介くん、大胆だね。でも、私も負けてないよ」
 凉子がリリルの尻尾から手を放した。再び音もなく尻尾がベッドに落ちる。
 両手を組んで軽く解してから、右手をワンピースの裾の中へと差し入れた。裾がめくれ上がり、黒いスパッツが見える。しかし、ワンピースに隠れて、どのように手が動いているのかは分からない。もぞもぞと動く白い生地。
「これはかなり感じると思うんだけど、どうかな? 人形になってるから、反応は無くて物足りないけど……。リリル、私の手気持ちいい?」
 首を傾げながら、太股とスパッツの境目を左手で撫でている。淡褐色の肌と黒い生地とのコントラスト。スパッツの裾が薄く肌に食い込んでいた。
「それにしても魔族ってきれいな肌しているよね。やっぱり精霊は違うのかな? 私もこれくらいきれいな肌欲しいなー」
 リリルの太股を甘噛みしながら、凉子が愚痴をこぼす。
 浩介は右手の人差し指をリリルの口へと差し入れる。唇と歯は力なく閉じられているだけなので、抵抗もなく指を受け入れた。指を動かし舌や歯を触りながら、左手で小さな胸を優しく揉んでいく。小さいなりに手の動きに合わせて形を変える胸の膨らみ。
「本当に無抵抗だね」
 両手で下腹部と太股を触りながら、凉子は尻尾を動かしリリルの身体を撫でていた。首筋や脇の下、脇腹やお腹などを丁寧になぞっていく。その動きに合わせて、リリルの身体が熱を帯びていくのが分かった。
 リリルもそうであるが、凉子は浩介よりも女のことを知っている。
「って、俺の周りは女好きな女が多いような……」
 口から放した指を軽く嘗め、浩介はそう独りごちた。
 リリルの尻尾を口に咥えて軽く甘噛みしながら、凉子が猫目を向けてくる。
「浩介くんも女の子が好きな女の子じゃない?」
「俺は元々男だから、女が好きなのは当たり前だって。凉子さんもリリルも、方向違えど女好きだし。生まれつき女なのに。普通に男が好きって女はいないのかな?」
 狐耳を動かしながらそう呻きつつ、浩介はリリルの上半身を起こした。続いてベッドに腰掛け身体を右に向ける。リリルの背中を自分に寄りかかるようにして、左手で肩を抱きしめた。そのまま倒れないように。
 そして、一言告げる。
「リリル、元に戻れ」
「ッ!」
 リリルの身体が一度大きく跳ねた。元に戻るよう命じると、身体にある程度自由が戻るようにしてある。ただ、身体の反応が戻り、首から上を自由に動かせるようになっただけで、手足の自由はほとんど戻っていない。
「あ、ぅあぁぁ。はっ、お前ら……。いい加減に、しろっ」
 凉子と浩介を順番に睨みながら、リリルが震え声を上げた。呼吸が乱れ、身体が熱を帯びている。今までの攻めでかなり感じていたようだった。ただの愛撫だけなので、達することは無かったようである。
「あ。戻った」
 身体を撫でていた尻尾と手を放し、凉子が猫耳を動かした。しかし、口に咥えた尻尾は放さない。ガムでも噛むように、もごもごと顎を動かしている。
「んっ、お前も、アタシの尻尾放せ……! く、ぁっ、尻尾を触られるのが、気持ち悪いことは、っ……んんっ、知ってるだろ! うぅ、お前も猫族なん……だから、な!」
 小刻みに身体を跳ねさせながら、リリルが凉子を睨み付けた。尻尾は敏感な部分らしく、普段でも触られるのを嫌がっている。他人に尻尾を触られたくないという気持ちは、尻尾のある浩介も何となく分かった。
「やだ」
 一言だけ返したまま、凉子は尻尾を噛んでいる。癖になったらしい。事実、リリルの尻尾は手触りもよく、噛み心地もよい。
「放せ……!」
 浩介に背を預けたまま、リリルはぎりぎりと歯軋りをしながら、凉子を睨んでいる。効果が無いことは分かっているはずだが、抵抗しない事はプライドが許さないのだろう。
 そのまま浩介は、一言口にする。
「リリル、次は自分でやれ」
