Index Top 第1章 砂色の十字剣士

第3節 十字剣


「……剣ン!」
 よく見ると、銀色の部分は刃になっている。三角形の切先もあった。しかし、この剣はどう考えても長すぎる。そもそも、剣が銃に敵うはずがない。
 シリックの心中をよそに、レイは大通りに出た。
 銃を持った四人を見回し、
「バウンティーハンター――賞金稼ぎか。見た限りじゃ、定職にもつけないチンピラが勝手に名乗ってるだけだな。実力も大したことない」
「うるせえ! 死ね!」
 四人がレイに狙いを定めた。
 レイは持っていた剣を、軽く上に放り投げる。
 シリックは我知らずその剣を目で追っていた。剣は空中で一回転し、乾いた音を立てて地面に刺さる。その間、一秒。たった一秒。音もない。だが――
 その一秒で、賞金稼ぎの三人は宙を舞っていた。
 三人の中央で、レイが何かの構えを取っている。構えというよりは、何かした後の姿勢だ。何をしたかは分からないが、何かしたのだろう。何もしていないはずがない。
 どさりと重い音を立てて、三人は地面に落ちた。倒れたまま、指一本動かさない。気絶したのか、死んでしまったのか、それは分からない。
 辺りが静寂に包まれる。
 誰も何もできない。何も言えない。動けない。
 気温は三十度近くあるのに、凍えるほどに寒い。
 風の音だけが、やけにうるさく聞こえた。
「剣士たるもの、無益な殺生をしてはならない――。こいつらは、気絶させただけだ。骨の一本くらいは折れてるだろうが」
 その呟きに、周囲がわっと沸き上がる。
 歓声でもない。賞賛でもない。それは、純粋な驚愕だった。レイ・サンドオーカーなる男は、銃を持った男三人を、僅か一秒で、素手で倒したのである。こんなことが、人間にできるはずがない。
「何なんだ、あいつ!」
「強い……」
 シリックとクキィも、驚きを口にする。
 地面に刺さった剣を持ち上げ、レイはショットガンを持った男を見やった。男は、引き金に指をかけたまま目を見開き、固まっている。
「そんな軽装備じゃ俺は倒せない。こいつら連れて、おとなしく帰った方がいい」
 淡白に告げて、レイは背を向けた。飄々とした足取りで酒場の方へと歩いてくる。背後には注意を払っていない。
 それを隙と見たか、男は瞳に殺意を浮かべた。
「危ない!」
 シリックは叫んだが。
 それよりも早く、剣がショットガンごと男の右腕を貫いている。余った刃が肘から突き出していた。レイが振り向きもせずに投げ放ったのである。
「十三剣技・七飛翔……」
「ぎゃあああああああああ!」
 剣に貫かれた腕を抱えて、男が悲鳴を上げた。割れたショットガンが地面に落ちる。痛みは相当なものだろう。なぜか血は流れていない。
「人を殺す気なら、自分が殺される覚悟くらい決めとけ。これだから、素人は……」
 ぶつぶつと呟きながら、レイは騒ぎ続ける男の元へと歩いていった。剣の柄を掴み、ひょいと抜き取る。刃に血はついていない。
「ぁぁぁ……」
「鋭利な刃物でできた傷は、治りやすい。早く病院に行け」
 それだけ告げると、レイは再び剣を肩にかつぎ、酒場の方へと戻って来た。客たちは、怖ろしげな視線を向けている。シリックと口喧嘩をした酔払いは、蒼白になっていた。
 しかし、誰も動けない。
 レイはシリックの前で足を止めた。寝惚けたような眼差しで、見下ろしてくる。
「…………」
 シリックは息もできず、レイを見つめ返した。殺気も、威圧感も、何も感じない。そのことが、余計に恐怖を感じさせる。
 だが。
「ええと、さっきの続きだ。困ってるなら相談に乗るぞ。名前、何て言ったか?」
 レイは右手で頭をかきながら、言った。

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12/9/9