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第4節 ハドロの居場所は |
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「方法?」 見やると、シギは部屋の奥に歩いていき、壁際を指差す。 そこに、一本の剣が落ちていた。シギに言われなければ気づかなかっただろう。誰が何のために作ったか見当もつかない、長大な両刃の剣。刃渡りは二メートル半。刃の表面には記号のような文字が彫られている。鍔はなく、柄も含めれば長さは三メートルを超える。重量も百キロを超えるだろう。人間が使えるような代物ではない。 「何それ……?」 テイルの呟きに、アルテルフが答える。 「それは、『オードの宝剣』と呼ばれるものだよ。千四百年前に、神への奉納品として作られた。材質は純ミスリルだけど、魔力や神気は込められていない。歴史的な研究がされた後、置き場がなくてここに運ばれたんだ」 「いくらシギさんが力持ちでも、そんな大きな剣、使えないよ」 メモリアの意見はもっともだった。シギの力ならば、その剣を持ち上げことはできるだろう。しかし、重心の関係でまともに構えることはできない。ましてや剣として扱うなど、論外である。 「だが、あのでかい奴をぶった斬るには、これくらいでかい武器じゃないとな」 含みのある笑みを見せながら、シギは両手に神気を込めた。床に置いてあった大剣を掴み上げて、肩に担ぐ。一矢に視線を移して、 「と言うわけだ。原稿用紙一枚、使わせてもらうぞ」 「それで、確実にあのエイゲアを倒せるんだな」 「お前が、ちゃんと書いてくれれば、倒せる」 確信めいた自信を以て、シギは言った。何か作戦があるのだろう。エイゲアを倒せるのならば、原稿用紙を使う価値はある。 しかし。 「じゃあ、僕たちは原稿用紙二枚でハドロと戦うのか……?」 一矢は呻いた。渡された原稿用紙は五枚。一枚目は使ってしまった。二枚目はハドロを捕らえるために使う。三枚目は、シギが使う。残るのは、二枚。現実に干渉できる回数は二回しかない。 少ないが、やるしかない。 「まずは、ハドロを探そう」 シギたちの見守る中、一矢はマントから原稿用紙を取り出した。 《意識を集中させ、文章を書き込む。 〈あいうえお〉 文章の書き込まれた原稿用紙が一矢の手を離れた。それは一秒にも満たない時間。見えない力に引かれて、原稿用紙は鋼の書の元へと戻っていく。 一矢は素早く左手を伸ばし、原稿用紙を掴んだ》 原稿用紙は、壁の中へと消える。 「………え?」 一矢は芯の抜けた声を漏らした。 手元には何も残らない。 原稿用紙を掴むことはできなかった。手が届かなかったわけではない。手が紙をすり抜けたのである。まさしく空気を掴んだ感触。 二枚目の原稿用紙が、手元からなくなった。 皆、目を点にしている。 「ええと――。本来なら、鋼の書に戻ろうとする原稿用紙を捕まえて、鋼の書のある場所まで引っ張っていってもらおうと考えたんだけど……。これは……どうしよう?」 一矢は誰へとなく、問いかけた。 数秒の間を置いて。 「ちょっとぉぉぉぉぉぉ! あんたぁぁぁぁぁぁ!」 怒りと焦りと悲しみがごちゃ混ぜになった形相で叫ぶテイル。 「原稿用紙、どこか行っちゃった」 無感情にただ呟くメモリア。 「失敗か……? 貴重な原稿用紙を一枚無駄にしたのか……! お前――」 白い眉をぴくぴくと動かすシギ。 が…… 「一矢君の考えは失敗だけど。鋼の書のある場所は分かったよ」 アルテルフが静かに言った。 全員の視線が集まるのを待ってから、続ける。 「原稿用紙の飛んでいった方向は、北北東――」 「こんな場所で、方角が分かるの?」 テイルが話に割り込んだ。ここは地下室で、日の光も入ってこない。方位磁針でもなければ、方角など分からないだろう。 しかし、アルテルフは口の端を上げて、告げる。 「僕はこの街の中なら、どこにいても東西南北が分かるんだよ。甘く見ないでほしいね。さて、原稿用紙の飛んでいった北北には、廃墟と化した古城がある。この一帯で、雨風がしのげる場所はそこしかない。ハドロは十中八九そこにいる」 それを聞いて、シギが尋ねた。 「どれくらいかかる?」 「馬車で六時間」 アルテルフは即答する。 |
12/5/13 |