「え……?」
 気の抜けた呟き。それが合い言葉だと理解した時には、リリルの手が動いていた。意志とは関係無く、右手が自分の胸を撫でる。
 勝手に動き出した手を凝視したまま、リリルが叫んだ。
「ふあっ、んっ……。コースケ! な……にを、仕込んだ!」
「いや、ただ命令したら自慰しろ、と」
 左腕でリリルの肩を抱いたまま、右手で頭を撫で、浩介はさらりと答える。
「バカかお前、はッ。ふあっ、くっッ……!」
 即座に言い返してくるものの、最後まで言葉が続かない。小さな胸を撫でる手の動きが声を阻んでいる。胸を撫でるように動く右手と、人差し指と親指で乳首をこねるように弄っている左手。本人が一番感じるように動いていた。
「やっぱり、自分を弄るのは自分が一番みたいだね」
 リリルの尻尾を咥えたまま、凉子が納得したように頷いている。手持ちぶさたの両手を、尻尾全体を扱くように動かし始めた。尻尾を弄るのが気に入ったらしい。それに反応してリリルの身体が震えている。
「っ、お前ら、ふざけるなぁ……! って、待て待て……!」
 胸を弄っていた右手が、下腹部へと移る。自分の意志とは関係なく、浩介の出した命令通りに動く身体。両足を広げて膝を折り曲げ、ワンピースの裾を捲り上げる。
 黒いスパッツに包まれた両足の間を、右手が丁寧に撫で始めた。
 右手でリリルの肩を抱いたまま、浩介は右手の指で頬をつつく。
「待つも何も、自分でやってるんだろ?」
「っ、あっ、お前の、命令だろー、がっ……!」
 全力で反論するリリルだが、身体は勝手に動き続ける。自分の意志は通じていない。左手で胸を触りながら、右手で秘部をほぐしていた。浩介や凉子が触るよりも強い快感を得ているらしく、時折身体が跳ねている。
 尻尾を撫でながら、凉子が興味深げにリリルの痴態を眺めていた。
「リリルってこうやってしてるんだ――。他人がしてるのをじっくり眺めるってまず無いからね、何か得した気分。でも、思ったよりも普通だよね」
「んっ、あ、アタシは見せ物じゃねぇ! 見るなッ!」
 羞恥心に頬を赤く染め、凉子に向かって叫び付ける。だが、凉子は臆することもなく尻尾を弄り続け、リリルも自分を慰める動きを止めない。
 浩介は前触れ無く、リリルの耳に息を吹きかけた。
「ひあッ!」
 背中を仰け反らせ、鋭い声を上げる。思いの外よい反応だった。
「もしかして、耳に息吹きかけられるの弱い?」
「知るか――ひゥッ!」
 再び息を吹きかけられ、リリルは悲鳴を上げた。思った以上に耳が弱いらしい。何度か口をぱくぱくと動かしてから、大きく息を吸い唸るように言葉を漏らす。
「お前は……」
「リリル、尻尾の感度上昇」
 だが、無視して浩介は次の命令を口にした。
「って――待て、ああッ!」
「浩介くん、ナイス!」
 満面の笑顔で、凉子がリリルの尻尾を攻め始める。
 今まで弄っていたのは、ただの遊びだったのだろう。それが本気の攻めへと移った。黒い鞭のような尻尾と先端の三角形を、口と両手を使って嬲るように揉みほぐしていく。さらに、凉子の尻尾がリリルの尻尾に巻き付き、尻尾の付け根当りを刺激していた。
「ああッ、こんッ、リョーコ! うっ、んんん! 尻尾は、ホント、止めろ……!」
 首を振りながら、リリルが拒絶の言葉を口にするが、誰も聞いていない。尻尾から背筋を通り、脳まで走り抜ける電撃が感じ取れる。
「まだイくなよ?」
 そう命令してから、浩介は右手でリリルの太股を撫でた。張りのある筋肉の弾力と、スパッツの生地の滑らかな感触。太股を何度か撫でてから、リリルの左手が触っていた秘部に右手を触れさせる。手の平に感じる何もない股間。
 ショーツを穿いていないため、生地の上からでも女の子の部分の形が分かる。
 リリルの手が胸へと戻っていった。
「コースケェェ!」
