Index Top 艦隊これくしょんSS 進め、百里浜艦娘艦隊

第16話 勝つためには手段は選ばず


 足下に散る水しぶき。頬を撫でる空気。
 茶色い髪の毛が揺れていた。
「神通……行きます――!」
 海面を蹴り、神通は前へと進む。進行ではない。一直線の突撃だ。
 オレンジを基調としたワンピース型の制服を纏い、額に鉢金を巻いた姿。右手に20.3cm連装砲を持ち、腰に五連装魚雷、左足太股に探照灯を装備している。そして、腰の後ろに一振りの日本刀を差していた。鍔の無い合口拵えで、柄も鞘も白樫である。
「――! ―――!」
 神通の真正面に立っている黒ずくめの深海棲艦が、叫び声を上げた。両腕に箱のような艤装を構えた戦艦ル級フラグシップ。目を見開き神通を睨み何かを叫んでいるが、何を言っているのかはわからない。
「いざ……!」
 神通は呼吸を止めた。
 既に距離は十メートルを切っている。
 雲が空の半分を覆っているが、風は弱く波の少ない海だった。
 緩やかに揺れる海面を、神通は速度を落とすこともなくル級へと向かっていた。砲雷撃戦の常識を無視した距離へと。そのまま左手で逆手に柄を握り、鯉口を切る。
 ル級との間合いが消えた。
「――……!」
 何かを叫び、ル級が艤装を盾のように構える。
 神通は刀を抜いた。刃渡りは二尺一寸。反りの無い直刀だ。刀というよりは、仕込み杖と呼んだ方がいいかもしれない。抜刀から身体を捻り、白刃を踊らせる。
 ズッ。
 一閃。
 振り抜かれた刃が、ル級を斜めに切り抜けた。右腕の艤装から、身体を通り、左腕の艤装へと。その太刀筋にあるもの全てを容赦なく切断して。
「………。――……?」
 金色の目を神通に向け、ル級が斜めに崩れた。腕や身体の切断面は、まるでマネキンのように白い。血肉のある艦娘とは違う、無機質な構造。
 響いた水音は小さかった。
 信じられないと言いたげな表情で、ル級は海底へと沈んでいく。
「またつまらぬものを斬ってしまいました」
 海面下に消えたル級を見送り、神通は小さく呟いた。
 残心は怠らず、ちらりと視線を移す。
「にゃああああ!」
 小柄な軽巡が海面を走っていた。ショートカットの紫髪に、セーラー服とショートパンツという容姿である。球磨型二番艦、多摩。
 そして多摩は両手両足をついて海面を疾走していた。まるで本物の猫のように。冗談のような走り方だというのに、しかし冗談のように速い。
「――!」
 対峙しているのは、マントとセーラー服姿の戦艦タ級フラグシップである。明らかに無茶な距離まで接近してきた多摩に、困惑しているようだった。この近距離での戦闘というものを考えた事がないのだろう。普通は考えないし、実行もしない。
 両手で水面を叩き、多摩の身体が跳躍する。
「首肉〈コリエ〉にゃ!」
 ドゴッ!
「!」
 振り上げられた右足が、タ級の首を打ち抜いた。真下から凄まじい勢いで突き出された蹴りが、その身体を空中へと押し上げる。首はおかしな角度に曲がっていた。一撃でへし折れたようである。だが、それだけでは終わらない。
「――肩肉〈エポール〉!  背肉〈コートレット〉!  鞍下肉〈セル〉!  胸肉〈ポワトリーヌ〉! もも肉〈ジゴー〉!」
 ゴガゴッ!
 タ級の全身に蹴りが撃ち込まれる。あたりに響く岩を割るような重い音。小柄な体格とは裏腹に、その蹴り技の威力は下手な砲撃を上回っていた。避ける間もない連撃に、タ級の身体が破壊されいく。砕けた艤装や身体の破片が周囲に飛び散った。
 そして。
「羊肉〈ムートン〉ショットにゃ!」
 ドゴォンッ!
 強烈な後回し蹴りがタ級を吹っ飛ばす。
 三十メートルほど吹き飛び、海面で二度跳ねてから、海の底へと沈んでいった。
 タ級を蹴った反動で、反対側へと跳ぶ多摩。空中で軽やかに一回転してから、海面へと着地する。今度はちゃんと二本足で立っていた。
「やったにゃ」
「やりましたね」
 手を上げる多摩に、神通は応えるように手を上げた。



