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第6節 慎一の作戦 |
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投げられた円盤を受け取る。 丸い鏡。市役所を進む時に使っていたものだ。八咫鏡のレプリカのひとつだろう。三種の神器の複製品はいくつか存在している。 「彼女たちを止めます。結奈くんは死ぬかもしれません。カルミアくんもイベリスくんも壊れるでしょう。反論は認めませんよ、覚悟決めて下さい」 「僕の弱点は、自分より弱い相手を倒せないこと。そう言ったな?」 空刹の台詞を思い出し、慎一は両拳を突き合わせた。刀は落としてしまったらしい。だが、手近にあるなら呼び寄せることは出来る。 両手を押し込んだ。 「三重限開式……!」 加速するエネルギーに心臓が跳ねる。軋むような痛みが走った。 限開式を三重に掛けるのは未知の領域。錬身の術の補助を用いても、持続は五分程度だろう。燃えながら戦っていた蓮次。時間切れを越えれば、自分もあのようになる。 「だが、退けないな」 慎一は駆け出した。風のように、音のように。 足を踏み出すたびに筋肉に痛みが走る。 氷の結界は解除してあった。気温は氷点下数十度まで上がっている。極寒地獄は変わらないが、燃える身体を冷ますには調度いいくらいだ。 氷塊の割れる音。 「来い!」 呼び声に応え、滑るように手元に飛んでくる写刀。 結奈が飛んでくる。瓦礫を吹き飛ばしながら一直線に。槍を持ち上げ、突く。 閃光の突きに、慎一は両手で鏡を突き出した。鏡面に光が反射し、真横へと弾かれる。身体ごと持っていかれそうな反動が腕に掛かるものの、捌けないことはない。 視界に映る白刃の閃き。反応する時間すらなく―― 「ッ……!」 数十本の細い刃に、慎一の身体は串刺しにされていた。 幅二センチほどの薄い刃。法衣の装飾が伸びて分裂したものである。反応すら出来ない速度と、三重限開式状態の防御を撃ち抜く力。 脳を撃ち抜かれるのは回避したが、無事とは言い難い。 「粉々にならなかっただけ……上出来か?」 結奈が槍を持ち上げ。 眉間に空刹の大剣がめり込んだ。慎一を攻撃した隙を突いての一撃。冷気と電撃を帯びた唐竹の斬下ろし。雷鳴と雪煙を巻き上げ、結奈が地面に沈む。 慎一は右腕を強引に動かし、剣を斬り捨てた。割れるように崩れる刃。 「洒落にならない……。これが封術の力だってのかよ」 地面に落ちて、口から血を吐き出す。刃は命断の式に似た力を帯びていた。その力も桁違いの強さ。あと二、三度食らったら――比喩抜きで死ぬ。 「慎一くん、防御を!」 「反応壁!」 両手を突き出し、剣気の壁を作り出す。押し寄せる光波に、障壁が爆発を起こした。反応装甲の如く自ら爆ぜ、威力を相殺する――のだが、気休めにしかならない。 視界が跳ねて、重力が消える。 数秒ほど滅茶苦茶に振り回されてから、地面らしき部分に足を突く。どれほど飛ばされたかも分からない。辺りにあったビルはあらかた崩れていた。耐震構造として無駄に頑丈に作られている建物を一撃で粉砕。 「さすが封術……」 刀と鏡は持っている。落としてはいない。 無傷のまま、結奈が佇んでいる。空間を埋める膨大な妖力。空刹が何かしらの大技を放とうとしたのだが、槍の一閃で妖力と作りかけの術式が消え去った。 光が一閃。 「気づかれてたか!」 穏行の術を用いて接近しようとしたのだが、失敗である。鏡で初撃を弾いてから慎一は走った。次々に飛んでくる法衣の刃。それらを鏡と刀で弾きながら、逃げていく。距離が五百メートルほどになった時点で、攻撃が止んだ。 ふと注意を移すと、近くに空刹が立っている。 「接近できれば、何かしらの勝機があるというのですね?」 「一応、な。できるか?」 慎一の問いに、答えが返ってくる。 「やってみます」 |