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後編 おしおき |
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「何するんですか……にゃッ!」 再び猫耳に息を吹きかけられて、シロが肩を跳ねさせた。人間でもいきなり耳に息を吹き掛けられるのは驚く。敏感な猫耳ならその効果も人間より大きいようだった。 「何するってオシオキ。シロからしてくれって言ったんじゃないか」 笑いながら、正博は右手を下へと移動させていく。背中を撫でていた手を、不安げに動いている尻尾に触れさせた。 「っ!」 尻尾が一度ぴんと伸びる。 猫にとっては――いや、動物にとって尻尾は最も敏感な部分のひとつだ。他人に触られるのはかなり嫌がる。正博自身もそれを理解しているので、あまりシロの尻尾に触ることはない。しかし、今は特別である。 右手で尻尾を撫でながら、正博は小声で訪ねた。 「尻尾触られるのはやっぱり嫌かな?」 「あ、え……ご主人様が触りたいなら……」 尻尾を動かしながら、シロが答える。逃げるように動いていた尻尾が大人しくなった。右手で尻尾を握り、丁寧に手の平を走らせる。髪の毛とは少し違う尻尾の毛の手触り。尻尾を往復する刺激に、背筋を硬くしていた。 頬がほんのり赤く染まっている。 正博の左手は優しくシロの頭を撫でていた。 指先で白い猫耳の縁をなぞる。 「ん……」 シロの喉から小さな呻きがこぼれた。目隠しをされているため、それ以外の感覚が鋭くなっているのだろう。正博は指先で猫耳を摘み、揉みほぐす。 「ご主人、様……」 顎を少し持ち上げ、シロが息を吐いた。 正博は尻尾を撫でていた手を放す。名残惜しそうに動いている二本の白い尻尾を眺めながら、尻尾の付け根を指先で軽く叩いた。 「ゥなァっ!」 シロの口から放たれる猫のような声。時折口にする猫のような声は人間の声真似のようだが、この声は猫そのものの鳴き声だった。 「ご主人様、そこは……!」 「弱いんだろ?」 口端を持ち上げながら、正博は指先で尻尾の付け根をとんとんと軽く叩く。叩かれるたびに、身体が反応していた。白い尻尾が左右に揺れ、白い猫耳が跳ねる。 「なあっ、うにゃぁ……!」 シロが文字通り猫のような声を上げた。 猫耳を触っていた左手を下ろし、右手と一緒に尻尾の付け根を攻める。 「なぁぅぁぅ……。ご主人様ッ……そこは……にゃあぁぁ」 首を左右に動かし甘い悲鳴を上げながら、シロは正博の手から逃れるように身体を捩らせている。しかし、手も足も枷で拘束されていて、正博の両手が身体を抱きしめているため、逃げることはできない。 シロは正博の攻めを無抵抗に受け入れることしかできなかった。 「なぁッ! 待って下さい……! うにゃぁ」 甘い吐息と鳴き声を漏らしながら、指の動きを甘受する。 三十秒ほど尻尾の根元を弄ってから、正博は手を止めた。 「あ……ぅ……」 赤く染まった頬と、上がった呼吸。胸が前後に動いている。 正博はシロの身体を持ち上げた。思いの外軽い身体。そのまま、こたつにうつ伏せで上半身を乗せる。両手腕を動かして体勢を直そうとしているが、枷によって拘束された身体は思うように動かない。 正博は音もなく右手を動かし、尻尾の付け根に触れた。 「うにゃ!」 シロが尻尾と猫耳を立てる。 だが、構わず正博は尻尾の付け根を手で撫でる。 「どう、シロ。気持ちいい?」 「あっ、ご主人様……。なあぁっ、付け根ばっかり、んにゃぁ、弄らないで下さい……。