「完全勝利――と」
 深海棲艦の消えた海上を眺め、隼鷹は静かに宣言する。
 右手に紫色の炎を燃やし、左手に巻物飛行甲板を構えたまま。周囲を飛んでいた艦載機が甲板に降り、式紙となって束ねられていく。
「……いいんかな? これ」
 戦闘後の哨戒活動に移る神通と多摩を眺めながら、隼鷹はジト目で呻いた。戦艦を斬り捨てたり蹴り倒したりするのが、艦娘として正しい姿なのか。肯定する自信も否定する自信もない。ただ言える事は、定石からかけ離れた戦い方であるということ。
「戦艦を白兵戦で倒すなんて……凄いわね。そうそう真似できることじゃないわ。噂には聞いていたけど、やっぱり変わった子が多いのね、百里浜基地って」
 声を掛けられ、隼鷹は眉を持ち上げる。
 聞き慣れたような声でありながら、全く違う声。
「まー。うちは変なの多いとは思うけどさ――」
 視線を向けた前にいたのは、黒髪ツインテールの正規空母だった。藤色の上着と柿渋色のスカートを纏い、左肩に迷彩模様の飛行甲板を装備している。
 瑞鶴。
 しかし、百里浜基地の瑞鶴ではない。
「横須賀ほど狂っちゃいないと思うよ……。何で正規空母が艦載機使わないで機銃振り回して、しかも驚くくらいバシバシ落とすかね? ニュータイプ? イノベイダー?」
 両腕に構えた三連装機銃と、肩に乗せた30連装噴射砲。艦載機を操る空母が機銃を積み込むというのは、本来あり得ないことだ。しかし、そのあり得ない装備で、ことごとく敵艦載機を撃ち落としていく姿は圧巻である。
 横須賀鎮守府から派遣された瑞鶴。機銃マスターと呼ばれているらしい。
「いいんじゃない? 正攻法だろうと邪道だろうと、強いのは事実だし。アタシもこの装備は空母としてどうかと思うけど、あれよ。勝てばよかろうなのだ! って事ね」
 右腕に装備した機銃を動かしながら、脳天気にそんな事を言ってくる。
「うーん――」
 目を閉じ眉間にしわを寄せる隼鷹。
 艦載機が全て戻ったのを確認してから、飛行甲板を巻き取り、それを腰の艤装に収める。続いて、式紙を収めた小型巻物も収めた。
 瑞鶴が神通に指を向ける。敵を倒し終わり、多摩とともに哨戒活動をしていた。刀を左手に持ったまま。戦闘が終わったからといって油断はできない。
 瑞鶴が示しているのは、その刀である。
「あの刀凄いわね。いわゆる特殊兵装ってヤツ?」
「………。そうらしいね」
 慎重に、隼鷹は頷いた。
 通常の装備とは別の方法で作られる、特殊兵装。何らかの適正があると判断されれば渡されるらしい。百里浜基地には神通を始め数人、そのような装備を持つ者がいた。余所でも基地内に数人はいるという。性能は高い反面、使い勝手は恐ろしく悪いらしい。例えば神通の刀は文字通り刀の間合いでないと役に立たない。
「改二になってからしばらくして、提督から渡されたとか。流星……って銘らしい。艦攻じゃないけどね。鉄だろうが岩だろうが、ザクザク斬れるよ。誰が言ったか、斬鉄剣。あたしも本気でアレ振り回してる姿見るのは初めてだけどね」
 と、苦笑してみせた。
 どのような仕組みなのか、刃物として異様なまでに斬れる。鉄でも岩でも、深海棲艦でも。試し切りで鉄骨やコンクリートを斬っているのは見たことがあるが、実戦で深海棲艦を斬っているのは、初めて見た。
「あっちの多摩ちゃんも凄いわね。動きも蹴りの破壊力も」
 瑞鶴が多摩に目をやる。
 特殊兵装は持っていないが、戦艦を蹴りで破壊する力と技は、非常識の一言だった。
「うちの料理長から直々に叩き込まれたみたいだからねぇ、変な足技。昔は普通の軽巡だったんだけど、気がついたら素手の方が強いって言われるようになってたよ」
 隼鷹は空笑いとともに、ぱたぱたと手を振った。
