Index Top 第4章 明かされた事実 |
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第7節 レイの過去と姉弟の祖先 |
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「サザール……ホワイトフォック、だと!」 愕然とするシリックに、言う。 「そうだ。サザールは、お前たちの先祖だ。デウス社が欲しがったのは、レオン・シルバーの記憶――技術と経験だ。これを応用すれば、強力な戦闘プログラムが作れる」 「…………」 息を呑む二人。 「もうひとつは、機械のコア。レオンが生前見つけたAATだ」 「そのコアは、何か特別なものなんですか?」 「そのコアには、オーバーテクノロジーが組み込まれている。AATが作られた時代にも存在しない、超技術。大半はブラックボックスでどういう情報が入っているかは分からなかったが、唯一取り出せたのは素粒子単位で物質を操る量子制御システム」 ナノテクノロジーの二単位下の超極小世界を扱う技術。現代科学ではもちろん、AATが作られた当時の科学技術を以てしても、実現できない。 「そこから導き出されるのは、ナノマシン、物質変換機構、質量崩壊炉。どれも現代では存在するはずのないものだ。ただし、これはコアによって制御されないと動かない」 「………」 話を聞く二人の顔に、奇妙な表情が浮かんでいた。何か思い出すべきことがあるのに、思い出せない。そんな表情である。 レイは息を吸い込み、言い聞かせるように告げた。 「加えて、そのコアはまるで人間の脳のような構造をしていた。そこに人格を組み込めば、その人格は人間のような心を持つことができる――。そう考えたデウス社の連中は、そのコアに若干手を加えたレオン・シルバーの人格を乗せて、あらゆる最新技術を組み込み、試験的に一体の戦闘用アンドロイドを造った」 「それって……」 シリックの呟きに、レイが答える。 「そうだ。それが、オメガ試作機・認識番号00000……つまり、俺だ」 二人の反応は……ない。 シリックはグリフォンを手に取り、クキィはキャリバーンの柄を手に取り。 何も言わずに、部屋を出て行った。 止めることはできない。 かける言葉も見つからない。 レイは姉弟が出て行った扉を見つめた。 沈黙はどれほどだろうか。数十秒にも感じられるし、数時間にも感じられる。しかし、それほど長くはないだろう。数分だろうか。 沈黙を破ったのはミストだった。 「話さない方が、よかったかな……?」 椅子に座ったまま、訊いてくる。 レイは去り際の二人の顔を思い出していた。何の感情も浮かんでいない、無表情。だが、その奥には許容量を超えた衝撃と憎悪が秘められている。 「俺にも分からない」 言って、レイは息を吐いた。二人に話したことは、事実である。だが、その事実は消えかけた復讐の意思を、再び燃やすことになった。 事実を知らなければ、二人は復讐を諦めていたかもしれない。 「だが、あの二人には事実を知る権利があった。それを知って、どう行動するかは、二人が決めることだ。俺たちが決めることじゃない」 レイは言いながら、テンペストを手に取った。 と、その時。 「ミスト博士!」 声とともに、会議室の扉が開く。 慌てて入ってきたのは、アーディだった。 「どうしたの?」 「あのトレーラーが――ミスト博士が乗ってきたトレーラーがありません!」 「え!」 ミストが椅子から立ち上がる。驚きに目を見開いて、アーディを見やった。 「どういうこと!」 「あの姉弟が、トレーラーを奪ったようだ――。ミストは車から降りる時、鍵を刺しっぱなしにしてかな」 レイはテンペストを肩に担いだ。 「あの姉弟は、何しろサザールの子孫だ。追い詰められると、とんでもない行動力を見せる。おそらく、トレーラーを使って、デウス社に突入するつもりだろう。あれほどの重量があれば、急ごしらえなバリケードくらい突破できる」 しかし、ミストは聞いてなかった。焦燥を隠さず、アーディに詰め寄る。 「装備と弾薬は!」 「全部下ろしましたけど。一番奥にあった機械は、トレーラーと一緒に……」 気まずそうに、アーディが答えた。 「どうやら、さっきの話はするべきじゃなかっな……」 レイは指で眉をこする。何かするとは思っていたが――まさか、いきなりデウス社へ突入するという行動に出るとは思わなかった。が、今さら後悔しても遅い。 「二人を止めに行く。あの二人じゃ、オメガ汎用機に手も足も出ない」 「分かった。ラインたちと話をしてから、あたしも行くわ」 ミストが頷く。 それを見ながら、レイは意識を集中させた。 「第二リミッター解除――」 機械というものには、おのずと限界がある。いくらエネルギーを与えても、機構の限界を超える力を生み出すことはできない。しかし、自分は違う。エネルギーを加えられた分だけ、各機構は限界を超える力を生み出せるのだ。その原理は謎だが、コアが係わっているのは確実と言っていい。 「起動率二〇〇パーセント!」 |
13/5/12 |