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エピローグ |
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冷たい風が吹き抜ける山肌。空は快晴だった。 降り積もった雪の表面から、青白い結晶が大量に生えている。氷がそのまま生えているような光景だった。氷結晶石。物体を極低温まで急冷却する魔力の結晶。内部の冷気を取り出さなければ、大きな氷にも見える。 「これだけあれば、大丈夫だ」 持ってきた布袋に氷結晶石を詰め、ケルブは口紐を縛った。平地の気温に晒しても溶けたりはしないので持ち運びは楽である。生き物が素手で触ると、火傷のような症状を起こすので取り扱いには注意が必要だ。 「それだけでいいのかしら?」 サンダルのような靴のまま立っているセッシ。靴下などは穿かず裸足である。 雪の上には薄い足跡が残っていた。人の体重で雪の上を歩けば足が沈む。人間ならばケルブのように雪靴が必要だが、セッシはそれもいらないらしい。 強風に髪の毛が激しく翻っている。 「大量に使うわけじゃないし」 捲れるスカートから目を逸らしながら、ケルブは袋をリュックに収めた。 ケルブの視線に気付き、スカートを押さえるセッシ。水色の瞳を下に向け、雪の上に落ちている氷結晶石の一欠片を摘む。ケルブが取った時に落ちたもの。生物が直接触れるのは危険なのだが、精霊なので大丈夫なようだ。 「大量に持って行かれても困るけどね」 呟いてから、氷結晶石を口に入れた。 砂糖菓子のような乾いた音とともに噛み砕き、呑み込む。 ケルブは何も言わず、それを見つめた。焼けた炭をそのまま食べるような非常識。氷精霊なので身体機構が人間とは根本的に違うのだろう。 吐息してから、リュックを背負う。 「帰るのね」 「目的のものは見つかったし。山にはあまり長居しない方がいい」 ケルブは青い空を見上げた。平地よりも高く澄み切った青空。雲ひとつない快晴だが、いつ天気が変わるか解らない。 「それもそうね」 セッシは小さく笑った。 「それじゃ、またどこかで会いましょう」 |
11/12/14