 噛み付きそうな形相で、リリルが睨み付けてくるが、気にしない。
 浩介はにっと不敵な笑みを浮かべてから、
「全身の感度上昇」
「ッ、くッ! ああぁぁ……!」
 リリルの喉から迸る、甘い叫び。
 浩介は人差し指と薬指で秘部を左右に開き、スパッツの上から中指で割れ目を上下に撫でていく。時折、小さく勃った淫核を指先で叩き、指先で擦るように引っ掻いていた。拙い愛撫だが、感度の増したリリルにとっては充分な刺激となる。
「あっ、はあっ……! お前はっ、どうしてッ、こういう、んンっ、ぁっ――下らない事を、ッッ、考え付くんだ、よッ! ぁふあぁ、んっッ! ふざけるなぁ!」
 浩介の手に股間を撫でられつつ、リリルが悲鳴じみた罵声を飛ばしてきた。今まで以上の快感が身体を貫いている。普通ならば達していてもおかしくない状況だが、浩介の命令が絶頂を迎えることを阻んでいる。
「お前の口は性感帯だ。味わえ」
 と、リリルの前に左手を差し出す。
「何言って、あ――ひっ……」
 左手の人差し指と中指を口に入れ、リリルはそれを味わうようにしゃぶり始めた。涎の湿った水音が、妙に大きく聞こえる。命令によって性感帯となった咥内で、浩介の指を味わう。金色の瞳に灯る、困惑と混乱の光。
「う、んっ……ふ……。んぁ……」
 舌や唇が指をしゃぶるたびに、肩が動き腰が跳ねていた。口が性感帯となり、何かを咥えるだけで感じてしまう。リリルにとって初めての体験だろう。口から垂れた涎が、浩介の左手を塗らしていた。
「うーん、さすが浩介くん。考えることが変態的」
 尻尾を嬲りながら、凉子が感心している。
 スパッツの上から人差し指でリリルの膣口辺りを撫でながら、浩介は苦笑いを見せた。あちこちの筋肉が不規則に痙攣している小さな身体。
「そろそろかな?」
 と凉子に目配せをする。
「ラジャ」
 短く答えてから、凉子が尻尾への攻めを加速させた。同時に、リリルの秘部を触っていた浩介の右手も、動きを強くする。勢いを増す身体の痙攣。既に絶頂迎えるほどの快感を得ているのだろう。
「あ゙……うぁ、あ゙あ゙……」
 リリルの喉から絞り出される呻き声。自分を含めた三人の手で、敏感になった全身をまさぐられ、だが達することは出来ないでいる。光が消えかけた瞳から、涙が滲んでいた。浩介の指を嘗める口元から、だらしなく垂れていく涎。
「よし、イけっ!」
「っ! くっ、あ――ふァ……! んッ、あっ……ぁぁッ!」
 命令の枷が外れ、リリルは一気に絶頂へと達した。限界以上まで溜まった快感が、小さな身体を音もなく走り抜けていく。両足を強張らせ、背中を仰け反らせ、顎を跳ね上げ、何度も身体を痙攣させていた。
「あ……ぁ……」
 十数秒ほどの絶頂を味わってから、リリルがゆっくりと力を抜く。
 浩介は口から指を抜き右手を放し、凉子も尻尾から手と口を放していた。まだ身体に自由が戻らず、リリルは浩介に寄りかかったまま、両手を下ろしている。
 粗い呼吸とともに、言ってきた。半ば縋るように。
「なあ……。これで……気は、済んだだろ……?」
「気が済んだって――? いや、全然。前回はお前の気が済むまで付き合ったんだ。今回は俺の気が済むまで付き合ってもらう」
 ぽんぽんとリリルの頭を叩きながら、浩介は口端を持ち上げた。事に移る前に呑んだ酒のせいで理性が半分くらい外れている。自制する気はない。
「私たち、リリルのこと弄ってただけだからね」
 尻尾を左右に動かしながら、凉子が妖しく微笑んだ。
 頬を引きつらせるリリル。その頬を冷や汗が流れ落ちる。
「何する気だ、お前ら……」
「面白いこと」
 そう答えてから、浩介はポケットから一枚の術符を取り出した。

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