なああッ、にゃぁ。わたし、おかしくなっちゃいます……!」 身体を捩りながら、シロが顔を向けてきた。しかし、目隠しをされているため、正博の顔を見ることはできない。不安げに白い眉が傾いている。 口元の笑みを左手で隠しつつ、正博は平静を装って答えた。 「お仕置きしてって言ったの、シロじゃないか」 「そうですけど……ンにゃ!」 シロが身体を硬直させる。 正博の両手が尻尾を掴んでいた。両手で包み込むように尻尾のうちの一本を掴み、上下に扱くように撫でる。手を動かすたびに、硬い毛が痺れるような感覚を送ってきた。 さらに、正博はもう一本の尻尾を器用に口に咥える。シロの身体が一瞬動きを止めた。だが、それには構わず、前歯を動かし何度も甘噛みを繰り返す。 「ん、あっ……尻尾、ダメです……。んんっ」 逃げるように身体を動かしながら、シロが甘い声を漏らしていた。声では否定しているのに、尻尾はさらなる刺激を求めるように動いてる。 正博は尻尾を弄っていた右手を放し、シロの猫耳を摘んだ。 「にッ」 身体が一瞬固まる。 当たり前であるが、耳も動物にとっては敏感な器官だ。いきなり触られることは嫌がる。正博も普段はできるだけ猫耳には触らないようにしていた。 しかし、今は遠慮することもない。 くにくにと三角形の猫耳を弄りながら、二本の尻尾を口と右手で攻める。 「やっぱりいいなぁ、シロの耳は」 「ご主人様……あっ。そんなに、んっ、焦らさないで下さい……!」 切なげに、シロが言ってくる。今までずっと尻尾と猫耳を触られているだけで、他の場所には手を出していない。それがもどかしいのだろう。 しかし、正博は構わず視線を移した。 猫又。尻尾が二本に分かれているから猫又と言われる。先端だけが別れていたり、根元から分かれていたりと種類はあるとシロは言っていた。だが、どれも変わらぬ猫又らしい。シロは尻尾の根元から二股に分かれている。 「もしかして……」 尻尾の分かれ目に右手の指を触れさせた。 声もなく、シロの全身が硬直する。 尻尾の分かれ目を指先で触れる程度に撫でながら、正博は声を掛けた。 「ここ、弱い?」 「………」 震えながらきつく唇を閉じ、シロは首を微かに左右に動かす。緊張に猫耳と尻尾がぴんと立っていた。否定したいようだが、全く否定にはなっていない。 正博は分かれ目から指を放す。ついでに、両手と口を放した。 「うにゃぁ……」 全身から力を抜くシロ。背中を上下させるほど深い呼吸を繰り返しながら、猫耳と尻尾を垂らしていた。目隠しされた顔を正博へと向けながら、 「あ、あの……ご主人様……」 ぽんと、尻尾の付け根に右手を乗せる。 シロの肩が跳ねた。やはり、ここは敏感な部分らしい。 「んん、んッ!」 四本の指を動かして尻尾の付け根をくすぐると、シロが辛そうに身体をよじっている。だが、頬は赤く染まり、呼吸も乱れていた。全身がうっすらと汗ばんでいる。 しかし、正博は何事もなかったかのように問い返してた。 「何だい?」 「あの……。んんっ、尻尾と耳だけじゃなくて、あっ……他も触って下さい……」 苦しげなシロの頼み。さきほどから、尻尾と猫耳しか触っていない。既に発情しているシロにとっては、ひたすら焦らされているようなものだ。それは辛いだろう。 だが、正博はあっさりと告げた。尻尾の付け根をくすぐりながら。 「却下」 「ご主人様ぁ……」 悲しげなシロの声。他の部分も疼いているのだろう。両手を動かそうとするも手枷に阻まれ動けず、太股を摺り合わせようとするも、足枷に阻まれそれもままらない。 