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第31話 春はいつ頃?


 既に雪は止み、空は薄曇り。明日になれば青空が戻ってくるだろう。まだ気温は低いものの、出歩くのがきついというほどでもない。
「凄かったね、副会長さんの雪の塔」
 コートの胸元から肩を出したミドリが、どこか興奮したように言っている。
 しかし、カイは素直に感心することができなかった。
「凄かったけど、何であんなものが作れるんだろ……」
 頭をかきつつ呟く。率直な疑問。
 さきほどミドリと一緒に美術館横の公園に出かけてきた。
 フェルが作った高さ十メートル弱の雪の塔が作られている。街の人も沢山見に来ていて好評だった。だが、本人はあれを雪の降り始めから二日かけて一人で作ったと言っている。本当なのだろう。人間業ではない。
「あの怪物じみた体力の出所が知りたい」
 それは正直な感想だった。
 カイの疑問に構わず、ミドリは道の左右を眺めていた。この辺りは街外れで人通りも少なく、ミドリが人に見つかる可能性も薄い。
「もう雪溶けちゃうのかな?」
 ある程度片付けられた雪。道の左右に大きな雪の山がある。屋根の雪もあらかた下ろされていた。初日の昼過ぎにカイも屋根の雪下ろしをやった。
「雪が降った後は少し暖かい空気が入ってくる。雪は早く溶けるよ。でも、石畳敷いていない道はぬかるみで凄いことになるけど」
 足下の道路を眺める。
 石畳の敷かれた道。街の多くは石畳が敷かれているが、まだ敷かれていない場所もある。雪が溶けて乾くまでは土の道はぬかるみとなって歩くことも難しい。
 しばらくは朝の散歩コースを変えなければならない。
「これからしばらくすると春が来るんだよね?」
 ミドリが空を見上げた。
 薄雲越しに白い太陽が見える。夕方になれば雲も消えて日差しも戻ってくるだろう。明日から数日は暖かいものの、その後は再び冬の寒さが戻ってくる。
 カイは苦笑した。
「春はもう少し後だよ。あと一ヶ月くらいかな?」
「一ヶ月……。春ってどんな感じなんだろう?」
 考え込むように首を傾げるミドリ。まだミドリは春を体験したことはない。生まれてから四ヶ月程度しか経っていないのだから。
 春という季節を思い返しながら、カイは腕組みをした。
「そうだな……。草木が芽吹き、空気が暖かくなる、始まりの季節。冬には冬の良さがあるけど、やっぱり俺は春が好きだな。生き生きした絵がかけるから」
「わぁ。楽しみ」
 緑色の瞳を好奇心に輝かせているミドリ。以前見せた春の絵を思い出しているのだろう。きれいな緑色の若葉と色とりどりの花の絵に見入っていたことを思い出す。
 しかし、カイは嘆息してから続けた。
「でも、立春から二ヶ月経つと雨期が来るんだよな。雨始めから五ヶ月くらいは、雨ばかり降る季節だけど。絵の具の具合が悪いから雨は苦手だ……」
「そうかな? 毎日雨が降るのも面白そうだよ。わたしは雨だと動けないけど、明かり石もあるし雨を眺めるのも楽しみ」
 嬉しそうに応えるミドリに。カイは正直な感想を漏らした。
「俺はどうにも雨は苦手だ……」

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