 昔は猫っぽいだけの軽巡だった多摩。砲雷撃戦はあまり得意ではなく――有り体に言って下手だった。本人はその事を気にしていて、提督に相談したら、何故か格闘術を教え込まれる。元々素質があったようで、今では格闘戦なら百里浜基地でも右に出るものがいないレベルまで上達していた。師となった料理長の影響か、蹴り技を多様する。
「まぁ、普段は普通に砲雷撃やってるけどね。今回が特別だよ」
「援護無しであの戦闘方法は、危険すぎるわ」
 隼鷹の言葉に、瑞鶴が頷く。
 超接近戦。それは防御を無視した戦い方だ。単機で下手に敵陣に切り込めば、あっと言う間に的にされて轟沈である。艦娘の装備には轟沈防止の最終防御機構があるが、限度がある。近距離からの集中砲火を喰らってはひとたまりもない。
「危険ですけど、やらないといけません」
 静かに、決意のこもった声。
「まぁねぇ」
 隼鷹は消極的に肯定しつつ、そちらに向き直る。
 巫女装束を思わせる白衣と黒いスカート。ボブカットの黒髪と金色のカチューシャ。そして眼鏡。金剛型の末っ子、霧島だった。
 背中に取り付けられたX型アームの艤装には、ベルトと布にくるまれた巨大な十字架が縛り付けられている。そちらは普通の装備品ではない。
「正攻法で勝てるのなら、それに越したことはありません。しかし、今回の相手には手段を選んではいられませんからね。使えるものは何でも使います」
「霧島……。本当にそれ使うのかい? というか、使えるんかい?」
 口元を引きつらせつつ、隼鷹は霧島の十字架を見つめる。
 寮長から借りているパニッシャーくん二号だった。元は人間用のトンデモ兵器だが、工廠のエロ博士が艦娘でも使えるように一時的な改造を施したらしい。
「試し撃ちしてみましたが、かなり良い武器です。見た目はへんてこなのに、重心のバランスが取れていて、扱いやすいですし。可能なら同じものを作って欲しいですね」
 眼鏡をくいと持ち上げ、嬉しそうに言ってくる。
 隼鷹は苦笑いを霧島に向けた。
「それは無理だと思うぞ。あと、終わったら、ちゃんと返すんだぞ」
「分かってますって」
 からかうように片目を瞑り、霧島が隼鷹から離れていく。
 瑞鶴も哨戒活動に移っていた。海域危険度5の深部。敵を全滅させたからといって安全とは限らない。倒した直後に、次の一隊が現れる事もあるのだ。
「なんだかなぁ?」
 隼鷹は肩を落として、艦隊の仲間を眺める。斬り込み隊長神通と格闘軽巡多摩、機銃マスター瑞鶴に、パニッシャーくん二号の霧島。
「どうかしましたか? 隼鷹さん」
 いつの間にか、背の高い女が近くに立っていた。
 身長百八十センチを越える長身。きれいな焦げ茶の髪と、落ち着いた顔立ち。紅白の制服と、朱色のスカートという服装で、右手に三本マストの日傘を差している。艤装は巨大な46cm三連装砲。
「大和……」
 静かにその名を呟く隼鷹。背筋を撫でる寒気。普通に立っているだけで気圧されるほどの迫力だ。知らぬ者はいない、最強戦艦の一人。横須賀鎮守府所属の大和だった。作戦遂行のため、瑞鶴とともに百里浜基地に派遣されていた。
 肩の力を抜き、隼鷹は誤魔化すように笑う。
「いや、戦艦斬り捨てる軽巡とか、蹴り壊す軽巡とか、機銃マスターとか……トンデモ兵器ぶっ放す予定の金剛型末っ子とか。あと、最強戦艦……。みんな凄い艦娘で、なんかあたしだけ普通で……ちょっと気後れしちゃってさ」
「隼鷹さん」
 大和の手が隼鷹の肩に置かれる。
 見上げると、大和が頬笑んでいた。
「普通であるという事は、素晴らしいことです――!」
「………」
 無言を返す隼鷹。
 キラキラとした何かを纏いながら、どこかもの悲しげな顔の大和。落ち着いた普通の口調だというのに、ただならぬ気迫を感じる。一体何を思って今の言葉を口にしたのかは分からない。分からないが、それでもそれでも理解できる。
「横須賀鎮守府って怖い所なんだな……!」
 おののくように隼鷹は声を絞り出した。

