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第24話 異変の正体


「こいつは……。なるほどな」
 ロアは苦笑とも困惑とも付かない表情を見せた。
 地面から突き出した細長い六角柱の結晶。無色透明で周りの木々よりも大きい。根元からは二十個あまりの結晶が枝分かれしていた。周囲の草や木も水晶のような物体となっている。色は透明が多いが、淡い青色や緑色を帯びているものもあった。
 影を見つけた場所から三十分ほど歩いた場所。
「何だか、こんな空気はどこかで感じたことあります。でもあまり気持ちのいい空気ではありません……早く離れたいです」
 ロアに抱きかかえられたまま、アルニは周りを見やった。
 アスカが木の枝で結晶をついている。
「これは異跡だね。さっきの影は幻獣かな」
 辺りに漂う空気は、異跡のものだった。どことなく肌寒さと寂しさを感じる。一般人はまず知らないものであるが、知っている人間は忘れない。
 これは出来かけの異跡だった。
「幻獣になれない異跡の欠片だろうな。それが俺たちを見てて、影が生まれたんだろ。ほどなくこの辺りは異跡に呑まれる。異跡の誕生ってのは、珍しいものを見た。村長の言ってた空気ってのは、異界の空気か。なるほど」
 腕組みしながら、カンゲツが頷いている。
 アルニはじっと水晶を見つめていた。不安げな青色の瞳。
「これから、ここはどうなるんですか、カンゲツさん? このまま異跡が広がって行ったら、どうなるんですか? 村の人たちが困るかもしれません」
「それは大丈夫だろう」
 カンゲツは辺りを眺めながら答えた。
「この辺りで山菜や動物は捕れなくなるが、離れれば普通に生息している。異跡からの収入も期待できるかもしれん。どのみち、調査隊がやってくるだろうし。村の産業形式は変わるだろうな」
「最近地脈の流れが変わるような事件あったか?」
 異跡が生まれるのは、地脈の流れが変わるから。火山活動や地震などで、地脈の流れが変化するのだ。他にも、大がかりな魔術の実験などで変わることもある。公にはされていないが、地脈を変える儀式もあった。
「カンカ休火山じゃないか? 最近マグマの活動が活発化してきたって噂聞いたから」
「そんなところだろうな」
 実はさほど興味があるわけでもない。
 暇そうに水晶草を突いていたアスカが、思いついたように訊いてきた。
「ところで、カンゲツ。この結晶石貰ってもいいのかな? これ売るところに売ったら、数億クラウンになるよね」
「勝手に持って行っちゃていいんですか? 異跡から結晶石持ってくには、国の許可が必要ってロアさん言ってましたよ。怒られそうです」
 水晶を眺めながら、アルニ。
 カンゲツは順番に二人を眺めてから、肩をすくめた。
「やめとけ。あとが面倒だ」
 と言ってから小さく苦笑してみせる。
「まあ、欠片くらいは貰っていくがな」

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