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第5話 宿到着


 宿の一室。
 部屋にはベッドとテーブル、小さなタンスが置いてある。南側に窓があり、夕日が差し込んでいる。きれいに掃除してあるが、どことなくぼろい。贅沢は言えない。
 ロアは背負った荷物をベッドの横に置いた。腰の剣を外して、荷物に立てかける。
 背筋を伸ばしてから、ウエストポーチを開けた。
「部屋に着いたぞ」
「ふはぁ!」
 アルニが顔を出す。
 ロアはアルニを左手で引っ張り出し、テーブルに乗せた。
「ようやく出られました」
 ふらふらと立ち上がってから、アルニは柔軟体操のように身体を動かす。よれた羽をぴんと伸ばして、飛び上がった。具合を確かめるように部屋を一周してから、テーブルの上に降りる。問題はないらしい。
「ずっと狭い所に押し込められて苦しかったです……。人に見られちゃ大変なのは分かっていますけど、もう少し居心地いい所はなかったんですか?」
 不満げに腰に手を当てるアルニ。
 宿場街に着き、宿を借りて部屋に移るまで、アルニはウエストポーチに隠していた。肩に乗せたままだと目立つからである。街道で人とすれ違う時も、荷物の影に隠していた。注目を浴びる必要もないし、騒ぎを起こす気もない。
「ポーチ以外に隠れる場所あるか?」
 ロアは両腕を広げて見せた。
 大きな荷物、小物を入れるウエストポーチ。剣が一振り。上着やズボンにポケットはついているが、アルニが入るにはさすがに小さい。
「ありません」
 不服げに口を尖らせるアルニ。
 ロアは眼鏡を外してから、解すように身体を動かした。ベッドに腰を下ろし、靴を脱いでから、両手両足を伸ばして寝転がる。干されたシーツが心地よい。
 目を開けると、目の前にアルニが浮かんでいた。
「……ロアさん。晩ご飯は何ですか? 何か美味しいモノ食べられますかね? お昼のパンは美味しかったので、また食べたいです」
「その料理の代金を払うのはオレなんだけど」
 ロアは眼鏡を掛け、じっとアルニを見つめる。
 アルニは困ったように目を泳がせてから、ぽんと手を打った。
「これをどうぞ」
 肩から提げていた鞄に手を入れ、小さな枝を取り出す。
 アルニの身体ほどの大きさ。どうやって鞄に入っていたかは考えないでおく。細い枝に六枚の葉が付いている。普通の木の枝に見えるが――
「精霊樹の枝か」
 ロアはその枝を受け取った。

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