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登場人物など

神通改二
百里浜基地の切り込み隊長。レベルは75くらい。
装備 20.3連装砲/四連装酸素魚雷/探照灯
通常装備の他に、流星という銘の刀を装備している。別名、斬鉄剣。特殊兵装のひとつであり、非常識な切れ味を持つ。鉄でも岩でも深海棲艦でも、たやすく切断する。ただし、あくまで刀であるため、相手に肉薄しないと使えない。コンニャクは切れる。

多摩改
球磨型 2番艦 軽巡洋艦
猫っぽい軽巡。レベルは50くらい。
元々は普通の軽巡で砲雷撃戦も苦手だったが、提督に相談したら何故か体術を教え込まれた。直接指導したのは料理長であり、そのため足技を多用する。素質があったのか、現在では格闘戦なら右に出るものがいないレベルまで上達している。その実力は、戦艦フラグシップを蹴り技で圧倒するほど。
普段は普通に砲雷撃戦をしている。神通とは同期で、気が合うらしい。
装備 15.2連装砲/三式爆雷投射機/新型高温高圧缶

隼鷹改二
深海棲艦討伐部隊旗艦。レベルは85くらい。
はっちゃけた性格とは対照的に、真面目に堅実に仕事をこなす軽空母。旗艦を務めるが、随伴艦の非常識っぷりに頭を痛めている。
装備 烈風改/烈風/彗星一二甲/カ号観測機


霧島改
レベルは65くらい。
装備 試製35.6cm三連装砲/試製35.6cm三連装砲/三式弾/パニッシャーくん二号
寮長から借りたパニッシャーくん二号を装備している。元は人間用トンデモ兵器であるが、工廠の敷嶋博士の手によって艦娘でも扱えるように一時的な改造が施された。

瑞鶴改
翔鶴型 2番艦 正規空母
レベルは85くらい。横須賀鎮守府所属であり、今回は作戦のために百里浜基地に派遣された。正規空母でありながら、機銃を振り回し、しかもことごとく敵艦載機を撃墜する、通称機銃マスター。自分の戦闘スタイルについては、開き直っている。
装備 25mm三連装機銃/25mm三連装機銃/12cm30連装噴進砲/彩雲

大和改
大和型 1番艦 戦艦
横須賀鎮守府所属。レベルは95くらい。
圧倒的な火力と耐久力を武器に戦う、最強の戦艦の一角。しかし、横須賀鎮守府は規格外の人間や艦娘が多いため、色々と苦労している様子。自分だけ普通であることを気にする隼鷹に「普通であることはすばらしい」と漏らす。
装備 46cm三連装砲/46cm三連装砲/零式観測機/一式徹甲弾

14/12/1