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第9話 早起きの朝


「カイ。朝だよ」
 声をかけられ、カイは目を開けた。
「朝だよ。起きて」
 続けてぺしぺしと頬を叩かれる。
 うっすらと霞んだ視界に、ミドリの姿があった。カイの頭の真横に立っている。周囲は明るいが、昼間の明るさではない。早朝の明るさだった。
 右手を伸ばして、時計を掴む。
「六時十分前……」
 時計の針を眺めて、カイは呻いた。
 いつも起床は八時半頃。六時前に起きることはまずない。職業画家。定時に職場に出かけるわけでもないのだ。就寝起床は自由に決められるが、集中力が落ちないように規則的な生活は心がけている。
「やっぱり植物か?」
 昨日は日没の後に眠ってしまった。日の出の直後に起きることは子供でも予想出来る。予想していたが、対策までは考えていたなかった。
「寝る」
 カイは言った。目を閉じる。
 しかし、ミドリはカイの鼻をぺしぺしと叩きながら、
「駄目、朝は早起きしないと駄目だよ」
「………」
 カイは目を開け、ミドリを見つめた。
 翡翠色の瞳に真剣な輝きを灯し、じっと見つめ返してくるミドリ。どうしても起こす気らしい。無視して眠ることもできるだろう。
「うあー」
 カイは呻きながら、身体を起こした。背伸びをして身体を捻り、ポキポキと骨の鳴る音を聞く。たまには早起きもいいかもしれない。いや、これからはいつも日の出直後に起こされるのだろう。その事実を認める。
「うー。おはよぅ……」
「おはよう、カイ」
 ミドリは微笑んだ。

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