Index Top 第2章 進み始める世界 |
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第3節 走り出す追跡者達 |
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淡い魔法の光が照らす中に、二十の黒装束を纏った人影がひざまずいている。人影は全く動かない。その姿は、黒い彫像のようだ。 各々が、剣や槍などの武器を持っている。 強い口調で、ハドロは告げた。 「命令は――鋼の書を奪ってくること。それだけだ。何が不測の事態に遭った場合は、一人が報告に戻ってこい」 人影は答えない。答えるはずもない……。 気に留めた様子もなく、ハドロは言った。 「行け――」 その言葉に、二十の人影は音もなく闇の中へ消えていく。 それを見届けてから。 ハドロは振り返った。 光と影の境目に、男が佇んでいる。昼間、現れた男。今度も不意に現れて、シギたちがいる場所を教え、そこに刺客を送れと言ってきた。 「これで、いいのか?」 「はい」 ハドロの問いに、男は微笑みながら頷いた。 この男の目的は分からない。何をしたいのか、何が欲しいのか。目的は物語を面白くすることと言っていたが、その真意も理解できない。 何にしろ、男は自分に有益な情報を与えてくれる。 「しかし、彼らの力で鋼の書を奪うのは難しいですね」 顎に指を当て、男が呟いた。今送った連中に、シギたちを倒す力はない。メモリアだけなら倒せるだろうが、全員で挑んでもシギを倒すことはできない。 ハドロはあしらうように鼻を鳴らすと、 「奴らは、あくまで様子見だ。お前が言った鋼の書の持ち主が、どんな奴かを確かめるためのな。鋼の書は、俺が直接奪いに行く」 「そうですか。頑張って下さい」 男はそう言うと、ハドロに背を向けて歩き出した。光の届かない暗闇へと消えていく。やがて、その姿は見えなくなった。 「奴らの目的は、技術都市か……」 視線を上げて、ハドロは呟く。一度は、消息を断たれが、名も語らぬ男の手によってその居場所は突き止められた。だというのに、その行く先を見てみれば…… 技術都市ハムト・カウ。この地方では最も大きな都市で、そこには正当な科学者や研究者が沢山いる。自分のような異端で邪道の科学者が行く場所ではない。 「あそこにあれを持っていかれるのは、感心できんな。あの街は好かないが……こうなったからには、行くしかないか」 呻いて、ハドロは顔をしかめた。 |
11/11/13 |