全身が快楽を求めているのが、手に取るように分かった。 「これは、お仕置きだから、今日は耳と尻尾しか触らないよ」 正博はシロの頬に左手を触れさせる。 「酷いですよォ……」 「お仕置きしてって言ったのは、シロじゃないか」 かぷ、と。 猫耳を口に含んだ。 「んっ……!」 シロが声を呑み込む。 正博は尻尾の付け根から手を放し、右手で尻尾の根元を緩く掴んだ。そのまま尻尾の裏側を引っ掻くように、人差し指と中指を動かす。 「んにゃあぁ! ご、ご主人様っ……。耳と尻尾が、んんっ……おかしいです、よ」 ぱたぱたと激しく動いている尻尾。尻尾は根元の方が敏感らしい。人間として発情した状態では、立派な性感帯として機能している。 「このまま、耳と尻尾だけでイケるように、調教でもしてみる?」 猫耳を口に含んだまま、正博はそう問いかけた。 「あっ、な、何言ってるんですか……! ご主人様は……んあっ」 「案外冗談じゃないかも」 慌てるシロの台詞に、そんな感想を漏らす。 正博はシロの猫耳から口を放し、左腕をシロの肩の下に差し入れた。コタツに突っ伏していた上半身を持ち上げる。膝立ちの状態で、正博と向き合った。 「にゃ?」 「いくよ」 正博は静かに告げてる。そして、尻尾を弄っていた指を、尻尾の分かれ目へと触れさせた。これから何をされるのかを悟ったらしく、シロが全身を硬直させる。 「ご主人様ッ。それ、ダメ……」 シロの肩を抱えた左手で猫耳を摘みつつ、正博はにっこりと笑った。拒否したくても、拒否できないようにするための拘束具である。 「ダメって言われてもやるから」 正博はシロの唇に自分の唇を重ねた。 同時に、右手の指で尻尾の分かれ目を撫でる。 「ンン――!」 シロの身体が跳ねた。 まるで痙攣するように全身の筋肉を収縮させつつ、背中を仰け反らせる。自分の意志とは無関係に動いている身体。ぴんと伸びた尻尾の毛は爆ぜるように逆立っていた。 「――!」 唇が震えている。予想以上に強い絶頂を迎えているようだった。 爆発する快感に耐えるように、身体をよじりつつ、何度も痙攣する。 手枷や足枷の鎖が鳴っていた。 正博はシロの唇から一度自分の唇を放す。 「……んなああぁぁぁッ! ご主人様ッ、わたし、おかしく……あっ、なああっ! うにゃああっ! やめて、やめて下さい、わたし変になっちゃい――」 悲鳴じみた声を上げるシロの唇を、正博は再び自分の唇で塞いだ。 絶頂が収まらないシロの咥内へと、舌を差し入れる。その舌に自分の舌を絡めるシロ。お互いに舌で相手の味を確認するような深い口付け。 その間も正博の右手はシロの尻尾の分かれ目を指で撫で、擦り、ひっかき、くすぐっている。猫耳を弄る手も止まらない。 その度にシロは何度も、身体を跳ねさせていた。 「ンンン……!」 正博はシロと舌を絡ませ合いながら、全身が溶けていくような錯覚を味わっていた。自分とシロが混じり合ってひとつになっていくような、不思議な感覚。 そうして、どれくらい時間が経っただろうか。 一分は経っていないはずだが、異様なほど長く感じた時間。 「にゃぁぁ……」 正博はシロの唇から自分の唇を放し、尻尾を弄っていた右手を放した。猫耳を弄っていた左手も放し、シロの両目を覆っていた目隠しを取る。 「ご主人様ぁ……」 黄色い瞳に涙を浮かべながら、シロが見つめてきた。真っ赤に染まった頬と、乱れた呼吸、凍えたように震える身体、猫耳と尻尾を垂らしている。 「酷いですよぉ」 「お仕置きだからね」 悪戯っぽく笑ってから、正博は再びシロの唇に自分の唇を重ねた。 |