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第1節 得られたもの |
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窓の外を見ると、白い雲が見える。 総合病院の一室に、慎一はベッドに座ったまま空を見ていた。清潔なシーツと布団。病院用の寝間着。変化は行わず狐神のまま。やることもなく尻尾を左右に動かす。 「よく生きてるよなぁ、僕も」 気がついたら集中治療室。本当に死の寸前まで行っていたらしい。宗次郎に病院に運び込まれていなかったら、死んでいただろう。助けた礼として尻尾触らせろと言われているのが、気がかりだった。 一週間の治療から普通部屋に移動。週末までには退院できるだろうとのこと。 ノックもなしに病室のドアが開く。 「おっはよー」 振り向くと、案の定結奈だった。 緑のジャケットと白いスラックス。いつもの格好。 「お前、本当に元気そうだな……」 結奈は四日ほどの治療で完治した。自分で自分の身体を治療出来るとはいえ、生身の身体で胸に風穴が開いたのだ。普通なら二週間の入院は必要だろう。 「あたしは鍛え方が違うから」 得意げに言ってくる結奈。 丸椅子に座ってから、見舞いの果物に目をやる。 バナナ一房、リンゴが五個、果物の缶詰が四つ。切り分けたメロンが三つ。飴が一袋。三時間ほど前に宗次郎が置いていったものだ。 「食べないの?」 「食欲がない……」 慎一は短く答える。一度死にかけてから蘇生。リハビリ以外で動くこともないので、食事をする気が起らない。肉体的にも精神的にも。 「大食いのあんたが、珍しいこともあるものねー」 結奈は右手を挙げた。 躊躇なくメロンに手を伸ばし、慎一に睨まれて手を止める。 睨合うこと五秒。 舌打ちしてリンゴを掴み、皮も剥かずに食べ始めた。 「そういえば、あんたのお爺さん何て言ってた? 刀回収しに来たから、あんたも顔合わせてるでしょ。当主の恭司さん」 「よくやった、って褒められた」 恭司の表情を思い出して、額を抑える。 なぜか上機嫌だった祖父。孫が死ぬ寸前まで戦えるということは、嬉しいのだろう。羨ましいヤツ、とも言われたが、それは黙っておいた。真顔で冗談とも本気とも分からないことを言うのは、いつものことである。 「相変わらず狂ってるわねー、日暈の連中は」 芯だけになったリンゴをゴミ箱に放った。 「言うな」 変な一族ということは理解している。守護十家の面子は奇人変人だらけだが、狂っていることを否定する材料にはならない。 別のリンゴを掴み、それを食べながら、 「カルミアたちは元気にしてるかな?」 「元気にしてるといいな」 慎一は二人を思い出すように空を見上げる。 「割と元気でしたよ」 声は唐突だった。 ぎょっとして振り向くと、空刹がドアの前に佇んでいる。ノックはなかったし、ドアを開ける音も聞こえなかった。だが、どういう理屈か目の前に立っている。 「元気そうだな……」 「僕は不死身ですから」 本気で言ってるのだろう。空刹は笑いながらベッドの横までやって来ると、紙袋から小箱を二つ取り出した。それを慎一の腕に押しつける。 「これをどうぞ。約束のものです」 「約束?」 訝りながら、慎一は蓋を開けた。 開けて、思考が止まる。 中に入っていたのは小さな女の子。 年齢は十二、三歳ほどで、身長は約十八センチ。伏せられた四枚の透明な羽。尖った耳とあどけない顔立ちで、背中の中程まで伸ばした赤色の髪。羽飾りのついた三角帽子を被り、修道服と学校の制服を足したようなワンピースを着ている。どちらも、色使いは赤と黒。靴の色は茶色。首から銀色のゼンマイを下げていて、意識はない。 「イベリス?」 状況が理解できぬままもう一方の箱を開けると、 「カルミア……何で?」 中にはカルミアが納まっていた。イベリスと同じように目を閉じている。壊れてしまったと記憶しているが、二人とも元通りに直っていた。 |